序章
全日本卓球大会決勝戦。球位卓人は敗北した。
相手選手は全日本選手権では5年連続1位。前回のオリンピックでは銀メダルを獲得した凄腕選手、水谷準介。
「くそ、くそ、くそ!!!」
あとちょっとだった。ほんの1ミリの差で負けた。
試合は、最初に2セットの選手を相手に許したが、そこから卓人が2セットの巻き返し。そこからは接戦、こちらが点を取ったら相手も点を取り、相手が点を取ったらこちらも取る。まさに点の取り合い。
大接戦ののち、15-17で卓人が敗北した。
「あと、ちょっとだったのに、くそ!」
ホテルの中で嘆く卓人だが、あの凄腕選手、水谷準介をあそこまで追い込んだのだ。コーチや仲間はもちろん、世間は卓人を大きく評価するだろう。
「でも、それじゃだめなんだよ、くそぉ!」
―――――――
「俺が、この大会で優勝したら、付き合ってくれ!」
「分かったわ。まぁ無理だろうけどね、ハッ!」
「俺は、絶対に勝つ!絶対に買って君と付き合ってみせる!」
「優勝できなかったら諦めてよね」
「ああ、ぜってー優勝してやる!」
―――――――
「くそ!あとほんのちょっとで!愛ちゃんと付き合えたのにくそぉぉぉぉ!」
この全日本大会で優勝すれば、卓人は想い人の愛ちゃんと付き合う事になっていた。しかしその願いは叶わず。
「仲間は反対していた。あの女はダメだって、あんなのと付き合っても絶対ロクなことねぇって!でも俺は
愛ちゃんが好きだった!どんなに罵られようと、バカにされようと、俺は愛ちゃんが好きだった!だからこそ、彼女を振り向かせるため、必死に練習していた!死ぬほど練習したんだ!なのにあと一歩で!くそぉぉぉぉぉぉ!」
卓人は投げやりになり、スマホで、Twitterに「くそおおおおお」「悔しいいいいい」「もういやだあああ」などと連投しまくる。
ツイートをするたびに卓人を称えるようなメッセージや慰めのメッセージが来るが、卓人にそれは見えない。
「さらに練習を重ねれば、水谷準介にだって勝てるかもしれない。でも俺は、俺は愛ちゃんのために卓球をしてたんだ。それがダメになった。俺に卓球を続ける意味はない、ははっ」
すべてがどうでもよくなり、卓人はスマホを床にたたきつける。
「もういいよ、今は何も考えたくない。寝よう」
風呂に入る事も忘れ、ベットにつっぷくした。
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そして次の日の朝、卓人は知らない場所にいた。