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転生天使エノク  作者: 藤咲流
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第12話・結実~ベーコン視点~

「どうだね、彼の様子は?」


私は部屋に入って来た羽山に


早速情報を伝えるように促す。


「ベーコン様、


そんないじわるな質問をしないでも


よろしいではないですか。


すべてモニターで見たおられたのでしょう」


ふん、と鼻を鳴らしながらモニターに視線を戻す。


目の前のモニターには神崎シンゴを


収容している部屋が映し出されている。


羽山が神崎を私の研究施設に連れてきてから、


すでに六日は経っていた。


「エノク」の絵を見せた神崎は


身体から紫色の植物を出し、


自分の身体を覆って繭のように閉じこもってしまう。


外から情報を得ようにも手を出す手段はなく、


下手なことをして彼を殺すわけにはいかないのだ。


「しかし、彼は本当にエノク様なのでしょうか?」


「ああ、わしは確信しておるよ。


エノクの絵と照らし合わせて


瓜二つなだけでなく、


なによりもアヤツの繭から採取した


細胞がすべてを物語っておる」


私は退屈そうな羽山のため、


部屋の上部についてある


大きな液晶ビジョンに映像を出す。


その映像を見た羽山は釘付けになっていた。


「これは、ヤドリギに


組み込んでいた


エノクのDNAデータ!」


「そうだ。今まであらゆる患者に


ヤドリギを処方してきた。


しかし、どうやっても身体に


融合せず植物人間になってしまった。


もしくは、エノクの膨大な遺伝子情報と


身体に眠る動物遺伝子が結合し、


身体を変質させる能力の覚醒に止まっていた。


猫に変質する力を持った、お前のようにな」


羽山は自分の至らなさを


謝罪するように小さく頭を下げる。


私はさらに、


ヤドリギの成分を


画面に映し出した。


「ヤドリギによる


エノク転生計画。


半寄生植物であり、


神聖な植物として


知られるヤドリギの特性を生かし、


人の身体に別の生物体の


DNAを融合させる計画。


ヤドリギに備えたDNAはもちろん、


過去にこの地球に


来訪したとされる異星人ー」


「エノク様、ですよね」


まるで優等生のように羽山は答える。


私はふむ、とだけ答えてエノクの絵に切り替える。


「エノクは決して神や悪魔という


不確実な生き物ではない。


エノクは大昔に地球を訪れ、


我々に英知を授けた異星人だ。


その彼を現代によみがえらせることで、


我々は更なる発展を約束される」


「そして、エノク様が復活した際は、


私たち新人類の時代の


幕開けでもあるんですよね」


「その通りだ、羽山」


私は画面を神崎を収容する部屋に


戻してから席を立つ。


そして、羽山の後ろ側にある


本棚まで向かい、


「ヴォイニッチ手稿」を取り出す。


「だが、私にとってはそれ以上の意味がある。


約八〇〇年前に認められなかった


この技術を証明すること。


それこそが、私の本意なのだよ。


この世界がどうなろうと、


私にとってはどうでもいい。


契約したように、


君の好きなようにすればいい。


私の研究さえ邪魔しなければ、


私は何だってしよう」


「もちろんですわ、


ベーコン様」


私の言葉を聞いた羽山は、


今後は深々とお辞儀をして見せた。


「このヴォイニッチ手稿を


否定した人類たちに、


未来なぞ無かったのだ」


そのために必要なピースはそろいつつある。


私は画面に映る神崎に視線を移す。


その繭には自分の未来や


願望が詰まっているようで、


つい口元が緩んでしまう。


「ベーコン様、神崎の出現はあなたを


よほど興奮させているようですね」


「なぜそう思うのだ」


「だって、元の顔に戻っておりますよ」


「そうか? この身体には


ずいぶんと慣れてきたところなのだがな」


「もう元の顔は出してもよろしいのではしょうか?


ロベルト、いえ……。ロジャー・ベーコン様」


私はその名を呼ばれると同時に、


顔の皮膚をベリベリとはがした。


まるでかさぶたを上手く


取り除けたような開放感があった。


「やはりその顔が


一番似合っております、


ベーコン様」


私は植物人間となった日を忘れない。


自分の宿願を達成するため、


寿命を延ばすために


自らの身体に行った実験。


その時代の教皇の意に反しただけで、


自分が草木と同じような


人生を虐げられた八百年。


自分の身体を何度も


植物に移し替え続けた執念が


ついに結実した映像を、


私はいつまでも見ていられると思った。

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