第18話・離反~???視点~
私は目の前で起こっている状況を把握しきれなかった。
ベーコンの配下だと思われた猫人間の羽山が、
大樹と融合しようとしたベーコンを強襲していた。
ベーコンは口から紫色の血を吐き、
胸に刺さった手を両手で
なんとか引き抜こうとする。
「羽山、お前……」
「私はずっと待っていた。
あんたが神崎を利用し、
自分がエノクに
なり替わろうとする瞬間を!
ずっとヴォイニッチ手稿の通り、
あんたはストーリーテラーであろうとした。
あんたはこの世にエノクを復活させ、
その上でこの世界に復讐を行おうとした。
あんたはこの瞬間のために
自分の人生を費やしてきた。
ヤドリギを使ってエノク誕生を待ちながら、
少しずつ植物人間と緑皮病の人間を増やしていった。
どうせあんたは、この地球上から
人類は消すつもりだったから、
都合がよかったでしょうね」
植物人間、というのは
ベーコンのような
存在のことだろうか。
しかし、緑皮病というのは
一体何のことだろうか。
「あんたはヤドリギを使い、
いわば人間を淘汰する
つもりだったんでしょうね。
植物人間や緑皮病になる人間は
木々となって土に還り、
私のように獣人間として覚醒した人間は
次の世界で生き残ることができる。
あんたの言い方を借りれば、
エノクに導かれた人間ってところかしらね」
「羽山……」
「そんなのふざけんじゃないって話だよ!
私は誰の指図も受けない、
私は私の人生を生きる。
それなのに、どこにいっても
この世界に自由なんてない。
誰かに何かを決定される人生なんて、
もうコリゴリなんだよ。
なあ、あんたはエノクになって
どんな世界を作るつもりだったんだよ?
どうせあんたが何でも決めて、
コントロールするような堅苦しい世界なんだろ?
そんな世界、誰も望んじゃいないんだよ。
だから、私がエノクになって
この世界を本当に自由な世界にしてやんよ。
力による絶対的な実力主義。
このややこしくなった世界を、
私がエノクになることでリセットしてやるよ」
「ふふふ……」
ベーコンは危機的な状況にもかかわらず、
不敵な笑みをこぼしている。
羽山はひるむことなく
何がおかしい、と噛みつく。
「かなしいなあ。なんともかなしいことだ」
「なんだ、こんなあっさりと
死んでしまうことがそんなに悲しか?」
「そんなわけないだろ。
お前の浅はかさと、
エノクの考えに対する理解の乏しさが、
私を悲しい気持ちにさせるのだよ」
羽山が彼の言葉に気を取られていると、
彼女の腕から紫色のツルがどんどん生え始めた。




