第1話 ありふれた朝?
「はい、お兄ちゃん、あーーーんして??」
初夏の爽やかな朝には若干不釣り合いな、妹の甘ったるい声がリビングに響いた。妹は僕の口元まで手を差し出していた、が、しかし、僕は違和感を感じずにはいられない…。
さて、間違い探しのお時間である。
僕の名前は阿頼耶 識、やたらと画数の多い名前も昔は親と先祖を恨んだものだが、高校1年ともなれば慣れたもの。問題ない。
時計は2068年5月3日を示している。大丈夫だ、問題ない。
世相としてはインダストリアル系の家具が主流となっているが、リビングには母親の趣味である暖色系・木目調を基調とした家具が取り揃えられている。
母親も父親もいないが、今は出張中なので、妹と二人で食卓についてる。これも大丈夫、問題ない。
目の前には、日差しを受けて銀色に輝く肩までの髪を2つに結んだ妹が、小柄な体には少し大きすぎる母親のエプロンをつけて立っている。
阿頼耶 恵。妹ではあるが生まれ年は同じなので同級生である。白く透き通った肌、少し垂れ目気味なお目目は薄いルビーの色、陳腐な言い方になってしまうが、お人形のような美少女と言って、異論を挟む者は皆無だろう。
僕とは似ても似つかないが、それもそのはず、10年前に父親が再婚し、妹は母親の連れ子だったのだから。何も問題はない。
「お兄ちゃん、どうしたの??食べないの??」
考え込んでいた僕に、妹から問いかけの形をした催促が飛んでくる。さきほどから手を差し出したままであった。
スプーンやフォークではなく、手を、差し出しているのだ。白魚のような指からは一筋の血が流れている。そう、問題である。
「もう!服に付いたりしたら取れないんだから!お兄ちゃん!」
何度繰り返しても慣れない違和感を感じつつ、ぼくは妹の指から流れる血を舐め取る。本当もう色々と大問題だ。
あの日、僕が所謂吸血鬼と呼ばれる存在になった日から、僕の主食は妹の血液になっていたのだった。