第22話・信愛
俺は再び真っ白な世界に降り立っていた。
ここには何もない、真っ白な世界。
ここは死後の世界なのだろうか。
死後の世界なんてあるのかどうかわからない。
だが、あるとすればこんな場所だろうな。
俺は水の中で漂うように真っ白な世界をさまよっていた。
ーんー
何も世界なのに、
どこからか
音が聞こえる。
俺はもう何もしたくない。
人をだますことにもつかれたし、
生き続けることにも疲れた。
どれだけ一人で生きようとしても、
どこかに人間が関与してくる。
もううんざりだ、
人と関わってもロクなことがない。
なのに、どうして人は人と
関わらないと生きていけないのだ。
こんな面倒なことをして、
一体何が生まれるというのだ。
ーシンゴ!
ハシッと手に何かが触れる。
俺が目を開けると
そこにはナオミがいた。
俺はその顔を見た瞬間、
恐怖という感情を思い出した。
急いで逃げようとするが、
どのように逃げればいいのかわからず、
彼女に捉えられてしまった。
「シンゴ、やっと会えた」
「いやだ、離してくれ」
「ぜったいに離さない」
「俺は誰ともかかわりたくないんだ。
俺は関わった人を不幸にする。
だから、俺はもうー」
「そんなこと言わないで」
ナオミはぎゅっと、優しく俺を包み込んだ。
「あなたがいなければ、
私は学校でひどいイジメを
受け続けていたと思う。
孤独だけど、乱暴者だけど、
あなたが学校にいたから
私は通い続けることができた。
あなたという存在は、
私には絶対に必要だった」
「でも、俺は。お前のことが嫌になって、俺は」
「いいの。私は自分が
殺されたことを怒ってない。
それに、恨んでいない」
「そんなの、嘘だ」
「嘘だと思うなら」
ナオミは俺の身体を翻し、
顔を見つめてくる。
久々にみるナオミの顔は
あの時と変わっていなかった。
俺が彼女を殺そうとしたときと同じく、
まるですべてを見透かしたような顔だ。
どうして彼女は、そこまで俺を
信頼することができるのだろうか。
俺は自分のことをここまで
信じられる人間を知らない。
知らないが故に恐ろしくて、
愛情を感じる前に、おろかなことを……。
「嘘だと思うなら、なんだ?」
「この世界を救ってよ。
今、変な男がこの世界を
滅茶苦茶にしようとしている。
私とシンゴが出会った世界を。
だから、あなたが
本当に天使ならば、
救ってみてよ」
ナオミは俺の口元に唇をはわせる。
唇を通して彼女の体温が伝わると共に、
心臓の辺りがじんと温まっていくのを感じる。
ああ、どうしてこの感覚を
生きているときに知ることができず、
ナオミに味あわせてやれなかったんだろうか。
俺ははじめて、温かい涙を流した。
「シンゴ、あとはお願い」
ナオミが光となって俺の体に同化していく。
俺はゆっくり目を開き、
世界に再び舞い戻った




