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ひめはおうじさまに嫌われたい 3

 

 ぷつりと意識が途絶え――目が覚めるとどういうわけか僕は森の中にいた。青々とした木々の葉、きらめくしずく、暗い空の向こうに落ちていく、ぼんやりとしたオレンジ色。それらは瞬きの間に消えていき、あとには森のざわめきだけが残っていた。


 じっと闇になれるまで待つ。薄らぼんやりと物の形がわかるようになるとあまりにも妖精の気配が薄いことに気がついた。人の気配がないのはわかるけれど、動物や妖精の気配まで薄いのはおかしなことだ。精霊獣と妖精が密輸の対象になりさらわれたときだってこんなにではなかったのに。



 「……おかしい」



 そもそも城の自室から突然森へ移動していたことからしておかしいので、なにか厄介なことがあることは確定している。


 考えられるものとして一番いいのは「妖精の力と僕の血が影響しあってたまたまよばれた」だけど、厄介なのは「なんらかの理由があって僕をよんだ」場合。


 なんにせよ情報を集めなくてはならないだろう。こういうとき手っ取り早いのは妖精を頼ることなのだが、気配が薄いことと己がまだ愛子として加護を取り戻したわけではないことが邪魔をしている。となれば――。



 「やるしかないよね」



 髪に挿した花を抜き取り、編込みをほどく。波打つ髪を少しとって茎にぐるぐる巻き付け、耳飾りの宝石に命令すればあら不思議、花がぽうと淡い光を纏い始めた。効果を維持できるのは5時間ほど。動物たちの気配の薄さが狩られたからだとすれば僕の身も危ないが、それにしてはざわめくような感覚もなく、むしろ穏やかなものですらあるので、今はまだ慌てふためく必要はないだろう。明かりがあるうちにここがどこの森かぐらいは特定してしまいたい。

 青薔薇が咲いているようなら間違いなくエグランテリアのどこかだと言えるし、空色であれば城のどこかだとわかる。ユリハラギがあればリケリビの森、精霊樹があればヴィーコナー、つややかな赤いベリーはシェントリーの森、とこんなふうに。


 歩くとパキリと音がする。枝がたくさん落ちているようなので、高い木が多いのだろう。音からすると細い枝、あとは脆い。一つ拾う。折って中の色を確認したり、表面を触ってみたりしたところ、中は白、表面はクリーム色、ざらざらしていて香りはもったりした甘さ、このことから予想するにたぶん、怕日紅(はくじつこう)の木だ。背が高く、紅い花と白い花を咲かせる。実は潰すと鮮やかな赤紫の汁をとることができ、染や紅につかわれる木。花からとった蒸留水で保湿するとうるつやなんだって侍女が言ってた。

 これがあるのはエグランテリアとウェルシュマイルが主なので、希望はみえてきたかな。もう少し絞れるものがあるといいのだけど。僕はひとまず、手元の枝をはなし石を拾うことにした。


 


 どれくらいそうしていたのか、ふと明かりがきえて僕は周囲をみまわした。

 

 どうにも気が付かぬ間に深くまで入ってしまったようだ。しかし明かりも消えた今となっては後悔してももう遅い。


 



 どうしたものだろうか。

 


 どうするもなにも下手に動いてはいけないのだけど。もちろん獣がいることを考えれば音をたてるのもよくはない。愛子だったときはもっと楽だったのに。



 「…?」



 そう、愛子だったなら、僕はもうとっくに"おかしい"理由を見つけて帰っていた。できることの範囲ならなんとか手を尽くしたかもしれないし、そもそも獣に襲われる心配なんてしない。だって僕には友がいて、歌があった。





 歌ならどうにかなるのでは?



 頭の中をひっくり返して外と混ざる、溶ける、そのためだけに作られた歌を探し出す。たりないものを補う補助の歌は妖精、精霊に愛され、魅入られてしまったものほど徹底的に叩き込まれるもの。これを知っているのと知らないのとでは祈りと願いの精度が違うから。


 思い出せ、思い出せ、最初の音はシ、その次はソ、ええとええと、シソミドレファミ!






















 『なんのおうた?』


 『めるゔぃあ!あのね、えっと、まざるの!』


 『なあに、それ』


 『んーと、えーと』



 説明するのは難しくて、僕はその子の手をとった。そのまま森の奥へと歌をつむぐ。これが一番わかりやすいから。















 『とーおくどこかへーふーわりとかおるー


  ロカルファのはな  みちびく音にはぐれぬように――』








 覚えやすく、何よりも音が簡単なそれは精霊の言葉に馴染みないものでもすぐに覚えられるほどで、僕と歌ううちに、彼女もすっかり覚え歌えるようになっていた。僕がその子に歌を教え、その子もまた僕に歌や言葉を教えてくれた。それは天上の者たちの言葉と、それにつながるうた。



 そんな情景をまぶたの向こうに描いて、僕はそっと息を吐き出す。なんてものを思い出すのかと文句を言ってやりたいところではあるが、その相手はここにはいない。この先、おそらくもっと奥で今も彼を待っている。だから、はやく行かなければならないのだ。






 心を落ち着けて、僕は思い描く音と声を外へ表す。それこそが術にするための条件。響く歌にあわせて、消えた明かりが点滅しはじめる。どこか覚えのある感覚。いつだって身近に感じていた、かつての、それ。


 ぱちぱちと爆ぜるような小さな痛みが肌をさす。どこからともなく風が吹き髪を遊ばせて去っていく。ぱちぱちぱち、ちかちかと消えては光る。かよわい明かりは頼りない。それでもここで消す訳にはいかないから、より強く願う。


 ぎゅっと目を閉じ願う。



 ぶわり、まぶたのむこうがオレンジに染まった。

 からだを浮かしてしまいそうな風に吹かれ流される。それが止むと、こんどはひらりひらりと頬をかすめていく柔らかな感触。


 おそるおそる目を開けると、そこは真昼だった。


 薔薇が木々に巻き付いて花ひらいている。はらはらと降る花びらは落ちているのに地につかず、足元には見知らぬ花々が咲き誇り、それもまた空へ空へと舞っていく。



 花畑などなかったはず。

 それに、いまは夜だったのだ。気配もまだ夜。

 夜の気配を纏いながら昼を浮かべる森。


 「みつけた」




 "おかしいこと"の理由。


 こんなことがありえるのは状況から考えても妖精区以外にはありえない。なにより、妖精区だと思えば森の奥まで来てしまったことも、呼ばれたことも納得がいく。

 



 妖精区は彼らの世界と繋がる境だ。当然、他の生物の気配は薄い。



 どう考えても厄介な場合の状況だ。でもだからこそわかりやすい。



 これほど力の強い妖精区ならエグランテリア国内で間違いない、となれば僕の感は正しいということだ。精霊に愛され、妖精たちを魅入る女の子。その子が僕を呼んでいる。


 意識がのまれここに来るまでの間きいた声は、みたものは、たしかにあったはずの日々。それを通して僕を呼んだというのならまだ間に合うのだ。











 今度こそ、ボクはメルもテレンスも大切な民たちだって巻き込まないでいられる。



 だってあの子は僕を呼んだんだ。ほかはお呼びじゃない。それなら明るい今のうちに周囲の把握にいそしむこととしよう。



 明確な何かがあればボクではなくたって迷わないでいい。今の僕でもじゅうふんだ。ここがどこなのか、それをはっきりさせよう。


 






 そういうわけで石を拾い葉を拾い枝を折り葉をちぎり、木に抱きついたり登ったり、石と石をぶつけてみたり、他にも妖精たちに呼びかけたり、古語を唱えてみたり歌ったり。

 石と石をぶつけ薔薇の花びらでつつみ、簡単な助力をこうてみたり。



 とにかく場所を特定するために何でもやってみた。座学を覚えているというのは頼りになるらしく石と石は重ね合わせた先から青く染まっていく。灰色が青へと変わるのは青薔薇に宿る妖精や精霊たちの息吹のおかげだ。そして、そんな変わった石のこともちゃんと授業で習っている。


 この石は昔、精霊様に祈りと感謝を捧げる舞の衣装に使う染料だった。それもどういうわけか、みこにしか染めることができない特殊な染料だった。それがあるということは、ここはヴィーコナーの森か、かつての王族、ユゼ一族のいたセルーカルーの森である。

 

 こうして候補を2つに絞ることはできたのだから、がんばった方ではないだろうか。おかげですっかり朝日が登り森がきらめいている。なんて眩しいのだろう。



 深い森の中で眩しいと思えることがまずおかしいのだけど。眩しいと思えた、それこそが最後の決め手だった。

   






  


  あきらかに呼ばれた状況、国内の深い森で妖精区があり、森の最深部がこうも明るい。となればそこは禁忌と定められた「セルーカルーの森」でしかない。だってここは、王族とユゼ、そしてみこにのみゆるされた精霊と妖精の縄張り。


 城を囲む森のどこかとつながる、人が立ち入るべきではない領域の向こう側。




 意識が途切れる前のことを思えば、僕は引き寄せられた、もしくは呼び寄せられた。これは間違いない。


 でなければ僕はここにたどり着けないし、突然転移するなどということもおこりえない。


 状況から言えば僕がよばれ、その手を取ったことは明白。

 それでも、あのこをひとりにはしておけないと考えたのは僕ではない。それは今の僕じゃない。そんなの言い訳にはならないと言われてしまえばその通りである。



 それならもうしかたがない。だってボクは選んだ。


 それはボクが選んだことだけど、僕がとるべき選択で、僕しかもう選べない。そのことをわかっている。




 いつまでも逃げ続けられるとは思うなよ、と無理やり前を向かされたような気分である。




 おとぎ話の終わりが、もう迫ってきている。










 明るいと思えたはずの森、そのさらに奥へと進んでいけば頭上の枝がどんどん葉を増やし入り組んでいく。溢れる日は優しいのに、時の流れを失った静寂と揺れることのない木漏れ日に警戒を緩めるなと警鐘がなり続けている。そうしてどれほど歩いたのか、ようやく目に入ったもの。



 かつて城の側にあった塔。

 棘が巻きつきところどころ欠けた石造りのそれ。

 おとぎ話ではもっと明るくかわいく、柔らかく描かれているというのに。

 

 あの場所はそんなに優しいものではない。


 つめたく鋭く突き刺すような緊張感ただよう、牢獄そのもの。出入り口のないそこに入るには、王家の血と彼らに認められるだけの才がなければならない。


 だってそこにいるのは、彼らの大切な大切な、愛おしいこ。慈しむべきかわいいこ。


 かつて僕らが、みことよんだもの。



 あの塔は、城の側にあって、どこにもない。

 

 おとぎ話のほんとうなんて、絵本じゃ教えてくれないから。





 だから、ボクがあの場によばれたことに意味があるとわかっていても、理由まではわからないのだ。


 ボクならきっとわかっていたのだろうけど。


 ボクではない僕には、よばれたことの意味も、選ぶべき道も、わかりはしない。






 ほんとうはわかっている。でもわからない。そんな矛盾の原点は、その大切で愛らしくいとしい、かわいいかわいい、かれらのこ。






























 「なんで」



 「どうして、」


 「どうして、わたしじゃないの…?」



 消えてしまいそうなその声は、雨音に混ざって潰されていく。それでも、ボクには聴こえた。


 苦しそうな声に泣いているのかと思った。悲しげで、投げやりで、そして誰かを渇望するその声は遠く、遠くから雨音に混じって静かに、密かに聴こえてくる。ボクの大好きなあのこに似ていて、放っておけなかった。だから、ボクはその場所にたどり着いた。




 手を伸ばして僕は選んだ。ボクにとってそれは当然のことだった。かれらに求められ、民にのぞまれ、そうあるべきだと振る舞ってきたボクにとって、そこにたいしたいみなどない。



 「どうしたの?」


 触れた心に熱がやどる。じわりとしずくが浮かび吐息が混ざる。

 精密につくられたお人形のような無機質さと穢されることのない美しさから彼女がボクと同じものではないと本能でわかる。思わず傅いてしまいたくなる。膝を折ることがゆるされない、ということに思うことなどなかったのに。彼女の側で彼女を見上げることができないというただそれだけのことが酷く苛立たしい。


 「……」



 でも、ボクにはメルヴィアがいる。



 「ヴァルト?ヴァルト、なの…?」


 どくんと心臓がはねた。

 ボクの名前ではない。そのはずなのに"呼ばれている"と強く感じる。「そうだよ」と返事をして今すぐその涙をぬぐってやりたくなる。泣かないでと笑いかけて、安心させてあげたいと思うのだ。ボクがそうしたいのはメルヴィアだけのはずなのに。それなのに、どうして。


 「ヴァルト、ゔぁると、ごめんなさい、ごめんなさい私こんなつもりじゃ、あんな、こんなことになるだなんて」


 「ただ、もう、くるしかったの。くるしくて、にげたかったの。ごめんなさい、ごめんなさいゆるしてなんていわないから、だから、だからもう一度、」




 「もういちどだけ、わたしを」


 「わたしを、みて」






 黒い霧とともに茨が繁る。それらはこちらに向かって伸びてきて、すっかり囲まれていた。ボクと彼女、二人だけの空間は半円、ドームのような形をしている。僕はただ眺めて「閉じ込められたな」と思うだけ。だってこうなるだろうってわかってたから。なんでか、確信があったのだ。




 










































 「イーナ様」



 ぼう、と格子の嵌められた窓の向こうをみていた少女が食事を持った女の方を振り返る。そして女の後ろに立つ人物をその目に映すと、彼女の目に生気が宿った。そのまま小走りでそちらへ駆け寄っていく。その足取りはおぼつかない。それでもかけて、彼女は笑った。



 「ヴァルトさま!」



 その姿にボクは胸がいたんだ。だってボクはこの先を知っている。決して同じものを返してくれない王子と、そんな王子を好きになってしまった愛子の話を。





 「イーリス、なにをみていたんだ?」



 女が食事の用意をする間、ヴァルトと呼ばれた男は少女へいくつか質問をする。それは男と少女の間では当たり前のやり取りだけど、それを知らないものからすればすぐに勘づくことだろう。これは尋問に近いなにかであると。

 



 「空を」



 イーナがそう言ってまた窓の方を向く。それにつられてボクもそちらをみやる。格子の向こうでは黒髪の女が羽の生えた馬に乗り騎士たちと剣を交えていた。空中戦の演習だろう。そして、それをみた男が表情を和らげどこか楽しそうに、けれど不満げに微笑むのをボクはみた。イーナはまだ外をみていて男の表情の変化には気がついていない。それにほっとしてボクはそっと、格子窓のカーテンをひいた。それだけで室内は先程より暗くなってしまったけれど、きっとそのほうがいい。




 「そろそろ食事にしよう、イーリス。君はまたセロリを残したときいたけど」


 「だってヴァルトさま、セロリは食べ物じゃないですよ」






 他愛もない、穏やかな食事風景の影で、女がイーナのデザートに薬を混ぜる。このときのイーナはもうすでに心を病んでいて、それは仕方のないことなのかもしれなかった。


 食事を終え、またいくつか質問を重ね、話す。男の話す内容はどれも当たり障りのないことばかりであきらかにイーナに情報を与えないようにしているのだとわかる。それでもそれを考える思考力をイーナはもう持たない。


 「わたし、ヴァルトさまとおはなしできてうれしい。ヴァルトさま、ヴァルトさま、ふふ、またイーナイーリスに会いにきて」



 ふわふわと微笑んで夢を見る。それを男は否定しない。

 けれど――微笑みが立ち消えイーナの目が濁るとヴァルトは素早く女を格子扉からだし神殿へ人を呼ぶように伝え扉をしめた。



 「ヴァルトさま、ユリアーナさまは?ユリアーナさまが好きなの?だからだめなの?なんで?わたしは?」


 「イーリス」



 呼びかける声はとても優しい。それなのに、黒髪の女へ向けたものとは比べようもないのだろうとわかってしまう。それはきっと、イーナも同じだろう。





 『ボクをよんだの?』




 ゆらりと揺らめくイーナはヴァルトへ手を伸ばし、そしてボクをみた。



 「イーリス?」



 イーナが男から離れていく。そうして窓の近く、ボクの方へとよってくる。その間も彼女は「ヴァルトさま」と呼び続けている。それを男は不可解なものをみたといった顔で観察してくる。



 「ヴァルト、ヴァルト、ねぇ、おねがい」





 「……そうか」




 「ねぇ、おねがいなの。おねがい」







 ふ、と男――ヴァルトという呪いの原因たる王子は笑って、イーナの視線を辿った。そしてボクをみる。彼もまた愛子だ。



 「わたしを、みて」






 「それは僕じゃないよイーリス。ヴァルトは僕だ、その子は僕ではない。そうだろう?」





 『ボクを呼んだの、イーナ』


 「あ、あ、あ、よんだ、よんだわ」



 ふらりふらりとイーナがボクに近づいてくる。もうあとすこし。



 「だめだよ」





 強くはないのに、イーナはボクヘ伸ばしかけた手をぱたりと落とし、重力に負けたというように床へ崩れた。石の床に倒れ込む前にと手を伸ばしたボクよりもはやくヴァルトが彼女のからだを抱き上げる。





 「君もだ、愛子」



 『……』



 イーナをベッドにおろし、そのまま腰掛けた彼はイーナの頬にかかった髪を流してやり、優しく布団をかけて頭を撫で子守唄まで歌い始めた。それほど、気にかけている。それでも、この王子は彼女を選んだりしない。




 「どこから来た?」


 『セルーカルーでしょ』



 他につながる場所などあってたまるか。



 「そうか、」



 ざあ、風が吹きカーテンが膨らむ。それと同時にばたばたと人の走る音がして、それを察知した彼は塔へ結界をはったようだった。光が散ってゆく。もう失われた精霊語で紡がれた術の完成度をみればこの王子のもつ力などすぐにわかる。が、悔しい。きっとすごい努力だった。きっとすごい王だった。でも、この王子は人の心の動きにとんと鈍くて最後までほんとうの意味で彼女の心をすくいあげることはできなかった。それでいてよくできた、素晴らしい王だったのだ。民を不幸にしない素晴らしい王だった。だから嫌いなんだ。ボクは、だからこの絵本からでてきたみたいな完璧な王子さまが、大嫌いなのだ。




 「ヴァルト!!」


 ぱんっと激しい音がして結界をすり抜けて現れた黒髪の女。それは王子の婚約者。

 王子がはったきれいな結界が見事にほつれている。それをやってのけた女はけれど、イーナを起こさないように配慮していて、後ろに連れてきた精霊仕たちにテキパキと指示をだす。それから王子の頬を両手で挟んで「目をそらすな」と命令している。なるほど、これまたわかりやすい力関係だ。




 「またここに来て!イーナイーリス嬢が心配だったのはわかるが!私もお前が心配なんだぞ!大体イーナ嬢にあうなら私にも会わせろ!私だってイーナ嬢と話したいしお茶したい!ずるくないかおまえ!?」






























  その言葉に目を見開いて、婚約者の姿だけをその瞳にうつして、王子は微笑む。



 だからやっぱり、この呪いはどうしようもないのだ。だって此れは呪われたって仕方がない。少なくともボクには、この呪いを否定することはできないから。









 これはあまりにも、真っ当な王子様だった王子と、そんな彼を好きになってしまったかわいそうで強くて優しい愛子のみこ、そしてそんな二人のことが大切で好きな、やっぱり王子と同じくらいまっすぐな王子の婚約者のおとぎ話。


 そんなおとぎ話の終わりに大切なみこのことだけを考えた精霊が紡いだ呪いなんだから。

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