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おとぎ話とひめの行方 3




 「ルーシュ…」


 黙り込んだボクをクユが戸惑いながら呼ぶ。

 その声にハッとしてボクは慌てて取り繕った。


 「あ、ご、ごめんなさい!ちょっとかんがえちゃって」


 

 伸びてきた手はすこしカサカサしていて、お仕事をする人の手で、でも頬を撫でていく感触はやさしかった。ほんの少し、ちくりとなにかがささる。痛いのにいたくない。


 羨むぐらいならクユみたいになれるように、そうなるためにどうすればいいか考えた方がいいってわかってるんだから、こんな考え方やめた方がいい。

 あ、そうだ!いつまでここにいなければならないのかわからないけど長期戦になりそうなんだから、しっかりみていよう。

 それがいい。

 それでいいじゃないか。




 



 「よろしくおねがいします」


 「こちらこそよろしくね」






 まず案内されたのは神殿奥の上位神官の部屋だった。エゼと言う人が言っていた、ラスタ様とかいう人の部屋だ。そこで簡単にこれからどう過ごせばいいのか、精霊に巻き込まれた人への支援方法だとかを説明され、ルーシュについて覚えていることなどを聴かる。最終的にしばらくは神殿所属の見習いとして務めることになった。



 そうなるだろうなと思ってたけど。



 今あいている部屋にとりあえず、ということで見習い神官の女の子――セスと同室になり、現在は三日目の朝である。エゼとクユは5つ隣の部屋だ。意外と近くて助かる。


 「ルーシュ!朝ごはん食べに行こう」

 「セス、そんなに慌てなくてもご飯は逃げていかないよ」

「ふふふ〜今日は具がいつもより多いってきいたの!急がなくっちゃ!」

 「え、そうなの?それは急がなきゃね」



 手早く準備を終えセスのあとを追いかける。窓もドアの鍵も締めた、と。最後の確認をして食堂へ向かう。先にテーブルをとって待っていてくれたセスにお礼を言ってトレーを受け取りに行くと、みんなちょっと気落ちした様子だった。


 「…?」

 「はいどうぞ」

 「ありがとうございます」


 配膳されたものを受け取る。7種類の薬草といくつかの根菜が入った粥だ。うーんなるほど、たしかに期待よりは落ちても仕方がない。けれど彩りで考えるなら十分な気がする。今が冬であるらしいことを含めれば、豪華と言ってもいいかも。

 食べざかりには物足りないかもしれないけど…。

 ちらり、と先程前に並んでいたグループをみる。彼らはまだまだこれからが成長期といった様子で背の低いこや細い子が多い。ボクも人のことはいえないが、もう少しなにかあればなと思ってしまった。


 「きゃ〜〜!にんじん!」

 テーブルに戻り腰を下ろすと、待ってましたとセスが祈りを捧げ、はしゃいだ声を上げる。あまりにも嬉しそうなのでこちらの頬まで緩んでしまった。かわいいなぁ。

 「にんじん、すきなの?」

 「だいすき!」


 ちょっと変わってるなこのこ。野菜が好きな子供ってメルだけじゃなかったのか。ボクも祈りを捧げ、粥を口に含む。ほのかな甘みとクタクタになった薬草の爽やかさがいい、と言えるのは大人になってからかなと思う味だ。言い換えれば粥はほのかに甘いのに、その甘みを薬草にかき消されている。あ、でも根菜は甘いかも。

 セスは好きなものを取っておく人らしく、にんじんの塊が端っこの方によけられている。にこにこと頬張って嬉しそうにしている姿がテレンスの妹に似てかわいい。

 ボクは食べ終えてしまったので、セスにはゆっくり食べているように伝えて先に部屋に戻ることにした。 


 「で、どうしろと」


 部屋に戻りベッドに腰掛けたまま、しばらく。ここ3日ほどの色々を振り返ってみたものの、よくわからない。いったい何を求められている?

 もうしばらく大人しくしておくべきなのか、こちらから行動してみるべきか…。情報収集だけならほとんど終わっている。イーナイーリスはモニスとかいう神官に誑かされた、ということが認められて重い処罰は免れたものの現在は軟禁状態であること、そしてそれをくだしたのはベレゼスとかいう人であること、モニスという神官は神殿を去ったこと。神殿を去った、と言ってはいるが実際はもう少しやみ深いものなんじゃないかな?消えた、とかいう声もチラホラきこえてくるし。あとイーナイーリスの軟禁!軟禁じゃなくてあれは監禁では?こっそり夜中にしのんでみたけど軟禁より厳重だし、無理矢理感あるし、生気がないし。

 あの状態がこれから何年も続くわけだ、そりゃあ心が病みに病んでとまれなくなっても仕方がないのでは?それイーナイーリスだけが悪いとは言えないだろ。

 たしかに現実の認識を歪めるのは良くないことだけど、歪めても最終的には手にかけなかったわけだし…不用意に子供を近づかせた王子がわる―――え、まってなにそれどういうこと。


 「こどもってなに」


 いやいやいやそこじゃなくて、え?

 おかしいじゃん、何年も続くとかなんでしってんの?仕方がないとかイーリスだけが悪いわけじゃないとか、そういうの知るためにこんなことになってたんじゃなかったの?


 「なんだよこれ、きもちわる」


 めまいがする。吐き気もする。

 ざわめくような囁きに近い耳鳴りがうるさく喚いて、口の中は泥を食べたみたいにぐちゃぐちゃだ。ねっとりした汗が肌を伝う感触も、錆の味がする口内も、ぐつぐつと泡が吹くような胃の痛みも、大きな鐘を鳴らされているような頭の痛みも、全てが遠く、全てが波だ。

 近づいて離れて、ボクをのみこもうとしている。




 「ぅ、っうぷ」


 手で口を抑えベッドのあしを掴んだ。崩れたからだを縮める。胃からせり上がってくる何かはピリピリとして弾けるみたいな気持ち悪さだ。味なんてかんじたくないけど酸っぱくて溶かされたあとの残りものが口内を満たす。吐き出したいが、吐き出せる場所がない。

 だめかも、とおもいながらボクは流しに四つん這いのまま進む。立ち上がって歩くより遅い。


 (あー、むりだなこれ)



 「ただいま~、るーしゅ…」


 ぱちり、セスと目が合う。


 「もう少し耐えられる?へいき?」


 コクリと頷いてみせると、セスは流しから紙袋を重ねて持ってきて、ボクの背中をさすってくれた。申し訳ないとは思うが吐き出してしまう。なんども吐くうちに気分の悪さはおさまっていった。


 「だいじょーぶ、じゃないよねえ」

 


 汚れたものを洗ったり片付けたり、部屋の換気をしたり、そういった一通りの処理を終えたセスがベッドに頭をのせて寄りかかっているボクの様子をみて、言う。

 セスは「おなかすいちゃうね」と笑った。それから三角を描くようにななめ、よこ、と指で空をなぞりぱちん、と手を叩く。さあっとハーブティーを淹れた時みたいな香りが部屋をかけぬけていった。驚くボクにセスは説明してくれる。


「あのねー、わたし浄めをするときハーブティーのこと考えちゃうの。だからどうしてもハーブティーのかおりになるんだよね」

 「そう、なんだ」

「そう!ルーシュは来たばっかだけど、すぐできるようになるよ!ルーシュはなんかきらきらしてるもん!きっと大丈夫」

 「…そうだといいな」



 というか浄めって。ボクのみていたものとは随分違うな。

 ここが古い時代なのは確定しているわけだから、変化があって当然だ。でも今のほうが昔より技術が落ちているのはなにか恣意的なものを感じる。


 「じゃあちょっとやってみよーよ!」

 「え」

「ルーシュって聖霊語の得意な音なに?相性的に花と水と風かな?セとハとミ?あっでも土も光もあるもんね!闇影木、上位もいけそう。というかなんかちょっとずれてるよね、ぶれてる気がする。ピントがあえばもっとわかると思うんだけど〜〜音の階段で得意そうなのはやっぱりセハミあたりかな!あとラとヴ」


 怒涛の勢いで、息継ぎすることなく一息でいいきったセスに押されてしまったボクに拾えたのは「せいれいご」「音の階段」そして「上位」などといういくつかの単語だ。意味のある強い音がした。


 「あ、の、よくわかんない」

「あっごめん、ルーシュはあんまりその、覚えてないんだよね…?わたし聖霊語が好きだからいっぱい話しちゃって、ごめん!あのね、聖霊語には対応する属性があるのは知ってるでしょ?それがわたしは音の階段みたいに見えるからそういうふうに話しちゃうの」


 さっぱりこちらの常識にあてはまらない。

 「せいれいご」は普通に考えると「精霊語」になるが音の響きが違う気がする。感覚的に、セスが発する言葉のほうは陽の光と同じ眩むようなきらめきと熱さがある。上位は話の流れからして属性の話、おそらく精霊のことだろう。神として崇めていた時代からそう経っていないであろうこの場所では言い回しが違うのも当然かもしれない。


 いや、断定するわけにはいかないか。


 「せいれいごってわたしあんまりできないんだけど」

「ぇ、そうなの?それでそんなにきらきらなの?〔天音の遍く在り処へお導きください〕どう?」


 「いみの、いるき、か、う?」


 「〔天音〕」

 「いみの」

 「[遍く]」

 「いみのけ?」


 聞き取れる音をそのまま発音してみるけれどなにかが違う。いびつな音に聴こえる。うまくいえないけれど、それこそ階段をきちんと登れていないような。


「一つづつならできてるけど、感覚がわかんなくなってるんだねえ。もしかしてイタズラされたの?それか巻き込まれ?ってあああごめんわたしったらまた!」

「…ううん、いいよ。巻き込まれちゃったんだって」



 ルーシュにとっては言いにくいことだけどボクにとってはそうじゃない。慣れてしまった。心配させるだろうとか思うことはあるけど…というか跡継ぎだから帰してもらわないと困るんだよな。ボクがいなくとも機能するように整えてるところだったんだから。国境付近の案件とかオルサディナとの鉱石取引、あとネルシアスへの研究資料提出とかが滞ると厄介だ。長引けば直々にあのひとが乗り込んでくる可能性もある。

 ま、そうなったら「ボクがいないとなりたたない」って理由でこっから出してくれるだろうし、それまでは情報収集でもなんでもして内側からの解決につとめるべきだ。記憶がおかしいって自覚してるのにわからないのもいい加減鬱陶しい。


 「ルーシュはお気に入りみたいだからなあ」


 羨むような声でセスが言う。


 「お気に入り?」

「そう、簡単に言ったら神子さまと同じかな。あのね、今代の神子さまってすっごい光ってるんだけど、今はあえないの。きっと悲しいことがあったんだよ!だからみこさまは悪くないのにみんな酷くて……わたし早く神官になって神子さま付きになるんだ!」


 黒い茨。迫りくる棘。

 靄が部屋を包んで形を作り、幸いを願う祈りは転じて災となり呪いを産んだ。濁った空気は淀みを広げやがて強固な呪いとして祝福を塗り替える。

 

「危なくないの?」


 突然流れ出した映像が、頭の中から消えてくれない。何度も何度も、深い悲しみと絶望を叩きこんで、消えない染みをつくろうとするかのように。打ち付けられるたび、ボクの心のなにかがえぐり取られていくような気になった。苦しい。なんだこれ、なに、きゅうに。


「ルーシュもみこさまを否定するの?ひどい。ひどいよ、なんで誰もイーナイーリス様の味方になってくださらないの?あんなに傷ついていらっしゃるのに!精霊様も妖精達も悲しんでるのに!大切な子を泣きやませたいってずっとずっとないてるのに!」

 「セス、やめて、セス、」


 セスが引き起こした現象だと視界の端の光と部屋を取り巻く風に吹かれながらボクは思った。飛ばされないようにベッドにしがみつくがバンッと開かられた窓をみて抵抗するほど激しくなる予感がした。これではまだまだ見習いのままだろう。セスだってそれぐらいわかっているだろうに。


 「セス!」


 ガタガタガタガタ!!ネジの緩んだ窓が酷い音をたてている。大きく開かれたそこへボクを落とそうとする風の流れに仕方がなく手を離して叫んだ。ルーシュとして取り繕う暇はない。

 どうせこれもボクに、そしてセスに必要なことなのだろう。

 

 

「セスはそのみこさまの味方なんじゃないのか!だったら早く側にいけるように制御できるようになるべきだ!」


 はっとセスの感情が落ち着くのを感じとって、ボクは窓から落ちていく。慌てて手を伸ばしてきたセスは目を見開いてなにか呟いていたけれど、風に打ち消されて声は聞き取れなかった。あーでも、たぶん。


 「ボクは君のいう王太子殿下ではないよ」



 地面に打ち付けられる衝撃に備え身体が勝手に妖精を呼び寄せる。口から紡がれる覚えのない音はセスが教えてくれた「せいれいご」とやらに響きがよく似ていて、ボクは目を閉じる。

 願うは次だ。

 次で会おうといわれたのだから、会うまでとばなければ。


 


























 ボクはいつまでも襲ってこないでいる衝撃にしびれを切らして目を開いた。どういうわけだか木の上に座っていて、離れたところに神殿の鐘がみえている。日の位置からして時刻は昼だろうか。身に纏った服も元のドレス姿に戻っていた。なんとなくいつにもまして幼いデザインのような気がするが、もとからこうだったような気もする。

 だけど髪は…どこかで解いたような覚えがあるのに、きっちり編まれていて、花もささっている。一つ引き抜いてみると、それは空や海や湖に浸していたかのような、あおい薔薇だった。王族だって特別なときしかお目にかかれないような代物だ。こんなものを持っていては今がいつの時代だったとしても怪しまれる。


 「そもそもここどこなんだよ」

 「どこってそりゃ、神殿だよ?」

 

 下からきこえた声はついさっきまできいていたものに似ていて、両手でしっかり木にしがみついてからボクは下を覗き込んだ。


 「ひさしぶり、ルーシュ。それとも王太子殿下、かな」

 

 少女だったセスはどういうわけか大人の女性になっていた。

 身につけた衣服も見習いではない。でもクユたちとも違うデザインのそれは見るからに階級が偉いのだろうと思わせるような装飾で、なんとなく、セスは神子付きになれたのだと思った。

 

 「おめでとう、セス」

「ありがとう、ルーシュ。ちょっとは聖霊語使えるようになったかな?」

「ボクにとっては君と別れたのはついさっきなんだけど」

「そうなの?でも使えるはずだよ。だってルーシュは呪われてるもん」


 あっけらかんと言い放たれた言葉にボクは目を見張る。

 呪われている、その通りだけど、そうではないはずなのに。


「あなたを待っていました。みこ様があなたを待っています」

 「イーリスが…?」


「エグランテリアの血でなければならないのです。…わたしはルーシュのほんとの名前を知らないし、ルーシュがどこから来たのかなんて知らない。でも、精霊の強い眼差しと妖精たちのイタズラを知っているよ。ねえルーシュ。あなたがなんだろうとかまわないから、みこさまをたすけて」


 

 軽くふわふわと浮くような喋りはこちらを軽く見積もっているようにも思える。それでも、眼差しがそうではなかったから。ただもう重りがないだけなのだとわかってしまう。

 ねえ、セス。

 セスの影はどこに行ってしまったの?



「…もとよりボクはイーリスと話をするために来たんだよ」













 セスの後ろを歩いて神殿の柱を抜けていく。天井の絵画は精霊から冠を戴く少女と花冠を戴く少年、春には舟いっぱいに花を乗せ夏には緑の木々から枝をいただき、秋には実りを感謝し踊りと歌を、そして落ち葉でそれらを焼いたりして精霊へと返す。冬は夏の枝で作った様々な物を舟に乗せとけた氷の川へ流す様が描かれている。青い薔薇がのびのびとつるを伸ばした廊下をひたすら歩くとやがて、厳重な扉の前に立った。

 何重にも重ねられた鎖というべき魔術。そしてひんやりと冷たい空気、ぴりぴりと肌を刺す嫌な感覚。

 この先は、あの鉄格子がある。


 「イーリス」


 扉に手を当てボクはイーリスに呼びかけた。


 「やっときたのね」


 返事が返ってくるとは思っていなかった。

 セスが出した特殊な鍵によって開かれた扉の向こうは予想通り、あの鉄格子の部屋で、だけどそれではおかしい。


 「…歪んでるね、王子も君も、セスも」


 わざわざ王宮の隔離された塔に閉じ込めて、神殿の隠された場所に空間を繋げるなんて面倒なこと、本来する必要ないのに王子はそれを選んだ。大人しく閉じ込められているはずがないのにイーリスは王子の望み通りここにとどまっている。

 そういうのを全部わかっててボクをここに連れてきたセス。


 「わたし、こわいのよ」


 震えるイーリスにセスはかけよっていき、華奢な体を抱きしめた。セスは大人になったのにイーリスはまだボクよりすこし年上ぐらいの見た目のままで、精霊の血というものを見せつけられたような気になる。


「何をしでかすかわからないの。だからここにいるの」

「それでいいわけ?」

「忘れてるわね、愛子。わたしはもう間違えたのよ」


 ボクを通り越してボクではない誰かをみようとするイーリスの目に、体が逃げていこうとする。言葉にできない寒気と見られているという感覚は覚えがあるもので、声が震えた。


「ユリアーナ様に手を出したの」


 「こどもじゃ、なくて?」



 呆れたというように肩をすくめてイーリスは立ち上がった。ふらふらとした足取りは踊るようで、現実から程遠い。


「まだ思い出さないのね。それだけ呪いが強まったと見るべきかしら。そうね、そうね、セスはどうするべきだと思う?」

「イーナイーリス様の思うようになさってください。セスはいつだってここにいますから」


 「そう。それじゃあちゃんと語りましょう」









 格子が歪む。壁も机も椅子も何もかもが歪んでいき、薄く引き伸ばされていく。


 たとえるならそれは紙のようだった。ボクらがいるのは本の上。イーリスに話した「優しい王子様」の題名がうっすら浮かんで溶けていく。次に浮かんだ文字を認識する前にボクの目は閃光に潰された。
















 昔々、4つの季節を神様が運んで来てくれる、特別な国がありました。

 その国の名前はカロルナ。


 精霊と呼ばれる自然の神を信仰し生きる人々は穏やかに暮らしていましたが、あるとき春を運ぶ神様が眠りにつき、国は緩やかに変化していくこととなります。


 カロルナは消え、新たにエグランテリアと呼ばれる国が生まれました。カロルナ最後の巫女が望んだ国は神様を待つ国ではなく、精霊とともに生きる国。

 精霊からの祝福は弱まりましたが、再び四季が巡るようになるとエグランテリアは穏やかな日々を取り戻します。



 これからはじまるのは精霊様の祝福に満ちた王子様の後悔の話。

 精霊になりきれなかった少女の自己犠牲とそれをゆるしてくれなかった嫌いで大好きな姉の話。

 姉になろうと努力して、それが一番傷つけたとわかった婚約者の願いを繋ぐ、君へいたるまでの話。


 これはそんなおとぎ話。




 終わりはまだ遠く、近く。



 


 むかしむかし、4つの季節が巡る国。

 エグランテリアという、精霊や妖精ととても仲の良い小さな国の王妃様と王様は、長いこと子供を欲しがっていました。ですが、子供は天からの授かり物です。

 ある日、王妃様が庭園の池のほとりを散歩していると、池の水上の花の妖精が、王妃様に言いました。


「あなた方の願いはもうすぐ叶えられます。

      かわいい王子様が産まれますよ」


 妖精のいった通り、ほどなく王子様が産まれました。

 王子様はヴァルトと名付けられ、たくさんの愛をもらい、たくさんの愛を返しました。


 賢く、優しく、謙虚。

 立派な王子様に成長した彼は湖のほとりで少女にであいます。



 精霊様の視線をそそがれる特別な女の子。

 彼女はイーナイーリスという、精霊の血を持つ巫女でした。



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