第13話・終焉~ベーコン視点~
野望が実現することを確信した矢先、
異常事態を伝えるアラートが
けたたましく部屋に鳴り響く。
同時に、研究員から緊急事態を
告げる連絡が入るも、それを無視した。
画面に映る繭hは表面が動き出し、
形を変えようとしていたのだ。
「どういうことだ、これは!」
「私は現場に向かいます」
「わかっているな、
あれを壊すことは
何があってもならんぞ!」
羽山は簡単に一礼してから、
繭のある部屋に向かう。
私はもう一度画面を食い入るようにみる。
繭はツルを出しながら
何度も形を変え、
時には人の顔のような
ものが浮かび上がってくる。
その顔は神崎のもので
あることがあれば、
女性らしい表情も見える。
私は「ヴォイニッチ手稿」を
めくり、目の前で起こっている
事態が何なのか必死に探してみる。
しかし、一向に該当ケースが見つからず、
つい画面に八つ当たりをしてしまう。
「くそ、植物人間の
コピーは作れても……。
純粋なエノク人の出現を、
私は何百年待ったと思うのだ!」
画面を見ると、
やっと部屋に研究員や
護衛隊が到着するも、
彼らも不測の事態に
手だしをすることができなかった。
役に立たない奴らばかりだ、
と思った瞬間だった。
繭から伸びたツルは研究員たちを
つかみ取ったかと思うと、
つかまれた部分から
どんどんやせ細っていき、
最後には衣類しか残らなかった。
画面越しに起こっている出来事を確認した後、
私はもう一度ヴォイニッチ手稿をめくる。
先ほど焦ってめくって見かけたページと、
今起こっている事態と同じものがあった。
ケースを照らし合わせた私は、
笑わずにはいられなかった。
予想外の出来事ではあった。だが、
自分の予定していた計画が
少し早まっただけではないか。
私は羽山の電話に連絡を入れた。
すると彼女はすぐに出てくれた。
「どうなさいました?」
「羽山、少し早いがはじめよう。
彼はすでに覚醒をはじめたようだ」
「それでは、ベーコン様!」
「ああ。この研究棟を破棄し、
世界樹を打ち立てよう」
それだけ言うと私は電話を切り、
繭のある部屋をモニターできるように
タブレット型PCにデータを転送する。
それと同時に、私は護衛隊に実験体として
保護してあった植物人間を、繭のある部屋に
向けて解放するように命令する。
さらに、研究室にあるありったけの
「ヤドリギ」をトラックや
ヘリに積ませるように指示を飛ばし、
私はヘリの発着場に向かった。
発着場に向かうとすでに羽山も到着しており、
私はヘリに乗ってから状況について聞くことにした。
「どうだ?」
「すでに量産してあった
植物人間たちで溢れております。
彼ら、まるで引き寄せられるように
あの繭目掛けて向かっていきました」
「そうだろうな……。元々はすべて同じDNA、
惹かれ合うのが必然というものだろう」
「これで本当に、
ヴォイニッチ手稿に
書かれているように
上手くいくのでしょうか」
「ああ、大丈夫だ」
私は部屋から持ってきておいた
ヴォイニッチ手稿を開く。
ヴォイニッチ手稿には人間が
液体に浸っている絵や
薬草の絵が多く掲載されており、
中には車のような絵も入っている。
さらに、地球に根差した
大きな大樹の絵も
挿絵の中に含まれてあった。
「私に多くの知識を与えてくれたヴォイニッチ手稿。
この中には多くの英知が含まれており、そして……」
ヘリの準備ができたのか、
研究所からやっと離陸する。
空から研究所を眺めると、
繭のあった部屋辺りから
赤い樹木が伸びていくのが見える。
それを見た羽山は、
ヘリの窓にべったりと
顔を近づけた。
「まさか、これが世界樹!」
私はその経過をタブレットPCに記録する。
これからはじまることに世界人類の
誰もが巻き込まれることになる。
私の八百年掛けた世界への復讐が、
世界樹の復活を契機に始まりを告げた。




