第3話・邂逅
まだ人の往来が多い日中、俺は病院前まで来ていた。
吐血によって病気がばれないように首元をマフラーで包み込み、
衣服も素肌が見えないようなものを着用してH大学付属病院前にやってきていた。
昨日みたニュースに出ていたロベルト・ベーコン。
この病気について何か解決を望むのであれば、今はあの教授に期待するしかない。
これは俺の詐欺師としての勘なのだが、あいつはこの緑皮病について何か知っている。
嘘をつき続けている人間は、嘘をつく人間にどうしても敏感になってしまうのだ。
俺は念のため用意した紙袋を握り締め、病院へ入ってみることにした。
ベーコンがまだ病院にいるかどうかわからなかったが、
俺は病院に入院する患者の見舞いとして侵入した。
ニュースでみた情報が正しければ、ベーコンは内科を担当する医師のはずだ。
俺は内科のある病棟に向かい、ベーコンがいないかどうか動向を探ってみる。
しかし、内科の待合室はベーコンに診断してもらいたと思われる人間で満席となっていた。
中には「ベーコン先生はどこ」と叫ぶ人もおり、看護師が迷惑な人間の対応に追われていた。
俺はここにいても何も解決しないと思い、H大学の研究棟へ足を向けた。
研究棟付近に行くとやはり関係者でないと入ることができないドアがあった。
俺は紙袋に入れてあったスタッフの服装にトイレで着替えることにした。
トイレから出た後は着替えをゴミ箱に捨て、スタッフでないと入れないドア前に向かう。
俺は事前にセキュリティカード用意していたので、それを使って研究棟に忍び込んだ。
研究棟は人が少なく、なぜか人の行き交いも無かった。
頻繁に出入りをすることもないかもしれないが、あまりに少ないのも疑問だった。
しかし、俺はここで生きる術を見つけ出さないといけない。
なりふり構っていられない俺は、研究棟の中で緑皮病に関する資料や部署を探し求めた。
しばらく歩いていると、俺は「薬学研究棟」と書かれた案内を見つける。
その指示に従って進むと、ガラス越しに植物園のような空間が目に入ってくる。
その光景は植物園というよりも、どこかの地域にある植物をそのまま植えたような場所だった。
その空間に入るためのドアは厳重なロックも無かったので、俺は興味本位でふらっと入ってしまった。
植物園はドーム状になっており、天井は球体になっている上に空の絵が描かれてあった。
通り道には土が敷かれてあり、
その横には赤、白、青、ピンク、黄色と
様々な植物が植えられてあった。
一定の区域に同じ植物が植えられているようで、まるで病院とは思えない奥行きがあった。
まるでこの空間だけ、H大学が特別に作っている。そんな力の入れようを感じてしまう。
「どうだね、とても病院内とは思えないだろう」
突然の声に俺は身構えてしまう。後ろを振り返ると、
そこにはテレビで見たロベルト・ベーコンが立っていたのだ。
「ダメだよ、せっかくここまで来たのに。せめて中から見えないように、
はじめはカーテンを引いておくべきだったね。
この空間はデリケートだから、外からの刺激を遮断するためにカーテンを付けてあるんだよ」
ベーコンは手に持っていたリモコンのスイッチを入れる。
すると、外から丸見えのガラスがカーテンによって覆い隠されていく。
真っ暗になったと思うと天井が開き、夜空に輝く月が植物園を映し出していく。
「どうだね、幻想的だろ?」
「てめぇ、どういうつもりだ」
「なにがだい?」
「ここは外から丸見えだ。ならば、わざわざ出てこずに
通報なり何なりすればいい。でも、あんたはそれをしなかった」
「ほう、なかなか面白いことを言う」
ベーコンはほくそ笑みながら俺に近づいてくる。そして、俺の耳元ではっきりとこう言った。
「君は、緑皮病に掛かっているんだろ?」




