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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第1章 『地獄にて友と出会う』
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9.群れる子供と変わる穴倉、そして

 上からやってきた子供は、キースと名乗った。

 正しくはキーサウテルという名らしい。この世界の人名は聞き慣れないものが多いので、覚えるのに苦労する。


 後の2人はフィオとエムリ。

 キースと会う切っ掛けとなった2人で、大きい方がフィオ、小さい方がエムリだ。

 2人は俺が闇月の札付きと知って、視線に若干の敵意が灯るようになった。

 ただ、警戒心はそれほどではない。


 2人にしてみれば、食い物の話をしただけで釣れた間抜けだからな。

 誰とも口を利かない札付きが、食い物の話に釣られて、自分を毛嫌いする者達の前に姿を現す。なんと浅ましい。


 見くびりや嘲りは丁度良い。

 しかし、この人数で大人を出し抜くのは、なかなかに容易なことではないぞ。


 ここから先は秘密の話だから、と。より穴倉で人の来ない場所に移動する。

 そして、封鎖された地上への入り口の前で、キースは用意していた策を披露した。


「この人数でまともに大人とやりあうのはまあ無理だろ。だからちょっとズルをする」


 廃棄される食糧の中から比較的状態のいいものを袋にまとめておくので、なんとか大人たちを掻い潜ってそれを回収しろ。


 それはなんとも厚顔無恥で、黒に近い灰色の卑怯極まりない策だった。


 アリなのかと尋ねたら、ナシではないとのこと。

 今回の果物の差し入れも、特別禁じられているわけではない。

 過去にやろうとした人間がいなかったのが理由だ。

 そんな身内が居るなら、そもそも穴倉には放り込まれないのだとか。


 どうやら俺たちは優秀な内通者を手に入れたようだ。


 なお、廃棄されるものをくすねて、直接俺たちに渡すのはルールに触れる可能性があるとのこと。

 まあ触れなくても、こいつはそれはやらんだろう。


 フィオとエムリはキースの言葉を額面通り受け取って、まともな食糧が得られることを喜んでいるが、目的はまったく別のところにある。

 餌だ。他の子供たちを釣るための。


 なんでそう思うかって?

 だってなあ。キースは離れたところでぼっちしてる俺しか見てないし。

 あの場で話に理解を示したのが俺だけなのだから、そうもなるか。

 つまるところ、こいつらを使って他の子供たちを釣ってこいと言っているのだ。


 いやあ末恐ろしいね。

 媚を売っておく価値のある怖さだ。求められる以上を売るつもりはないが。

 目立ちたくはないんだよ。こちらには後ろめたいことが多すぎるんでね。



 ◇◇◇



 キースの策は翌日から実行に移された。

 怪我をすることもあったが、成果は上々。俺たち3人の食糧事情は大幅に改善された。

 手口が大人たちに気取られると、袋の中にはゴミだけを詰めて、別のもので受け渡しを行う。

 最初は俺だけが矢面に立っていたのを、俺が警戒されるようになるとフィオやエムリに回収役を交代し安定させた。


 大人たちの意識は、どうしても札付きである俺に向く。

 あわよくばという暴力的な思惑もあるのだろう。

 だから俺は、大人たちを挑発するだけで飛び込まない。


 素晴らしい。ローリスクハイリターンだ。


 子供たちを囮にするつもりが、子供たちの囮になっていることに思うところがないでもないが。

 目立ってるだろって、これはいいんだよ。どうせ遅かれ早かれ回ってくる役所だ。


 そうして俺たちが成功を重ねると、徐々に自分もという子供が増えていく。

 始めは幼い子供ばかりでキースの負担を増すだけだったが、年長の者達が加わったことで方針は大きく転換される。

 かつてした話の通り、自分たちの力で大人たちから奪う形に変えていったのだ。


 キースによって様々な道具が穴倉に持ち込まれたことも大きい。

 今では、マシな食糧をとりあえず袋に詰め込んで、大人たちの居ない場所で分けるというやり方がなされている。

 その場所も日によって違う。分配もその場で全員に、という形ではなく、いくつかの班を作って手早く分けてから、安全な場所で個別にという形を取る。


 子供たちは、大人を出し抜くために必死で頭を使うようになった。

 俺はと言えば、相変わらず大人たちを挑発してはこそこそと逃げ回る役を続けている。

 食料の確保に動かないことから、分け前は少ないが、安全を確保した上でマシなものが食えるだけで十分だった。

 俺にとって、子供たちの間での力関係なんてのは、割とどうでもよいことだからな。


 もちろん、大人たちも大人たちでそんな状況を黙って許しているわけではない。

 まあ許さないだけだ。

 先々を見据えるようになった子供たちと、先がなく、その日その日を生きる大人たちでは、群れることへの認識がまるで違っていた。

 大人が個人的に暴力を振るおうと、子供たちは折れることを知らない。


 そんな生活が日常となってしばらく。

 キースが上で忙しいらしく、顔を出せなくなって幾日かしたその日。

 俺の命運はついに潰えた。


 男に捕まり手酷く嬲られていたフィオを、エムリに頼まれ、柄にもなく助けに動いたのがマズかった。

 邪魔をされた男は、俺を標的として襲いかかってきた。溜りに溜まった鬱憤を、札付きで晴らしたいという衝動に駆られたのだろう。

 幸いにして1発頬に拳を受けただけで事なきを得たのだが、逃げる時に掴まれたのだろう。服が半ばから裂けていた。


 そのことに気づいたのは、すべてが手遅れになった後だ。


「ヤトイ。な、なんで、ヤトイには聖印が、ないの?」


 大人から逃げ切った先で、エムリが震える声で、まるで怯えたように俺に尋ねた。


「なに言ってんだエム、リ……。うそ、だろ。なんで……」


 俺の胸元を目にしたフィオが後退る。

 ああ、どうしたものか。


 この場で2人を殺せば。


 そんな思考が頭の中を支配する。

 しかし俺がなにかを行動に移すよりも先に、2人は脱兎のごとく俺の前から逃げ去ってしまった。


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