第21話・愚直
ベーコンの体は大樹を吸い上げていき、
どんどん彼自身の身体が巨大化していく。
それと共に私を乗せている枝も小さくなり始め、
なんとか身体を動かして身体を
覆うツルを振り払おうとする。
自分のことに気を取られていると、
シンゴが先に枝から落下してしまう。
「シンゴ!」
名前を呼ぶと同時に私は全身に力をこめ、
とにかく彼の元へ近づこうとツルが
絡まったまま空に飛び込む。
重力にひかれるままシンゴの体は落ちていき、
なんとか追いつこうと弾丸のような
体勢で彼を追いかける。私はいつもそうだ。
私はいつも彼を追いかけていた。
どこまでも彼を追いかけて、追いかけて、追いかけて……。
***
やっと一緒になったと思ったとき、
それは彼に殺されたときだった。
でもそれは仕方ない。
私が高校時代にシンゴに会って、
一目ぼれして、いつも一人でいる
彼を勝手に好きになったのだ。
それから彼に付きまとうな、
と言われても私はストーキングを続けた。
彼は口では付いてくるな、と言っていても、
私に暴力をふるったり乱暴をすることはなかった。
しつこく彼の元に訪れている中で、
私とシンゴは一緒にご飯を食べたり、
出掛けたりする程度の仲にはなった。
男女の関係になることもなく、
高校卒業のときにシンゴが町を出るといった。
その言葉を聞いて私は
迷うことなくついていくことにした。
私には親も親戚もおらず、
どうせ町に残ったとしても孤独だった。
誰も私を必要とする人がいなければ、
生きていく意味もなかった。
だから私は彼についていき、
彼に尽くすことで自分が生きていくことを決めたのだ。
彼は私と一緒に町を出て、小さいアパートで暮らし始めた。
慎ましい生活の中で私は彼と一緒に
生活できるだけでうれしかった。
でも、その生活は私のただのエゴで、
彼が望んでいるものではない。
ただ私がやりたくて、
自分の存在意義が欲しくて、
自己満足しかない生活だった。
私は彼と生活を営むことで、
彼からのほんの少しでいいから
愛情を欲したいと思ってしまった。
それは決して望んでいけない
楽園のリンゴと同じものだったのに。
それでも私はシンゴに、
子供が欲しいと言ってしまった。
その言葉を聞いた瞬間にシンゴは私を襲い、
そのまま殺されることになった。
これは私に対する罰だ。
私みたいなストーキングしかできない女が、
自分の生活もままならない女が、
人並みの幸せを望んだ女に対する罰なのだ。
仕方ない。
私はただ、砂上に浮かび上がる
シンゴだけを追いかけていれば、
それで幸せだったのかもしれないのに……。
***
「……だったら!」
私は今も彼を追いかけている。
怪物のような身体になった今でも、
私は彼を追いかけている。
でも、今度は追いかけるだけじゃない。
本当の意味で彼を助けたい。
私は体に巻き付くツルを切り裂き、
翼を広げて一気にシンゴの元へ
飛んでいき手を掴んだ。




