7 おっさんは宿屋を気に入る
旅は順調。
それにしてもヒマだな、盗賊とかドラゴンとか出ないかな?
いい暇つぶしになるんだが。
特に面白いこともなく大きな街についた。
このあたりは魔族の侵攻の影響を受けなかったらしい。運のいい街だ。
2-3日この街で遊ぶことにするか。
いい宿はないかなと物色。
俺の宿屋選びの勘は自分でも驚くほどあたる。
いろいろ物色した結果、1つの宿屋に決めた。
ちょっと古ぼけてはいるが、それなりに趣のあるたたずまい。
俺の勘では料理が美味そうだ。
宿屋に入って声をかけると、まだ若い女性が応対してくれた。
美人って感じではないが、表情豊かでとっても魅力的だ。
少女から大人の女性に変わりつつあるって感じか。
はっきり言って俺の好みだ。
「いらっしゃいませ、お1人ですか?」
「あー、10日間ほど泊まれるか」
俺は予定を急遽変更した。ここはゆっくりさせてもらおうか。
「朝晩の食事込みで1泊銀貨2枚になります」
「じゃ、前金で払っておくよ」
俺は金貨2枚を出した。
「では部屋はこちらになります」
「それより先に、馬を厩に繋ぎたいのだが」
「やっておきますよ」
「いや、俺の馬は他の人の言うことを聞かないからな」
「そうなんですか、ではいっしょにまいりましょう。
こちらです」
シルバを厩につなぐと、さっそく干し草を食べ始めた。
よく考えてみると、こいつドラゴンだよな。
干し草とか普通に食べてるけど大丈夫なのか?
奴隷契約してから念話が使えるようになってるから尋ねてみたところ。ドラゴンはもともと雑食とのこと。
馬の姿では、馬の食事を美味しく感じるようで、ここの干し草は最上級らしい。
満足してるようで何よりだ。
宿屋は思ったより小さそうだ。
客用の部屋は全部で4つしかない。
「他に人はいないのですか?」
「妹が手伝ってはくれますが、まだ小さいので。
いろいろ行き届かない点もあるかもしれませんが、何でも気軽におっしゃってください」
2階の部屋の方に案内されたが、こちらも満足の行く部屋だった。意外と狭くはなさそうだ。
テーブルと椅子1つ、それにベッドがあるだけの簡素な部屋だ。家具は高級そうではないが落ち着いたデザインで使い勝手はよさそう、部屋は清潔でシーツもしっかり洗濯されている。
今回も俺の宿屋選びの勘は当たったようだな。
何より先程の女性が従業員でなく、主人だったというのがポイントが高いな。
そして夕食。
食事は食堂で取る形式のようだ。
ナニコレ……
どうしてこんな安物っぽい素材ばかり使ってこんな美味しい料理が作れるんだよ。
こんなの王都でも食べたことないぞ。
満足なんてものじゃない。
食事後、受付のカウンターにいる女性に最大限の賛辞を送った。
「ありがとうございます。
満足していただいたようでとても嬉しいです」
ヒマそうだったので、そのまま話を聞いてみると、彼女の名前はアルタ、18歳で独身。
この宿屋はもともと両親が経営していたのだが、その両親ともに2年前に亡くなってしまったそうだ。
今は12歳の妹と2人暮らし。
それ以降、アルタはこの宿屋を妹に手伝ってもらって、切り盛りしているようだ。
どこにでもあるような話かもしれないけど、感心なものだ。
「俺は旅の戦士で力しか取り柄がないが、困ったことがあったらなんでも言ってくれ」
この時は気軽にそう言ったんだけどな。
まさかこの一言が、あんなことになるとは思いもしなかったぜ。
下心は十分にあったがな。
俺は部屋に戻ると、シルバに念話で話しかけ、部屋に来るように伝えた。
俺のところへいつでも瞬間転移できるとか、こいついろいろ便利すぎるな。
それにしても、人間の姿になると裸ってのはどうにかしないといけないか?
とりあえず、シルバを人間の姿で呼ぶ時は、する時だけだから別に困らないか。