0から始める同棲生活
卓人は朝ご飯を食べていた。卓人をかくまってくれた女性、エルに。
「おいしい、めちゃめちゃおいしい!」
「本当ですか、ありがとうございます」
この世界の料理は、日本とさほど変わらなかった。そして彼女の作る料理は最高においしかった。
「ごちそうさま。いやあ、本当にうまかった」
「そこまで褒められると作り甲斐がありますね」
彼女に話を聞くと、年齢は18。卓人と同い年だそうだ。同い年なら敬語を使う必要はないと、卓人はタメ口で話すことにしたが、彼女は依然敬語のままだった。誰にでも敬語で話すらしい。
卓人が家の前で寝ていた事は、記憶がなく、いつの間にか寝ていたと話しておいた。
「さて、これからどうするかな……」
卓人は、自分が眠っていた部屋に戻り、ベットに腰掛けた。
「異世界に来てしまったらしいけど、どうすりゃいいんだよ。ずっとエルさんの家にお世話になるわけにもいかないし......」
2,3日くらいなら頼めば家に泊めてくれるかもしれない。だがその後はどうする。行くあてもなければ金もない。
「あー、仕事しなきゃいけないのかな」
卓人は窓のほうへ行き、外を眺めてみた。
昔よくやっていた、ファンタジー系のテレビゲームにでも出てきそうな風景。古風な店や家々が並んでいた。
「バイト募集してるとこあんのかな」
「卓人さん」
ドアのほうからエルが入って来た。
「思い出しましたか、昨日の事」
「いや、ちょっと思い出せないかな…」
「そうですか……卓人さんってどこに住んでるんですか?」
「え、あぁ…その……そうだ、実は家はないんだ、親は小さいころに亡くなっていて、それからずっと一人で何とか生きていたんだけど、お金がなく、家賃が払えなくて……そ、そうだ思い出した!家賃がなくて追い出され、途方に暮れた俺は残り少ないお金でヤケ酒して、いつの間にか気を失ってたんだよ」
卓人は今思いついた自らの境遇をエルに話した。
「そ、そうだったんですか……えと、じゃあ住むところ、ないんですね……」
「うん、そうなるんだよな……」
卓人はある期待を込め彼女に話を続ける。
「仕事もなくなってしまってお金もなくて……これからどうするかも分からなくて」
「だったら、ここで、少しの間暮らしてもいいですよ」
その言葉を聞いた瞬間、卓人は口元が緩むが、エルに気付かれないようすぐ隠す。
「で、でも」
「いいんですよ、幸いこの部屋が空いていますし、私、1人暮らしですし……」
やはりそうだったのか。まだ朝なのに家には卓人とエルしかいない。家族は出かけている最中とも疑ったが、他の人が住んでいるような痕跡は見つからない
卓人は自分の考えは正しかったと心の中で呟く。
「なら、少しの間、エルさんがいいって言うなら……」
「ええ、大丈夫ですよ」
「ありがとう!」
卓人はこの家で暮らす事になった。
もちろんずっとというわけではない。卓人の新しい仕事が決まり、一人暮らしの資金が溜まるまでの間だけだ。
だが、その間、美少女と同棲生活を送るわけだ。卓人はその事実に心の中でガッツポーズするのだった。