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転生天使エノク  作者: 藤咲流
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第4話・侵蝕

俺はロベルト・ベーコンの言葉に顔がこわばってしまう。


自分の状態を悟られないよう距離を取ろうとするも、


身体がいうことをきかずその場で膝をついてしまう。


「おそらく病気が発症して二週間以上は経っているね。


立っているのもやっとのはずなのに、よくこままで侵入できたよ」


「まさか、お前……」


「ああ。君がここに侵入しようとわかったときから、


セキュリティレベルは下げたよ。


私は君と、こうして話したかったからね」


ベーコンは笑みをこぼしてから、


奴の近くに植えてある


植物をちぎってみせる。


「実は、私は薬草学が専門でね。


その流れで薬学などの研究もしているのだが、


君を蝕む疫病を治療する薬も


植物から生み出そうと考えていて」


「お前の考えなんて、どうでもいいんだよ……」


「そうか、では手短にいこうか。


疫病に効果のある薬を作ろうと思えば、


臨床実験をしないと本当の


効果なんて見えてこないわけだ。


そこでー」


ベーコンは胸ポケットから小瓶を取り出した。


「君の身体を借りて、この薬を試したいんだ」


「なんだよ、その明らかに怪しい薬は」


「この薬はね、元の植物の名前を借りて


『ヤドリギ』と名付けているんだ。


君はヤドリギという植物を知っているかい?」


「知るかよ、そんなもの」


そうか、とベーコンは残念そうな顔をしながら


手に持った植物を見せてくる。


「私が手に持っているのがヤドリギなのだがね。


このヤドリギは別の木々の上に寄生し、


少しだけ宿主の栄養をもらいながら成長する植物だ」


「へっ、なんとものらりくらりと


生きているような植物だ」


「私はこの植物が大好きでね。


薬草学に関わらず、


私は植物として大好きなんだ。


ほら、ヤドリギの生き方は


人の生き方そのものじゃないか」


「どこがだよ。ただ人の栄養を利用して生活する、


薄汚いヒモと変わらないじゃないか」


「そうか。君もそうやって悲観的に捉えられるんだね」


ベーコンは悲しそうな顔をしながら、再び俺のほうへ歩いてくる。


「人も結局、誰かの力なしには


生きられないと思わないかね。


それが協力し合うとしても、


利用するにしても。


そんなのはただの価値観の違いで、


他者がいないと生きていけないという事実は、


変わらないとは思わないかね?」


「そんなもの、くだらねぇ!」


俺は足に力を入れ、何とか立ち上がってみせる。


しかし、はじめてこの病気が発症したときのように、


足の自由が利かなかった。


おそらく、皮膚が硬化してきているのだろう。


「人間なんて、誰も協力しねぇよ。


ただ利用するだけだ。


俺だってそうだ。


俺が生きていくためならば、


なんだって利用してやるよ」


「なるほど、その執念が君をここまで導いたのか……」


立っているのがやっとの俺の元にベーコンは近づいてくる。


身構えようとした俺だったが、


手足に何かが絡んでいく。


左右を見てみると、植物のツルが俺の手足に巻き付き、


俺の身体を仰向けの状態で宙に浮かばせていた。


「なっ……!」


「君のような人間は、


臨床実験にぴったりだ」


ベーコンは俺の上半身の服を脱がせ、


心臓部分に握っていたヤドリギを置く。


さらに、胸ポケットから取り出した薬のフタを空け、


それをヤドリギの置いた胸部に垂らしていく。


液体はネバネバしていたが、


液体が付着した部分から皮膚を裂き、


体内へ徐々に侵入していく感覚が襲ってくる。


「ああああああああ……!」


ただの薬のはずなのに、激痛で意識が飛びそうになる。


食いしばりながらベーコンの顔を見るが、


奴は俺のほうなんて見ていなかった。


俺の身体の変化を見ながら、


一瞬だけ口元を動かすのが見えた。


「すべてはエノクの導きのままに」

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