仮3
慌てて回避ボタンを押すと、俺機の脇を木村機が抜けていく。
「キャー! 何、ダイちゃん!」
木村機の攻撃は、俺の背後を追っていた恵ちゃんの機体に当たってしまったらしい。
さすが、田中。憎ったらしい技だ。しかも、必殺技ゲージをあまり消費しないようだぞ。
俺は、攻撃ボタンを連打して、田中機を追う。レーダー表示を見てみると、俺機のすぐあとを木村機が追っている。恵機はもうレーダーから消えちゃった。
……と思ったら、女性陣は、マイク越しに世間話をしはじめた。まあ、いいや。こういうゲームってあんまり興味ないよね。だって、『お母さん』山田が全然姿現さないもの。
いいさ、とにかく田中機だ。必殺技が憎たらしいだけについムキになっちゃうわ。
逃げる田中機。そのあとを俺機と木村機が追う。田中機はもうあとがない。このまま進めば場外だ。ダッシュボタンと攻撃ボタンを交互に押す。
田中機には、通常攻撃で削っていくのが一番有効みたいだ。フィールドぎりぎりのところで右に切り返し、田中機が反撃してきた。
今がチャンス! 必殺技ゲージもたまった!
【歩留まりアップ・ムーーーーーブ!】
田中機に急速接近する俺機。お前の攻撃なんか聞かないよ! 間合いをはかって近接攻撃! ガッツン! ガッツン! ガッツン!という、攻撃に合わせて田中のワッ! アッ! ワッ! という声が聞こえる。
全攻撃が命中!
アニメーション画面になって、田中機が爆発した。
「あ~あ……」
と、田中のため息。ハッハッハッハ、正義は勝つ。
すぐに振り返って木村機の迎撃態勢を取る俺。でも、木村機は俺から遠ざかっている。狙いは恵ちゃんか『お母さん』山田か?
木村機が恵機にまっしぐらに向かう。なるほど、俺は後回しにして、得意そうじゃないのから攻めて行こうっていうのか。で、近くにいた恵ちゃんの機体ってわけね。
観戦させてもらおうか。必殺技ゲージもたまるしね。
「よおおおし! 私も本格的に参戦するよ!」
と、恵ちゃん。向かってくる木村機を捉えたらしい。
〈手がお留守になった〉田中がペラペラと話しだした。誰も相手にしない。笑える。壁に向かって話してろ。か、黙ってゲームを見てろってえの。
木村機のあとを追ってみる。あっ、木村機の向こうに恵ちゃんの機体が見える。
【コ・ン・セ・プ・ト・ごり押しパーーーーーーンチ!】
恵ちゃんの機体がアップになってアニメが入る。終わった瞬間、猛烈なスピードで木村機に接近してボカボカボカボカと、猛烈なパンチを繰り出している。攻撃が当たっているエフェクトで包まれる木村機。パンチが終わった瞬間、とどめのキック。木村機が俺機の方へ向かってすっ飛ばされた。俺は落ち着いて回避ボタンを押す。木村機が俺機の後ろに消えていった。
【ハ・イ・ヨ・ロ ショオオオオオオット!】
と、木村機のアニメーション。
(バカッ! 脳筋! やめろおおおおおおおおおお!)
木村機のぶっといビームを背後からまともにくらってしまった俺機。耐久力ゲージが半分以下になってしまった。
恵ちゃんの機体は、すっと、俺から見て右側に移動する。
(くっのおおおおおおお!)
俺は、最後の必殺技を準備する。それは、『どうかひとつソード』。お客さまから急な注文が入ったとき、頑固な現場主任に60度の角度で頭を下げて、段取りを無理に変えてもらう必殺技。
必殺技メニューを選択して、そのまま攻撃ボタンを押しっぱなしする。攻撃力を貯めるんだ。悪いが漁夫の利をいただいちゃおう。バトルロイヤルなんだから弱肉強食さ。
右に移動した恵ちゃんの機体が、俺機を回り込むようにして木村機の側面に出る。俺は、攻撃力ゲージを貯めながら、視点変更して、高みの見物だ。
【徹夜! 上等おおおおお!】
木村機に向かってやにわにスライディングする恵ちゃんの機体。まともにくらった木村機がバランスを崩す。崩したと思ったら、木村機は、ガガガガガガガガッっと上に蹴り上げられ、高く上がったところで地面に向かって蹴り落とされた。白いポリゴン的な床にたたきつけられる木村機。木村機がピヨッた。ロボットゲームなのに格闘ゲームのようにピヨリ機能があるなんて、まあ、試作ゲームだから……。
コンセプトとか、徹夜とか……。ああ、恵ちゃんは、グラフィックデザイナーとかいっていたな。ロボットデザインしたのも恵ちゃんだろうか。女性陣が使っている機体、女性らしいフォルムだし。
【コ・ン・セ・プ・ト・ごり押しパーーーーーーンチ!】
恵ちゃんの見事な連携攻撃。木村に態勢を立て直す隙を与えない。
「っだああああああああああ!」
木村が叫ぶ。コントローラーが床に落ちた音がする。もしかして、たたきつけた?
ピヨッていた木村機が、再び、ボカボカボカボカと、猛烈な速さのパンチを浴びる。そして、とどめのキック。アニメーション画面になって、木村機が爆発した。
「恵ちゃん! ゴメン! 一応ゲームだから!」
爆発画面が終わった直後、俺は、貯め押ししていた攻撃ボタンを放した。ロックオンしていた恵ちゃんの機体に向かって。
【どおかひとつ・ソオオオオオオオドッ!】
俺の機体が猛烈な勢いで恵ちゃんの機体に向かっていく。
ゴメンよ、恵ちゃん。俺が、貯めに貯めたフルパワーの近接攻撃の必殺技を受けてしまった以上、終わりだよ。また、遊んでね……。残すは、どっかに隠れてる『お母さん』山田のみ。
機体同士が接触したかと思うと、ガガガガガガガガッと乱れ切りして、ガツッと空中にすっ飛ばしたかと思うと、恵ちゃんの機体をビーム剣で地面に叩きつけた。
「っえ~ッ!? 何もできなあい!」
「ゴメンね、恵ちゃん」
「何で謝るの? 勝負なのに」
「いや、あの何か、悪いと思って……」
「何で悪いの?」
「いや……。怒ってるかなって……」
「何で?」
恵ちゃんもめんどくせえヤツだな。かわいいけど……。相当、負けず嫌いだね。
「いや、あの、その……。また勝負しようよ」
「当たり前じゃん」
(やった! また遊んでもらえる! 次は2人だけがいいなあ)
なんて舞い上がる俺。なんてやりとりしているうちに、恵ちゃんの機体が爆発するアニメーション画面が終わった。
「麻衣! がんばれ!」
と恵ちゃんが、母ちゃん山田にエール。
「うん!」
って、山田さあ。単なる恵ちゃんのおつきあいだろ? はなから戦う気ないだろ? そんなあなたに勝機はない!
まずはちょっと一休み。必殺技ゲージを上げておかないと。
「麻衣ちゃん! 空飛ぶやつ、してみなよ」
って、恵ちゃんが入れ知恵する。俺に負けたことがよっぽど悔しかったのか、それとも女の子の結束ってヤツか……。
【上へ・まいりま~す!】
山田の鼻にかかった声。どっと笑い声が聞こえる。
「恵ぃ、やっぱ、恥ずかしいよこれ」
「そんなこと言ってないで、早く攻撃!」
くっそ、恵ちゃん、入れ知恵してきやがる。
空高く舞うピンク色の山田機。普通は、ジャンプしかできないが、山田機は違う。飛んでいる。ビームがガンガン飛んでくる。必死でよける俺。滞空時間が長い。早く降りてこい! 降りてきたところを必殺技してやるから。
「麻衣! タッチンから離れて! 近づけさせない! そうそう!」
くっそおおおおお、恵ちゃん、俺の考えていることを先読みしやがって!
山田機がふわりふわりと降りてきた。急いで駆け寄る俺機。必殺技『歩留まりアップムーブ』を使おうと迷ったが、やめておく。ゲージを貯めて、一気に決めてやる。
「麻衣! 下に降りるやつ」
「はいはい」
恵ちゃんのうるさい口出しに、子どもをあやすような口調で答える山田。さすが、母ちゃんが板に付いている。
【下へ・まいりま~す!】
みんな吹き出す。鼻にかかった声が面白い。俺も気が緩んでしまった。
山田機は、ギューーーーーンッと、地面をスライディングしてきて、俺機の足をすくったかと思うと、空中に蹴り飛ばされ、一瞬にして、地面に叩きつけられた。
画面が真っ白。どうやら、フィールドの地中に入ってしまったらしい。もう、耐久力のゲージがない。ほぼゼロだ。
一発逆転を狙うには、必殺技しかない。むくむくとタケノコが生えるように地面から顔を出す俺の機体。
しかし、次の瞬間、
「麻衣! トドメ!」
「は~い!」
【リョウタあああ! いい加減に! なさあああああい!】
というアニメが入った直後、俺の機体は、山田機に抱えられて、ケツをはたかれた。もう、ゲージがなかったので、そのままフィニッシュエフェクト。すっ飛んで場外に飛ばされた。あっけないアニメが流れる。
「やったあああああ!」
恵ちゃんはわがことのように喜んでいる。
何だか……少しだけ……明日の出勤が楽しみになってきた……気がする……。
(了)
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
心より御礼を申し上げます。




