9 おっさんはぶち壊す
(ガムス、留守番はもういらないみたいだね。
私もいっしょに行く?)
(いや、ドラゴンが繰り出すほどのものでもないだろ。
それに、シルバはヘタレだから戦闘に連れて行ってもあてにできない)
(そんなことないよ、私を傷つけられる人間とかガムス以外に滅多にいないから。
痛いことさえなかったら、私はすごく強んだから)
もう言ってる内容がすでにヘタレすぎだから。
(もしかしたら、この街から逃げ出すことになるかもしれないから、しっかり食べてあとは体を休めておけ)
(わかった。食べるのと寝るのは得意だよ)
シルバはいつもそれしかしてないからな。
さーて、念話してる間に城の門まで来ちまったか。
じゃ、ファンタちゃん救出作戦を開始しようか。
俺はアイテムボックスからいつもの長剣でなく、ハンマーを取り出した。
長い柄のついたハンマーはゴーレムとかを相手にするときには重宝する。
叩き壊すことに専念したこの武器、結構俺は気に入ってる。
反動をつけて門にハンマーを叩きつけると、一撃で大きな穴があいた。
なんだ、この門、作りが柔っこいな。
魔王城の門は5回ハンマーを叩きつけてやっと人が通れる程度の穴があいたくらいだったぞ。
まぁ魔王城と地方領主の城を比べでもしかたないか。
なんかわらわらと騎士が這い出てきやがったな。
「待て、ここがアドウェイン伯爵の城と知っての狼藉か」
「悪かったな、呼び鈴がなかったからノックしたら壊れちまった。
ここのゲンダーってガキが可愛い女の子を拐ったというから迎えにきただけだ。
用が終わったらさっさと帰るから、どいてくれ」
「キサマのような狼藉者をおめおめ逃すものか。投降すれば命は助けてやる」
「どうも話が合わないようだな。
じゃ、勝手に家探しさせてもらう」
「待て」
「お前らも宮仕えで大変だってことはわかってるから、手出ししなければ何もしない。
だが、俺のジャマをするなら殺す。
二度は言わない」
それ以降に俺の前に立ったやつは問答無用で、ハンマーで吹っ飛ばした。
プレートメイル着込んだ騎士にはハンマーのほうが効き目があるな。
おー、城をぶち壊すためのハンマーだったが意外とお役立ちだ。
騎士たちは遠巻きに俺を囲んでるだけで手出ししなくなった。
本当に宮仕えってのは大変だよな。
自分が仕えるほうに非があるとわかっていてもそうは言えないし、かと言ってそんな状況でムダに命とか捨てたくないしな。
まぁ殺すって言ったけど、結構手加減してるんだよ。
さっき吹っ飛ばした連中だって全身打撲と骨折しまくりだろうが、ほとんど生きてると思うぞ。
回復呪文もらってるみたいだから、きっと生きてるんだろう。
さて、城の扉までたどり着いたか。
まぁこれも壊すしかないな。
扉をハンマーでぶち壊して城の中に入る。
んーどうやって探すかな、1部屋ずつ探すしかないか。
手近なところから壁をぶち破りつつ、家探しを始める。
どうでもいいが城のあちこちに美術品やら何やらが多いな。これ全部本物か?
まぁ建物は壊しても美術品は傷つけないように気をつけよう。
壁の反対側にかかっていた絵とかは運が悪かったとあきらめてもらうしかないが。
こんな気配りしてる俺、優しいよな。
「お待ち下さい」
お、数部屋壊したところで、やっとちゃんと話ができそうなやつがでてきたか?
「このようなことができるのは、英雄のガムス殿以外にいないと思っています。
ご本人で間違いないでしょうか?」
んー、あの爺さんは王城で見た記憶のある顔だな。
あれがアドウェイン伯爵ってわけか。
「おー、間違いないぞ」
「拐われた娘は保護しました。
何卒破壊活動はそれ以上お控えください」
見渡すと確かにファンタちゃんに間違いないようだ。
横に立ってる、青白い顔したガキがゲンダーか?
「おっちゃーん」
ファンタちゃんは俺のほうに駆けてきた。
ちゃんと俺のことを覚えていたようだ。さすがお姉さんと客商売してるだけのことはある。
「ファンタちゃん、酷いことされなかったか」
「うん、怖かったけど、お菓子もらってただけで何もされてないよ」
「それはよかった」
俺はファンタちゃんの頭をなでた。
「この娘に何かする前でよかった。
もし何かあれば、お前のとこのガキの命も取らないといけないところだった」
「では、孫のことは見逃してくださると」
「んー、無罪放免ってわけにはいかないな。
ファンタちゃん、ここに連れてきたのはこのお兄ちゃんかな?」
「うん、そうだよ」
「じゃ、いい子だからお目々つぶってな」
「はーい」
ファンタちゃんが可愛らしく返事をして目をつぶったのを確認。
「お前がゲンダーだな?」
「は、はいそうです」
間違えて違う人にやっちゃったら大変だからな。
確認は大事だろう。
俺はハンマーをアイテムボックスにしまい、代わりに棍を取り出した。
そしてゲンダーの足を払って床に転がすと、やつの股間めがけて棍を振り下ろした。
「これで勘弁してやる。
文句があれば好きなだけ兵を連れて俺を捕まえに来るんだな」
これで、もう小さい子に悪さはできない体になっただろう。
「滅相もない。
我が家を破滅させるわけにはいきません」
ゲンダーが手当のため連れて行かれる横で、アドウェイン伯爵は苦々しげにそうつぶやくのだった。




