第十八幕 焦げ茶の髪の少女(下)
その日、コーデリアは近くの森の一つであるウィーネの森にやって来ていた。
朝から空が晴れ渡っていたので、急ではあったがコーデリアはロニーとカルラに「ウィーネに行きましょう」と言ったのだ。ロニーは驚いていたし「後が怖い。エルヴィス様が怖い」と呟いていたが、コーデリアは聞こえない振りをした。早くに帰り、バレなければ問題ないのだ。カルラはウィーネがどういった森なのかよくわかっていない様子だった。
ウィーネの森は中心に小川が流れており、沢山の水の聖霊が棲むと言われている。水の聖霊は安息の守護者とされ、人々を癒すと言われている。しかしその一方で人々がこの場を訪れることはあまりない。精霊が棲む森は他の森に比べ魔物の出現率が少々高いのだ。だから訪れるのであれば護衛が必要になるし、護衛がいたとしても安心だとは言い切れない。
だがそんな場所にも関わらず、コーデリアは11歳を過ぎたころからこの森を出入りするようになっていた。ちなみにエルヴィスには内緒にしてある。出入りしているうちに何度か魔物に出会ったこともあるがロニーやイシュマが居るので心配するようなことは起きていない。逆に実戦訓練というべきか、コーデリア自身も魔物に対する戦闘能力を少し養うことに成功していた。兄のように魔物を殲滅させるような魔術や剣術は使えないが、植物を使い雁字搦めにする方法は得意魔術の一つとなっていた。
(……まぁ、戦闘系令嬢になる予定はないのだけれど護身術は大切よね)
気持ちよく風がそよぐ中、コーデリアは髪を抑え、気を取り直しながら呟いた。
「この森の中は街より魔力が澄んでいるの。だからカルラ、貴女の魔力も見つけやすいかもしれない」
コーデリアは愛馬の上から、ロニーの馬に乗るカルラにそう伝えた。しかしカルラはそんな事よりも水とぶつかり合っている透明な岩などに驚かされていた。この森の岩は水に近ければ近いほど透明がかっている。これは森の魔力がそうさせているのであって、例えば王都に持ち帰ればただの石と化してしまう。だからこの森に来なければ見られない光景だ。
分からないのであれば見れば早い――そう、コーデリアが思った通り、魔力が森に与える影響をカルラは肌で感じていたらしい。しばらく呆然としていたカルラだが、やがてゆっくりと口を開いた。
「これも、魔法?」
「魔法……かもしれませんね。魔力がなければこんな風景は見られない」
「魔法って、こんなに綺麗なのね」
ロニーの馬から音もなく飛び降りたカルラは純粋に驚いている様子だった。
コーデリアも馬から降りながら、その言葉に耳を傾ける。カルラは続けた。
「私、ホントはあんまり魔法に良いイメージ持ってなかったの」
「どうしてかしら?」
「だっておとぎ話の魔女って悪い人ばっかりじゃない。中には救国の魔女もいるけれど、その時ですら敵対する悪い魔女が出てくるわ」
カルラはそう言いながら口を尖らせた。コーデリアは苦笑した。否定はできないからだ。ただ、コーデリアは彼女の主張に疑問で返す。
「ならばどうして貴女は魔術を使うであろう屋敷で働きたいと思ったのかしら?」
「……お金がいるからよ。貧乏だけどお金大事だもん。それなのに魔法を習うーって、そんなこと全然考えてなかったし。ロニーは字を教えるのは上手なくせに魔法教えるの下手だし」
「カルラ、頼むからもうちょっと言葉と空気を読むことを覚えてくれ。お前の口調も、俺がお嬢様に変なしゃべり方するせいだって最近怒られてるんだからな」
自らの主張を遠慮なく言い放つカルラに、ロニーは『参った』という様子で額に手を当て話に割り込んだ。どうやら流石のロニーでもカルラの態度は想像の斜め上らしい。だがカルラは「ロニーと大して変わらないじゃない」と相変わらずの主張である。
「でも、ちょっとだけわかった気がする。お嬢様って、悪い魔女じゃないって」
「最初はそう思ってたのかしら?」
「あっさりと受け入れるから、逆に怪しかったわ」
あっさりと肩をすくめて暴露するカルラは全く悪びれておらず、けれど少し不満そうに言った。
「お嬢様がもう少し悪い魔女なら良かったのに」
「あら、どうして?」
「それなら、魔女に苛められた―って私も思うのに。字を習わせて魔法を習得させようとして、これじゃ私はただの給料泥棒だわ」
そんな言葉にコーデリアは静かに笑った。そして「ねえ、カルラ。あれを見て」と水面に咲く花をすっと指差した。カルラは「わぁ」と珍しい声を上げた。
「お嬢様、あの白い花はなんというの?」
「スイレン、ね。清純な心を映す花と言われているわ。生命力も強い」
「スイレン……」
聞いたことも見たこともなかったらしい彼女は、小さな声でそれを繰り返した。コーデリアはそんなカルラに向かって言葉をつづける。
「あの花はね、与えれられる魔力で色が変わるのよ」
そう言いながら、コーデリアは軽く自分の魔力を花に向かって飛ばした。花は白から薄桃色に色を変えた。
「あなたも、やってみる?」
「でも、やり方がわからないわ」
「先生は居るわ。ロニー?」
「はいはい、今日は課外授業ってとこですか」
今日は遊びに来たんじゃなかったんですか、と、ロニーは少々おどけながらも先生の様子に態度を変えた。
「まあ、何をするにも的があった方が分かりやすい……けど、まずは手元でやってみないとな」
そういうとロニーは比較的近くにあったスイレンに手を伸ばし手繰り寄せた。そしてがくの下で花を切り離し、そしてそれをカルラに渡した。
「俺はあんまり感覚表現は得意じゃないけど……何となく、ふわっとした気を纏っているのはわかるか?」
ロニーの言葉にカルラはすぐには首を振らず、少し考える様子を見せた。はっきりとはわからない。けれど何か感じるものはあったのだろう。
「まぁ、今日中に花の淵の色でも変わればいいんじゃないか」
ロニーは確かにありそうな収穫を、長い目で見守る言葉を吐いた。
++
結局、カルラは昼過ぎになっても花の色を変えることはできていなかった。
けれど徐々に感覚が鋭くなっている彼女は『確かにそこに何かある』というのが分かるようになったらしい。彼女はいつも以上に神経を研ぎ澄ませている様子だった。もっともそれは途中八つ当たりのように「じゃあロニーが変えて見せてよ」と言った際、ロニーがあっさりスイレンを水色に変えたことも影響しているようであったが。カルラにとってのロニーは先生であるよりライバルの方が近いのだろうか。
「私、カルラが何色に花を変えるか、わかっちゃったわ」
コーデリアは悪戦苦闘中のカルラにそう言った。するとカルラは弾かれたようにスイレンから顔を上げ「絶対言っちゃだめだからね!!」とコーデリアにくぎを刺した。コーデリアはその様子に笑った。
「でも、少し休憩した方が良いわ。集中力は案外保てないものなのよ」
特になれないことをするときはね、と、コーデリアは木陰からカルラとロニーを呼んだ。ロニーは休憩に喜び交じりだが、カルラはどうも不満らしい。木陰にやってきたはいいものの、かなりしぶしぶと言った様子であった。
コーデリアはそれでも当然気にすることなく、「この木からも暖かい魔力を感じるわ」とカルラに語り掛けた。
「ねえ、少し眠ったらどうかしら」
「え?」
「睡眠は消費した魔力を取り戻す一番早い手段よ?集中力もきっと戻るわ」
そう言い、コーデリアはすっと草の上に転がった。転生以降はしたことのない、令嬢らしからぬ大胆な行為だ。それにロニーは驚いていたが、目を閉じ、静かに魔力を感じるコーデリアには何も言わなかった。カルラは対照的に驚きはしていなかったが、「私魔力消費した何て実感ないんだけど……そうね、何か気持ちよさそうだし」とコーデリアの横にごろんと寝転がった。すると案外気持ちが良かったのだろう、しばらく草の感触を感じていたカルラは「ロニーも寝れば?」と誘った。ロニーは呆れたようにため息を漏らした。
「カルラ、お前ここが魔物が多い森だって事を忘れてるだろ?俺は護衛だ」
「えー。勿体ないわよ、気持ちいいのに。ねえ、お嬢様?」
カルラはコーデリアに同意を求めた。ロニーは「だからだめですって」と言おうとし、途中のコーデリアの「いいんじゃないかしら、少しなら」と言って見せた。
「ほら、だから良いって……って、いいんですか!?」
「お嬢様はそう言ったわよ」
驚くロニーに、うるさいとばかりにカルラは耳をふさいだ。コーデリアはロニーと目を合わせた。ロニーはその眼を見、少し息を飲んだ。カルラは「そんなに驚くことなのかしら」と呆れた声を出した。
「……お嬢様がそう言うのなら」
ロニーは座って木にもたれ掛かった。どうやら寝転がる気までは無いらしい。
そして呟いた。
「お嬢様が間違ってたこと、まだないですもんね」
と。
++
雲が流れ、風が騒めく。木々を揺らす音や流れる水の音、時折聞こえる鳥の声など、とにかく心地いい空間。気持ちが良いなとコーデリアは思った。この空間を壊したくはない。
だからこそ、本当にもったいないと思った。
コーデリアは目を閉じたまま、強く念じた。伸びよ、と。
草花が生きる感覚に身を任せ、みなぎる魔力に自分の魔力を流し込む。そして草花を光らせ、急激に成長させた。急激に成長した草花は、コーデリアの上でナイフを握り振り下ろそうとしていたカルラを捉えていた。そしてカルラの首には素早く動いたであろうロニーの手刀が寸でのところまでとらえている。
「本当に眠ったとお思いで?」
「……っ」
コーデリアは短く言うと、コーデリアはゆっくりと体を起こした。こうなることは分かっていたのだ。
「貴女……本当は私を殺めに来たんでしょう?」
「っ、」
別に驚きはしなかった。元々は予感があったし、こうなることが分かっていてコーデリアは
「闇ギルドに身を置いているわね」
「……そうよ」
「足音は少ないし、身のこなしが随分軽い。技術はあるけど……まだ、拙い。今日も馬から降りる時なんて、無意識に気を緩めてしまったから音が無かったんでしょう?普通の人間なら足音が立たないなんて無いはずだもの。でも、だからこそ子供の暗殺を任されたのかしら?」
「……」
「そして、本当はそんなことしたくないと思ってる」
「……どうしてそう思うの」
「あなたが私の上で随分長い間迷っていたからかしらね」
本気であれば、もっと早くに動けるはずよ。そうコーデリアは言うと、カルラの腕を掴んだ。カルラは嫌がる素振りを見せたが、草花に絡め取られた体は思うように動かない。
「魔力の強い呪縛を受けているわね。右腕一本丸々呪いをもらっているというところかしら。これだけ汚染された術式を埋め込まれたら、命令に逆らうこともやっとでしょうに」
「……」
カルラは何も答えない。ただ、悔しそうに唇をかみしめていた。コーデリアはその様子を見ながら、ロニーの名を呼ぶ。ロニーはそこでやっとカルラの首筋から手を遠ざけた。そしてカルラの袖をまくりあげた。
「うわ、まさかとは思ってたけど、思ったよりも複雑だな……っていうか、解除できっかな、これ……」
「やるでしょう?」
「ま、出来るところまではやりましょう」
そう、先ほどまでの緊迫をほぐすようにロニーは言った。
カルラがかけられている呪いは術者の意に反した行動をとると苦しみを受けるというものだった。当然禁じられた魔術の一つだ。元々カルラの魔力が強いこともあり、苦しみは増幅されていただろうとコーデリアは思った。
呪いは往々にして複雑なものが多い。そしてロニーが言うように、カルラが受けていた呪いは非常に複雑なものだった。
しかしそれでもこの澄んだ場所で、尚且つロニーの力ならば解除できるかもしれないとコーデリアは踏んでいた。ロニーの能力ならば、魔術を分解して潰していくことができる。
コーデリアはひとまずロニーに任せるとゆっくり川辺に近づき水を掬った。そして入れ墨があるカルラの腕に水をかける。多少はこれも手助けになるだろう。そして更なる助けにと、コーデリアは水辺に自生しているハーブを引き抜いた。セージだ。
元々救いのハーブと呼ばれるセージは、抗酸化作用が非常に強い。ゆえにセージのある家は死人が出ないと言わたこともあると前世では聞いていた。その上で、この世界のセージは非常に強く清らかな魔力を纏っていた。だから力を増幅させれば呪いの対抗手段の一つになり得るとコーデリアは考えていた。一応自宅からもセージは持ってきてはいたが、植わっているものがあるならそれを使う方が良い。特に今回のような生きた魔力を扱う場合は。
もちろんロニーの力だけでも解除できるかもしれない。けれど、呪いを解くには呪いをかけた人よりも強い力を持っていなければ、『共喰い』に遭い、呪いを共有してしまうことも少なくはない。
セージがあろうとも危険な任務にはかわりないが、不真面目そうな言葉とは裏腹にロニーの目は真剣だった。コーデリアもセージに魔力を注ぎ、その力をカルラにぶつけた。カルラは痛みを訴えるような声を一瞬上げたが、それはすぐに噛みしめられ、飲み込まれた。
「ぐっ……」
術式を指でなぞるロニーの額には脂汗が滲む。
呼吸も荒く、緊張感も高まり、空気は張りつめている。
「あーあ……俺も中途半端に弟子を見捨てられたらなぁ……」
ただ、ロニーのその声だけが緊張感から遠いところにあり、そのまま緊張の局面は変わらない。コーデリアの手にも余波は伝わり、痛いほどにその呪いの力を感じていた。ロニーが「お嬢様巻き込んで共喰いなんて遭う訳にもいかないし、まぁ、がんばるか」と、更々諦める気もないくせにそう言ったのも、ほとんど聞こえていなかった。
それは時間にして長くはなかったはずだ。だが、酷く長い時であったように三人とも感じていた。
やがて光が弾け、カルラの腕にはうっすらと痕が残るものの、呪いの術式は消え去っていた。
ロニーは草の上に寝転がり、全力疾走をしたかのような息の上げ方をしていた。それはコーデリアもあまり変わらない。地に片手をつき、荒い息を吐く。
「……ど、して」
涙を伝わせながら、しかし状況を把握しきっていないカルラに、まだ荒い息のロニーが言った。「お嬢様は最初からお前の呪いは解除するつもりだった」と。
「俺もちっちゃいガキがこんなん受けてるのはアレだし、状況聞き出したらすぐ解除して逃がして終わりかと思ったけど……まぁ、お嬢様はそれだけでは気が済まなかった訳だ」
「……どうして?追手の、心配?」
呆然としているカルラに、コーデリアは首を振った。
「貴女がどう動くか、どう考えているか見極めたかったかもあるけれど……私は、貴女に依頼をしたいと思ったの」
そういうと、コーデリアは魔力で自らの髪をひと房切り落とした。
そしてそれをカルラに握らせながら言った。
「まず、貴女は、手柄を得たふりをしなさい。それから――本当の名前を教えてくれるかしら?」
ここからが本番よ、と、コーデリアはにこりと笑った。
++
夜半過ぎ、王都から少し離れた峠のはずれ。
カルラはコーデリアの髪を持ち、無表情で薄暗い自らのアジトに足を踏み入れた。そこには自らに魔力を埋め込んだ魔女――この闇ギルドの主が居た。魔女は入り口には背を向け、椅子にもたれ掛っている。
カルラは何も言わずに部屋を進み、中央のテーブルにコーデリアの髪をひと房置いた。その髪には、魔力を感ることが出来る者であれば、すぐに気づくことが出来るほどの魔力の残り香が漂っている。
「……どうやら、初めて仕事出来たようね。珍しい魔力の波を感じるわ」
そう、カルラの方を見ずに魔女は言った。カルラは何も答えなかった。
「なかなかいい動きが出来そうだって思ったのに、思った以上に情にもろいからどうしようと思っていたところよ」
「………」
「なぁに?褒めてあげているのに、嬉しくないなんて」
妖艶に笑いながら、魔女はようやく振り返り……そして気づいた。カルラの後ろに、フードをかぶった二人の人間がいることに。その押し殺された気配に魔女は眉をひそめる。
一方、そのフードの人間は魔女が振り向くや否や大げさともいえるため息をついた。
「こんな子供使って楽してるってどんな美女かと思ったけど……思ったほどじゃなかったか。しかも気配を消したとはいえ、裏の人間がこちらに気づかないとはね。俺の方が格上か?」
そんな言葉に、魔女は眉を吊り上げた。
「カルラ、人を連れてきていいとは言っていないわ。その人間、二人とも呪うわ……よっ?!」
魔女が言い終える前に、人影は魔女の喉元に短剣を突きつけた。急に飛び出した人影は、そのフードを後ろに飛ばしていた。そして魔女をねじ伏せる。
「ここ来る前に肩慣らしのつもりで何か所か潰してきたけど、あんたらえげつないね。お嬢さん狙ったのはカイナ村をはじめとする小麦の件で、わるーい利益を損失したからか?」
フードから出たロニーの顔は、いつもとは比べ物にならない程冷ややかだった。そして鋭い声で魔女に問うた。そんな彼に「これ、ロニー。小さなお嬢さんが怖がるぞ」と彼の上司が声をかける。しかし上司とて臨戦態勢であり、魔女を逃す気は更々ないという空気が満ちている。魔女は舌打ちをした。
「禁じられた呪いに関しては少し使えるみたいだが、逆にいえば解除されても気づけない、呪いしかできない魔女だとはね。これはおとぎ話の魔女そのものだよなぁ」
ロニーはやれやれと首を振り、そして怒りのままに呪いを発動させようとした魔女の足元を払いのける。魔女は盛大に転んだ。その間に手際よく次の行動にロニーは移る。
「この至近距離じゃ、そんな魔術くらわないですよっと」
魔力を込めた鎖で魔女の手を縛りながらそう言ったロニーは、大袈裟にため息をついた。
「なんか拍子抜け。本拠地が一番手薄だったなんて。もっと手強い奴がいると思ってたんだけどな」
「……さっきから、まるで私たちのアジトをつぶしてきたような言い方だけど」
「つぶしたよ。お嬢様の命だったんでね。遠方の残りの場所も、今まさに俺の先輩方が向かってるわけだ。ま、お姉さま方より早く情報を伝える手段あんたはもってなさそうだけど」
「は?潰した?そんなことを私が信じると思ってる訳?」
笑いそうな魔女に向かって、ロニーは見下ろしなが鼻で笑った。
「俺らを誰だと思ってるんだ?パメラディアの魔術師だぞ」
と。
++
同刻、コーデリアは一枚の報告書を作成していた。
「お父様への”正しい報告”は真面目に口頭で行うとして……書面上の顛末は、助けを求めに来た少女からの通報により闇ギルドを駆除した……というところかしら。怪我もさせてないし、相応の所に突き出したらお終いね。……ウィーネに行ったことは黙っておきましょう」
カルラの呪いを解いた後、三人は急ぎパメラディアの屋敷に戻った。そしてコーデリアはカルラに賞金首のリストを見せた。カルラがいた闇ギルドのメンバーの大半は予想通り、賞金の違いこそあれ、名や似顔絵が載っていた。載っていないものも居たが、拠点を抑えてしまえばどうにかなるだろう。そのことに対し事後処理が少しは楽になりそうだとコーデリアが考えたのは言うまでもない。
もちろんコーデリア自身が敵地に乗り込むことはさすがに許されなかったし(行きたいと言えばロニーに辞めてくれとこの世の終わりを見るかのような顔で懇願された)、そもそもせっかく髪を持たせているのに魔力の主が近くにいれば全て意味がなくなってしまう。だからコーデリアは彼らが働いている間にきっちりと報告書を仕上げていた。
「禁術を使うとはいえ、決して大きな規模の闇ギルドではなかったわ……でも、牽制くらいにはなったでしょう」
子供にしてやられた。そこまで伝わるかどうかは分からない。けれどコーデリア自身そこまで望んでいるわけではない。いや、伝われば尚良いが、最低限パメラディアに手を出したら容赦がないとだけ再認識されればそれで良いのだ。
元々パメラディアに度々襲撃があるのはコーデリアも知っていた。そしてそのたびに退けていることも。しかしだからと言って正面突破が出来ると思われるほど生ぬるいと見下されるのは御免である。もっとも、今まで手出ししてきたところも決して大きなところではなかったが。分かっているのだ。ある程度の力があるものは、パメラディアを襲うなど割に合わないことが。しかし、だからこそ羽虫の駆除を怠るという話ではない。
「薬草研究のつもりが……まあ、たまには、か――」
数日前、父に言った『一つ闇ギルドを潰してみたいと思います』。それをひとまず完遂したコーデリアは「カルラ……いえ、ララには文房具の改良にでも携わって貰おうかしら」と、窓の外を眺めた。今日も星はきれいに輝いていた。




