桃園物語 第11話 誤解 、第12話 喧嘩大将
The peach Garden 桃園物語
第11話 誤解
地元の有名進学塾、童学草舎にて、中学英文法 受け身の授業中、突然、野人張飛が乱入したところからの続き。
関羽、
やはり張飛であったか。こんな時間に一体何用だ?
張飛 、
雲長アニキ!話があるんだ!聞いてくれい!
関羽、
、、、今は授業中だ。終わるまで、本でも読んで外で待っているがいい。
張飛、
んぐぅ、、何と間が悪い、、。が、仕方がない。でも、授業なんて早く終わらせてくれよ!
と言って、とりあえずは素直に出て行ってしまった。
関羽は何事もなかったかのように、授業を再開した、、、。
一方、教室の外では、、
張飛は椅子に座って待っていた、、。しかし数分もしないうちに、わなわなと麻薬の禁断症状かのように身を震わせた。
張飛は待つことを非常に嫌う。座って待っていても、すぐ退屈してしまい、居ても立っても居られなくなってしまうタチなのである。一刻も早く関羽兄貴に、今日起きた素晴らしいことを知らせてやりたい、という気持ちでいっぱいになっていた。ガクガクブルブルと身震いが止まらない。思わず、ふと本棚から一冊の本を取り出し、表紙を眺めた。それは
"関雲長著 中学英文法の極意 "と題された本だった。
パラパラとページをめくって見たが、アルファベットが並んだ文字列を見ると、とたんに目眩がして来た、、。
"ええい!こんな本!!"
すぐさま本を床に放り投げてしまった。
さらに待つこと十数分、、イライラは募るばかり、、室内禁煙の中、かまわず煙草に火をつけた、、、。
椅子に座り、足を組み、とりあえず一服、、、
フーッ、フーッ、
(それにしても、どうも塾ってのは居心地が悪い。なんだかここに居るだけでイライラしてくる、、、。雲長のやつは、インテリぶって、偉そうに本なんぞ書きやがる。しかも、何だこの本は!全然読めぬではないか!?近頃世間では何かと英語、英語と騒いでいるが、一体英語が何だってんだ!!俺は、絶対に、絶対に英語なんか話さんぞ!!)
と、吸い殻を床に捨てて、踏んでもみ消し、今度は構内をのしのしと歩き始めた。
そしてさらに十数分が経過すると、ようやく授業が終わり、童子たちがキャッキャッと教室から出て行く、、。
その時、張飛はヒンズースクワットの途中だった。
フンッ!フンッ!と場違いな汗を散らす。
童子の何人かが、その張飛の様子を見てクスクスと笑った。張飛がガルルルとばかりに睨むと、童子たちは怖がって、ささっと走って行ってしまった。
教室から関羽先生が顔を出す、、
張飛、
"フン!アニキ!やっと終わったか?
待ちくたびれたぜ!では、俺っちの話を聞いてくれい!"
関羽
"相変わらず騒がしい男だな。で、何の話だ?"
すると、ポイ捨てされたタバコの吸い殻、床に散らかされた数冊の本が関羽の目に止まった。
( こ、こやつ、な、なんという狼藉を、、室内禁煙にも関わらず、かまわず喫煙、そしてポイ捨て!むむっ、床に落ちているのは、ワシが書いた本ではないか。それがしの名著をかように乱暴に扱うとは、、、怒)
そんなことは全く気にもせず、張飛が話し始める。
"アニキ!実は今日、スゴい男と知り会った。劉備玄徳と言う名の男だ。その男、なんと王家所縁の者だという。俺はその劉備殿に仕え、世を正すとことを決心した!是非アニキにも力になって欲しい!"
関羽、やれやれと言葉を返す。
"フっ、何かと思えば、そんな馬鹿馬鹿しい話を鵜吞みにして来るとは、、。翼徳、お前はちっとも成長してないなぁ。"
怒りを抑えつつも、皮肉たっぷりに関羽先生が言う。
張飛、顔を真っ赤にして答える。
"ば、馬鹿馬鹿しいとは何だ!?
アニキは俺を信じないのか?
あの男、どこか貴公子風の面構えをしている。絶対に間違いないよ!"
関羽、童子を扱うが如く、静かに諭すように言う。
"そうやって、お前はいつもすぐ人の話を鵜吞みにして信じてしまう。信じることは、もともと人が良いお前の長所ではあるが、何も疑わがず、何も考えず、結果、簡単に人に騙されてしまう。もう少し慎重に考えた方がよい。"
張飛、興奮しながら、言う。
"な、なぜ信じぬ!?
俺はアニキの義弟だぞ!弟の言ってることが信じられないのか!?"
関羽、かぶりをフリフリ、答える。
"信じるには至らぬ。フッ、まったく、どこぞの馬の骨とも知らない奴が漢室の末裔だなんて話は、近頃の世間では、よくある嘘話ではないか?なんとも馬鹿馬鹿しい。"
張飛はドングリ目を充血させ、今にも泣きそうな勢いだ。
"ぎ、義弟の言うことを頭から信じぬとは何ということだ!?
ううぅ、アニキの分からず屋!!
もういいっ!!"
関羽、
"お、おい!翼徳ちょっと待て!!何処へ行く!?"
すっかり不貞腐れて張飛は何処かへすっ飛んで行ってしまった。関羽は、やれやれしょうがない奴だ、と首を振り、落ちている本を拾い、丁寧に棚へ戻して、床の掃除を始めた。
関羽に軽くあしらわれた張飛の行方は何処へ??次回へ。
The Peach Garden 桃園物語
第12話 喧嘩大将
( 漢王朝の末裔、劉備玄徳の存在を知らせるため、飛ぶが如く関羽へ知らせに走ったものの、関羽先生は全く張飛を相手にしない。すっかりいじけた張飛は外へすっ飛んで行ってしまった。からの続き。)
張飛、
ち、畜生、何ゆえ雲長兄貴は俺をいつもそんなに疑うのか!?俺と雲長は、互いを義兄弟と誓った仲ではなかったのか、、?それを、俺が世間知らずで、いかにも人を見る目がないとでも言いたげに、、。そう言えば、最近の雲長はなにかにつけて、もう少し勉強せよと、俺に英語学習を勧めてくる、、不愉快だ、実に不愉快だ、、)
張飛の行き先は、もうすでに決まっていた。何か不愉快なことがあると、決まって張飛は町外れの馴染みのパブへと訪れる。
この日も、いつもの席へ陣取り、ずっと飲み続けていた、、、。
張飛、
"うぅ、ヒッく、ご、ご主人、も、もう一杯ついでくれ、、、"
パブのマスター、
"張さん、もう大分飲んだじゃないか、、もうその辺にしといた方が、、
身体にも毒ですぞ。"
張飛、
"う、うるさい。これが呑まずにいられるもんか。だ、代金のことなら心配いらぬぞ。うぅ、だからもう一杯だけ注いでくれ、、。"
パブのマスター、
"はぁ、で、ではこれで最後ですぞ。"
仕方なさそうに主人は張飛のグラスにトクトクと酒を注いだ。
代金の心配はいらないと、張飛はいつもそう言うが、実際には、代金をすべて童学草舎 塾長 関雲長宛に支払わせている。パブの主人は、二人が義兄弟の間柄だということは既に知っていて、代金が滞ることは今までなかったものの、こう何度も関羽先生に毎回代金を支払いをさせては、先生もさすがに気の毒だろうと思わずにはいられなかった。
張飛、
"ううう、ヒック。しゅ、主人、ご主人、もう一杯、頼む!"
パブのマスター、
"張さん、もうその辺にしておいた方がよかろう。いくらなんでも、飲み過ぎだろう。"
張飛、
"な、何を!?ふ、不埒者め!
きゃ、客の注文が聞けぬと言うか!"
張飛は急に怒り出し、マスターの胸ぐらを掴んだ。張飛の酒臭い息がマスターの顔にかかり、オエッとなる。
と、その時、
"オイ!いい加減にしろ!このアル中の虎ヒゲめ!!"
マスターの身の危険を感じたパブの用心棒の男がすかさず怒鳴った!
張飛、
"ん?な、何だ、貴様は?"
用心棒、
"まずその手を離せ!お前にやる酒など、もうないっ!!"
張飛、
"な、何を!お、俺は客だぞ。客の言うことが聞けないというか?"
用心棒、
"何が客だ?一度も自分で代金を払ったことがないではないか?お前など客とは認めぬっ!!"
張飛、
"う、うるさい!こ、こいつめ!こうしてやる!"
と、べろんべろんに酔っ払っているにも関わらず、張飛は素早い動きで、ささっと用心棒の後ろを取るやいなや、チョークスリーパーの要領でそのまま締め落としてしまった。哀れ男は、ドサッと床に倒れ、その後ピクリとも動かなくなってしまった。
すっかり怯えきったマスター
"ひ、ひぃ〜い、い、命だけは、命だけはお助けを〜"
張飛、
" うぃ〜、ヒック。ご、ご主人、み、水を一杯くれいっ!"
マスター、
" は、はい!すぐにお出しします!"
水をガブガブと飲み干すと、張飛は料金はいつも通りで頼む、と言い残し千鳥足でフラフラと何処かへ歩き去った。