表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/128

第五十六幕  夢見の少女(1)

本日よりフロースコミック様にてコミカライズがスタートします。

なお、2017年9月に4巻発売も決定いたしました。

詳細は活動報告にて。

 城を出た後、コーデリアはロニーと共にヒロインが暮らしている教会へと向かった。


 フルビアの家へ向かうときはいつも途中で馬車から降り、そこからは徒歩で向かっている。

 フルビアの家と教会は聖歌隊の声が聞こえるほどに近いので、今から向かう教会へも同じルートを利用する。


(ヒロインのことは状況を把握してから考えるとして……経過を幽霊が見るつもりなら、しばらくは私の近くにいるのは間違いないでしょうね)


 人が行き交うような場所であれば幽霊も人に紛れるだろうし、人通りが少ないところなら身を潜めてこちらを窺うことだろう。しかしいずれにしても騎士の警らがあるようなルートであれば、捕らえてもらえる可能性もある。


 そんなことをずっと考えていたせいで、教会付近まではあっという間に到着してしまった。


 だが、教会近くに辿り着いたコーデリアが目にしたのは予想外の状況だった。


(教会の前に騎士がいる……?)


 この教会の規模は小さい。

 常に人が出入りするような大規模の教会なら警戒がつくとは聞いたことがある。

 しかし閑静な場所にある小さな教会では混乱など生じないだろう。


(あと、教会の一つ隣の建物には騎士団の旗が掲げられているように見えるけど……あれは何かしら……って、あら?)


 何の建物だろうかと眺めていれば、そこから見覚えのある人影が姿を現した。


「もしかして、クラリス様……?」


 コーデリアの呟きが届くほど近い距離ではなかったが、周囲に人影が少なかったこともあってか、クラリスもすぐにコーデリアに気が付き、驚いた表情を浮かべて距離を縮めた。


「お久しぶりです、コーデリア様。このようなところで、奇遇ですね。お元気でいらっしゃいましたか?」

「はい、クラリス様もお元気でいらっしゃいましたでしょうか?」

「はい。元気すぎて体力も有り余り、万全の状態でお仕事に臨めます」


 落ち着いた上品な仕草を見せるクラリスは、コーデリアが幽霊に初遭遇した際に付き添ってくれたサイラスの部下で、近衛部隊の女性騎士だ。前回話をした時には冗談めかした様子はなかったが、当時は冗談を言うような場ではなかったことを考えれば、今が本来の彼女の気質なのかもしれない。


「今日はどちらかへお出かけですか?」

「この先に住んでらっしゃる薬師を訪ねるつもりなのですが、教会のステンドグラスの記述を書物で見つけたので、少々より道させていただきました」

「そうなのですね。そういえば、コーデリア様が品評会で受賞なさったこと、お聞きしました。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「実は、食べられる紙のお話は騎士団の中でも少し噂になっているのです。騎士団ではとある体力回復のための魔法薬があるのですが……とても効果が高い反面、水に溶かせばあまりに臭くて飲み込めず、かといって粉のままだと長く続く苦みとえぐみで気を失いそうになる、魔法のお薬が」

「そ、それは……良薬は口に苦しといいますが、お役に立てれば嬉しく思います」


 薬自体の味の改良が求められるのかもしれないが、クラリスの声の様子からは望みが薄いことが窺える。


(お兄様たちはなにも仰っていなかったけど……もしかするとお兄様たちにも喜んでいただけるかもしれないわね)


 魔法薬が体内で効果を発揮する際にオブラートが溶けるタイミングとの関係で効用を阻害しないか確認する必要もあるだろうが、それがクリアできればなるべく早く量産できる体制を整えたいと思う。


(カプセル薬が作れれば携帯もしやすそうだけど、それはまだまだ青写真ね)


 そんなことよりも今は優先させなければいけないことがある……そう思い直すとほぼ同時、クラリスはコーデリアに思いがけない提案を投げかけた。


「コーデリア様、教会の見学をなさるのでしたら、私に案内をさせていただけませんでしょうか? うんちくも少し語らせていただけますよ」

「え? よろしいのですか?」


 執務時間ではないだろうかとコーデリアが驚くと、クラリスは少しだけいたずらっぽく笑った。


「実は今日は夜勤明けで、もう勤務は交代しているんです」

「で、でしたらお疲れでしょう……?」


 もう昼を過ぎているのだ、仕事が終わっているのなら早く帰って眠りたいだろう。

 しかしそんなコーデリアの不安をクラリスは柔らかく笑って流した。


「お気になさらないでください。私をあの薬の苦みから解放してくださるかもしれないのですから、できることはさせていただきたく思うのです」

「お嬢様、ここまで言って下さっているのですから、お受けしてはいかがですか?」


 気持ちは嬉しいが……と、迷うコーデリアに黙っていたロニーが受け入れることを促した。

 そしてその表情は『断っても残念がられるだけですよ』と言っている。


「では……お願いしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです」


 ステンドグラスなどヒロインのことを調べるいいわけに過ぎなかったのだが、クラリスの善意を断るのは忍びないし、オブラートについて本来感謝されるべきロニーが言っているのだ。ここはやはり好意に甘えるべきだろう。


「クラリス様、ご紹介が遅れました。こちら我が家で働いております、ロニー・エリスです」

「ロニー・エリスと申します。よろしくお願いします」

「初めまして、私はクラリス・キースリーです」


 そう簡単に挨拶を済ませると、クラリスは「少し、連絡だけ入れて参ります」と、一旦教会横にある建物に入り、再びコーデリアたちの前に戻ってきた。


「お待たせいたしました、参りましょうか」

「……そういえばクラリス様は今日はどうしてこちらへ? お仕事のご都合でしょうか……?」


 今のタイミングを逃せば尋ねる機会を逃してしまうと思ったコーデリアは、歩き出す前にそう尋ねた。もしも機密事項であれば無理に聞き出すつもりはないが、近衛隊員の彼女がここで夜勤をしていたのはなぜなのか、場所が場所だけに気になってしまう。

 するとクラリスは何でもない風に笑った。


「今、応援にきているんです。元々この辺りは管轄が広かったので、新たに分駐隊を設け、ここを詰所にしたのですが、まだいろいろと片付けるべき仕事……いわゆる引っ越しに伴う雑務が多くて、かり出されています」

「それは、お疲れ様です」

「ありがとうございます。教会の隣を詰所にするのは王都で初めてのことだったのですが、すぐ隣ですし、どうせなら近隣の方との交友を深めるためにも教会の前でも立ち番を行うことになりました。立ち番はもともと詰所前に二人一組で行うものですが、この人通りくらいでしたら詰所前が一人でも問題ありませんし。意外と好評なんですよ」


 クラリスの言葉をコーデリアは微笑みながら聞き、同時に疑問を浮かべた。


(騎士の立ち番がいれば、誘拐なんて簡単に行われないはずよね……?)


 夢見の少女の噂ゆえにあえて配置されたわけではなくとも、結果的にヒロインの安全は守られている。しかし先月からこの体制だというのなら、幽霊だってこのことを知っていることだろう。


(どういうこと? 騎士でも見破れない手口を使うっていうこと?)


 怪しい輩の出入りがあれば、騎士たちの間で情報共有がされているはずだ。幽霊は内部犯がいるとほのめかしていたのだろうか? クラリスから得た情報に戸惑いながらコーデリアは教会の門扉を抜けた。


 教会の中は少しひんやりとしており、静かで、コーデリアたちの他には人がいなかった。


「神官様からの受け売りになりますが、この教会は小規模ですが歴史は王都で最も古いそうです。教会の建築様式のほか、彫刻も重要な文化財です。例えばそちら、祭壇の向かって右側にある石像ですが……」


 そう、クラリスが解説を始めた時、ちょうどその石像の奥にある扉が開いた。

 そして扉から姿を現した初老の男性は驚いた様子をみせた。


「おや、これはキースリー殿でしたか。お客人ですかな?」

「お疲れ様です、神官様」

「いや、案内をしてくれていたのに、止めてしまってすまないね。今は騎士様が見ていてくださるのだから不審者が現れる心配などないのに、つい確認する癖が出てしまってね」

「いえ、防犯意識は大切です。これからもよろしくお願い致します」

「お客人方も邪魔をして悪かったね」

「いえ……それより、不審者が出たことも……?」


 コーデリアが尋ねた声は自身が意図したよりも不安の色が滲んでしまっていたが、神官はゆるく首を横に振った。


「この教会で起こったことは記録上存在しないが、王都には様々な輩が出入りするからね。王都に人買いが出た過去もあるからには子供たちを預かっているこの場所も、用心すべきだと思うのだよ」

「そう……なのですね」

「もっとも、今は騎士様がいらっしゃるから過度な不安は不要ですがね」


 最後にコーデリアを安心させるように優しく笑った神官は、そのまま「では、また私は少し外すことにさせていただくとしよう」と、奥の部屋へと退いた。


「……申し訳ございません、怖いお話をしてしまいましたね」

「いえ、大丈夫です」

「でも、ご安心ください。私たちは王都に住まう皆様の生活を守るために、日々努めることを誓っています。約束は違えません」


 ドアが閉まった後に気遣う様子を見せたクラリスは、宣誓するようにコーデリアに告げた。


「クラリス様はとても格好よくいらっしゃいますね」

「そうだと、嬉しいですね」

「私の友人の妹様が騎士を目指したいと言っておられたのですが、その気持ちもきっとこういうところから湧くのでしょうね」


 彼女が今のクラリスを見れば、きっと歓声を上げたことだろう。

 そうしてコーデリアとクラリスが互いに笑っていると、外からやや甲高い子供の声が届いてきた。

 それは元気に遊ぶというよりも、オウルの孤児院で耳にするような、子供たち同士が言い合いをするような声だった。


「……喧嘩、でしょうか?」

「そうであれば、おそらく立ち番の者が仲裁をしているとは思うのですが……」


 眉をハの字にしているクラリスには、どうやらこの喧噪に思い当たる節があるらしい。


 ここで暮らす子供たちの諍いなのかもしれないとも思うが、それにしては場所がおかしい。

 声は門扉のほうから聞こえてくるが、あちらは道だ。子供たちが暮らしているなら、先ほど神官が入っていった奥のほうだろう。


(そもそも……この声、オウルの孤児院に似てるってものじゃなくて……)


 それ以前に、その声には聞き覚えがある。


「少し、様子を見て来ますね」


 同じくロニーにも思い当たる節があるのだろう、外へ向かおうとする彼に同意を示し、コーデリアもクラリスを見た。


「私も、少し気になります」


 クラリスも気になるのは同じだったのだろう、すぐに「では、参りましょう」と、少し早足で扉へ向かった。


 そしてコーデリアが外に出たとき、先に到着していたロニーは呆れた表情を浮かべていた。

 それもそのはず、そこにいたのはやはりコーデリアの聞き間違いではなく、よく知った少年だったからだ。


「……ミック、どうしてこんなところで大きな声を上げているの」


 そこにいたのはミックだけではなく、オウルの孤児院の子供たちが二人いた。手にしているのは市で買った食べ物が握られている。状況が状況でなければ、場所を尋ねて買いに行きたいくらいのよい香りが漂っている。


「あれ、ディリィじゃん、何してんだよ」

「教会の見学をさせていただいていました。それより、何しているのは貴方のほうでしょう。大きな声を出してどうしたの?」


 フルビアの元へ向かうのであればここを通ることもあるだろうが、かじりかけの菓子を持っている辺り、喧嘩をするようなタイミングではない。ミックは基本的に食べているときは機嫌がいいはず――と思いつつ、一応ほかにも気になる点はある。


「歩きながら食べないようにって、先生からも言われなかった?」

「いいんだよ、見られてないし問題ない。っていうか、これ美味いからもう一回買いに行こうって話してたら、あいつが突っかかってきたんだよ」


 そう言いながらミックはくいっと顎を動かし、コーデリアもそちらに目を移す。するとその先にはクラリスが別の子どもに対して丁寧に注意をしていた。


「――ですから、勝手に外に出てはいけませんよ。神官様も心配なさります」

「でも、もうすぐ雨が降るのに濡れちゃうじゃない! 私が夢で見たから絶対降るのに! あの子たちが降られたって見えたわけじゃないけど、雨が降るんだもん、絶対濡れるわ!」


 コーデリアがその少女の声を聞くのは初めてのことだった。しかしそのセリフと現在の場所を考えると、目を見張らずにはいられなかった。クラリスの背で体半分ほど見えなかったが、その姿は間違いなくコーデリアの知るものだ。


 薄桃色で柔らかく、コーデリアよりも少し癖のある髪と澄んだ青い瞳を持つ少女。

 幼い面影はあるものの、それがヒロインことシェリーだった。


「――!!」


 コーデリアは思わず息を飲んだ。

 この場所にいると理解し、その上で教会を訪れたが……予定ではまずこっそりと存在を確認するはずだったのに、諍いの当事者となっている現場で遭遇するとはまったく想像していなかった。


「あいつ、俺らがもっかいコレ買いに行こうって話してたら、いきなり何か言ってきたんだ。無視してたら叫び始めるし」


 ミックはそう言うと、てにしていた菓子を再びかじった。


「こんなに明るいんだし、雨なんて降らないよな」


 どうやら、ミックはシェリーが夢見の少女だと知っていない様子であった。いや、むしろ夢見の少女という存在を知っているのか、それも分からない。


「ディリィ?」

「ディリィちゃん?」

「ああ……ごめんなさい、お天気、ね」


 ミックたち子供が戸惑うほど動揺した様子を出してしまっていたのかと反省しつつ、コーデリアは気持ちを落ち着かせるために空を見上げた。


「……確かに雨は……降るかもしれないわね」

「え?」

「薄い雲が空を覆っているし、太陽がかさを着ているわ。それに、あの低いところを黒い鳥が飛んでいるでしょう? 餌の昆虫が、羽の重さで低いところをとんでいるのよ」


 あまり気にはしていなかったが、注意してみればやや空気も湿り気を帯びている気がする。

 すぐに降るかどうかはさておき、遊びにいくのであればそのまま降られるまで遊んでいる……と、予想されても不思議ではない。


「……ディリィちゃん、それでどうして雨が降るの?」

「うーん、説明してもいいけれど、もう一度買いに行いきたいのならその間に雨が降っても困るし、先に買い物にいってきたほうがいいのかしら? 買い終わったら、早めに先生のところに行ったほうがいいわ」

「何だよ、もったいぶるなぁ。ま、ディリィが理由があるって言うなら一応聞いとくけどさ。夢で見たから降るって言われても、わけわかんないし」


 そう言うと、ミックは「じゃあ、急いで行ってこようぜ」と仲間の子供たちに声をかけた。


「あ、ディリィもまたオウルにも来いよな!」


 そうして駆けていくミックの背中に手を振って見送りつつ、コーデリアは一息ついた。

 ミックが王都の噂をよく知るとはあまり思わないが、まさかシェリーと喧嘩をしているだなんて思ってもいなかった。


「あの子たち、私が言っても聞かなかったのに……」


 ミックの背を見ながらやや悔しそうに言う様子を、コーデリアはちらりと見た。

 怒っているというより、シェリーは納得いかない様子を見せている。


「……あの子たちに、教えてくださってありがとうございます」


 できるだけ固さを取り除くよう意識しながら、コーデリアは控えめな笑顔を作ってシェリーに向けた。シェリーと話すのは怖い。しかし彼女の周囲を探るのであれば彼女との接触も避けられないし、なによりこのまま悪印象を残すことは避けたい。


「……どうして貴女がお礼を言うの? 私は貴女に言ってないし、結局あの子たちも貴女が言ったから雨が降るって思っただけじゃない」

「でも、貴女の言葉がなければ私もあの子たちに伝えることもできませんでしたから」


 そう伝えながらシェリーの様子を窺えば、不満を抱かれているようには感じるものの強い敵対心までは感じられなかった。


(……それもそうよね。まだ初対面だし、そもそもコーデリアが余計なことをしなければゲームでも対立することはなかったはずだもの。むしろ敵対心を持っていたのはコーデリアだもの、ね)


 そう思えば少し冷静になれたが、それでも鼓動の早さは落ち着かなかった。コーデリアが命を落とした条件は『王子とシェリーの恋愛成就に嫉妬し魔術を暴発させる』というもので、今の自分が起こすとは思わない。そもそもシェリーが王子に心惹かれるのは、もう少し先だ。ゲーム通りであればこの段階で王子がシェリーに惚れていることはあっても、シェリーが王子の正体を知っていることはないはずだ。


(この件を片付けて距離をとれば、きっと今まで通り平穏に暮らせるはずよ)


 同じ名門伯爵家の令嬢だとなれば、社交界でまったく関わらないことは難しいだろう。

 しかし仲良くしなければいけないわけではない――むしろ、エルヴィスだって相手方であるクライドレイヌ伯爵と仲がよいわけではないのだから、表面上当たり障りなく付き合えばいいだけだ。


(ゲームとの差異が生じていても……結局関わらないでいれば安泰のはず)


 そう考えていると、シェリーは口をとがらせながら言葉を発した。


「……あの子たちが濡れなかったなら、もうそれでかまわないわ。全然、夢のことは信じてもらえなかったけど」


 少しふてくされた雰囲気ではあるものの、最終的に彼女が発した言葉にコーデリアは少しだけほっとした。


(優しい子、かな……)


 言い方には少々問題があるし、記憶にあるゲームのヒロインとかなり性格に違いがある――はっきりと言ってしまえばとても気が強い少女であるようだが、それもミックたちのために言っていたのだ。それならば今まで通りコーデリア自身が気をつけていれば、このまま問題が起こることもない――そう、信じたい。


「シェリーさん、貴女も雨に降られてしまう前に中に入りましょう。それから、もう勝手に生け垣をくぐって外に出てはいけませんよ。出るときは誰かに告げた上で、門をくぐってくださいね」

「だって外から子どもの声が聞こえたんだもん……」


 その他の行動はともかく正規の通路を通らなかったことは悪かったと思っているのか、年齢に比べて少し幼い様子ではあるが一応非は認めているようだ。


「あの子たちのことを心配してくださったのですね」

「だって、私の力は皆を幸せにできるはずだもの! それに、皆の役に立っていれば、いつか殿下のお役にだって立てるはずだわ! そうすれば恩返しだってできるもの!」


 安心しかけた矢先の言葉に、コーデリアは表情を固めた。


(なに、この、違和感……?)


 シェリーが王子と出会っていることには驚かない。しかしすでに王子に対して忠誠を誓っているような言葉を発したことには強烈な違和感を抱いた。出会ったときに王子だと身分を明かされたのか? いやヴェルノーが王子のことを気に入っている雰囲気から考えて、それは考えにくい。不用意なことを言う者であれば、ヴェルノーだって面倒臭がって近づかないはずだ。


(それに、殿下へ恩返し……? ゲームと、話が違っているわ)


 そもそもゲーム内ではシェリーは周囲の人々に対して自らの力を使うものの、このように不特定多数に、そして積極的に周囲に示していくタイプではなかったはずだ。そして何よりその力を武器にしようとも考えていなかったはずだ。


「でも、まだあんな子たちにも私の力は知られていないんだもの。殿下に知っていただき、私の力を見ていただくためにも、もっと頑張らないと」

「シェリーさん、そろそろ本当に戻って下さらないと、また貴女がどこかに行ってしまったのではないかとみなさん心配してしまわれます」


 話しているうちに機嫌が治ったのか、クラリスの言葉にシェリーは「はぁい」と返事をすると、少し軽い様子で教会の中へ戻っていく。しかしその途中で彼女はコーデリアを振り返った。


「ねえ、貴女は私のこと、知ってる?」


 それは疑問形ながらも、確信に満ちている様子だった。

 頷くコーデリアに、シェリーは満足そうに笑い、そして教会の中へと戻っていった。




フロースコミック様にてコミカライズ開始しました。

毎週水曜日更新です。よろしくお願い致します ( *・ω・)*_ _))ペコリ

http://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FL00000005010000_68/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドロップ!! ~香りの令嬢物語~ 書籍版 (全6巻発売中)コミカライズ版
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ