2 おっさんは騎士をやめる
本日2回めの投稿です。
俺たちは王国へ凱旋帰還した。
華々しい歓迎を受け、連日、祝賀会は続き、俺たちは主役で賞賛に包まれていた。
街も祭りムード一色だ。
皆の顔も明るい。
もう魔族の襲撃を恐れることはない。
国土は荒廃してしまい、多くの国民に犠牲者は出たが、これからは復興の時。
時間はかかるかもしれないが、皆必ず復興すると信じている。
俺も正直鼻が高い。
皆の期待に答えて魔王を倒すことができた。
俺たち4人は英雄と呼ばれるようになった。
物語ならこれでめでたしめでたしってやつだ。
だが、物語の登場人物たちはこれからも人生が続いていく。
皆幸せに暮らしましたとさ、と終わるわけにはいかないんだ。
勇者カインは祝賀会の途中で王女様との婚約が発表された。
1ヶ月後に結婚式という王家の常識では考えられないくらい忙しい日程が組まれている。
まぁ、5年も待たせたわけで、年上の王女様の適齢期が過ぎてしまってるからな。
それに、こういう国家的にめでたいことは復興の勢いをつけるためにもいいことなんだろう。
僧侶ジャネスは司祭となるようだ。20代の司祭ってのは異例の早さらしい。
将来の司教間違いなしとの評判だ。ヤツの生真面目だが明るい人柄なら皆から慕われることは間違いないだろう。
魔法使いアンナは王国魔法学校の教授となるらしい。王宮魔術師なんていう重要な役職も勧められたようだが、辞退したらしい。
まぁあまり重要なポストにいると寿引退するのが難しいだろうからな。
そして俺なんだが近衛騎士団の団長にならないかという話が来ていたが丁重にお断りした。他にも将軍職の話があったようだが、それも正式に話が来る前に断った。
いろいろな人からあれこれ言われるが、引き受ける気にはなれない。
そんな時にジャネスとアンナが訪ねてきた。
「ガムス、騎士団長や将軍の話、全部断ってるそうじゃないか」
「なんだ、今度はお前たちを使って俺に役目を押し付けようっていうのか?」
「いい話だと思うんだけどな」
「おいおい、考えてみろよ。
脳筋な俺に騎士団長とか将軍とか務まると思うか?
俺はただの戦士で、それ以外にできるないよ」
「その脳筋ってのも怪しいと思うんだよね。
後ろから見てるとわかっちゃうよ。
おっさんがずいぶんいろいろ考えて行動してるくらい」
アンナがニヤニヤとそんなことを言う。
「ふん、知らねぇよ」
「それに脳筋な将軍も面白そうだけどな。
突撃っておっさんが先頭になって突っ込んで行ったら大抵の敵は撃破しちゃいそうだ」
ジャネスが無責任なこと言い出す。
ちょっとその光景を想像してみて、面白そうだなって思わないこともないな、確かに。
「お前たちにだから言うんだが、王国に仕えるってこと自体にちょっと疲れちまったみたいなんだ。
もう誰かに仕えるのでなく、自由に生きていくってのも悪くないんじゃないかなって。
これからは復興の時代だ。
だけど、そんな時代の王国にいて俺の力を奮う場もなさそうだからな」
「騎士団長とかなれば、おっさんもモテモテなのに」
「別に騎士やめても俺はモテるぞ?」
「そう?」
アンナが失礼なこと言いやがる。
「カインの結婚式だけ見届けたら俺は去るつもりだ。
あ、お前らのはいつだ?」
「え、なんのことだ?」
ジャミスはとぼけてるし、アンナは恥ずかしそうにもじもじしてるし。
「とぼけ方とか下手すぎだ」
「……俺たちはもうしばらく復興見届けてからと……」
「そうか、お前たちの結婚式には是非出たいから、それだけは戻ってくるよ」
勇者カインと王女様の結婚式を祝福した翌日、俺はこっそりと旅立った。
ジャネスとアンナの2人が見送ってくれた。
「元気でな。
落ち着き先が決まったら連絡くれよ」
ジャネスはさびしげにそう言った。
「お前たちの結婚式の招待状送ってもらわないといけないからな」
「おっさん、可愛い奥さんを早く見つけなよ」
アンナが憎まれ口を叩いてくれる。
「うっせーわ」
「じゃあね」
「おー、またな」