仮2
恵ちゃんの手料理、アンド、コンビニオードブルを振る舞ってもらって、ご機嫌で帰ってきた俺。恵ちゃん家で受け取った大事な段ボール箱、おれにとっちゃあ玉手箱。まずは心の中で拝みながら開けてみる。いざご開帳。
若ハゲ君が見せてくれたお弁当箱みたいなヤツとセンサーが入ってる。まずは、箱をテレビに接続する。あと、インターネットか。
おお、ロボゲーだ。しかも、今でもたまに遊んでるヤツみたいじゃないか。よくできてる。
対戦モードでは遊べないようなので、とりあえず練習モードにしてみる。ロボットもよくできてるわ。リアル系だね。かっこいい。おお、自分でカスタマイズできるぞ。
ロボットのパラメーターがいろいろある。耐久力、攻撃力、防御力……。変わってるなって思ったのは、洞察力、魅力、自制力、忍耐力、調整力。ロボゲーに何の関係があるんだ? 他にも、裏パラメーター見たいのがあるらしいぞ。
必殺技ってところが全て『デモ1』、『デモ2』、『デモ3』……ってなってる。これは、実際にセンサーをつけて、データを反映しないと出ないようだ。
うん。操作感は、普通のロボットゲーム。普通にあそべる。じゃあ、明日は、センサーとやらを着けて出勤しよう。
俺の仕事は、金属加工会社の生産管理。段取りが第一。お客さんから急ぎの注文が入ったときが腕の見せ所。現場の製造主任に頭を下げたり、怒られたりすることもあるけれど。とにかく、1週間後には、いま着けてるセンサーが収集したデータを元にゲームが遊べるわけだ。楽しみだ。
土曜日、俺は缶酎ハイを飲みながら、1週間出勤中に着けていたセンサーとやらをゲーム機に接続してみる。画面のプログレスバーが出てきて100になると、ステータス設定中とか、出る。
生ハム、うまい。冷ややっこ、うまい。
俺のロボットは、計画力と調整力がやたら高い。調整力ボーナスでステータスが補足されましたって、なんだそりゃ。何か、普通のステータスになっている。よくゲームの取説とかであるヤツ。仕事中のどんな行動がロボットのステータスにどんな影響を与えるかは、絶対に明かせないと、若ハゲ君は言っていたな。まあ、そうだよね。不正ができちゃうから。マシンのステータスはプレーヤー側で調整できないから、それを生かした戦い方が必要だとも言っていたなあ。まあ、そうなるよね。
練習モードで遊んでみる。必殺技が使えるようになっている。『段取りショット』『どうかひとつソード』『歩留まりアップムーブ』だって……。なんだそりゃ。仕事中によく口にする台詞に技的な言葉をつけてるだけじゃねえか、ってひとり突っ込みしているけど、面白そうだわ。
NPCと戦ってみると、新しい。新感覚。思わずニヤついちゃう。必殺技アニメ、自分の声で再生されるのか……。自分の声を聞くのは、照れくさいけど。不思議な感じ。仕事で使う台詞が戦場を駆け巡る。戦場っていっても、味気ない四角や丸、多角形とかいった立方体のオブジェクトしかないけどね。試作ゲームらしいから。
日曜日、午前10時10分。山田がゲームにログインし、予定より15分遅れでゲーム開始。お母さんはいつだって忙しい。
おい、田中。横からウザイぞ。若ハゲお義兄さまが説明しているだろうが! ミュートしてやろうか!?
ルールはバトルロイヤル形式。ダメージレベルは『中』。まあ、テストだからね。本気じゃないから。プレーヤーが必殺技を出すと、そのたびにアニメーション画面に変わるらしい。ウザそうだけど、テストだからね。他の人の必殺技見てみたいし。
白とグレーのフィールドに、紺と白の俺の機体。リアル系ロボット。後ろ姿しか見えないのが残念だ。コックピットモードにもできるけど、周りが見えないからね。さあ、誰からやってやろうか。ってもう決めている。田中だよ。お調子者のヤツには負けたくない。
フィールドは結構広い。相手が見えないや。田中を捜し、ホバー移動する俺。遠くに『脳筋』木村の黒い機体を発見! しかし、俺を無視して、オブジェクトの陰に消えた。
しかし、その直後、画面がぱっと切り替わり、木村の機体がアップになったアニメーション画面になる。
【ハ・イ・ヨ・ロ ショオオオオオオット!】
文字が木村機に被さる。
みんなの笑いがどっと起きる。プレーヤーの声で再生されるのが笑える。
木村機のライフルからぶっといビームが発射される。
インパクトありすぎ。木村、居酒屋チェーンに勤めてるっていっていたからな。
次の瞬間、再びアニメーション画面。
【それ・彼が・得意ですよの舞!】
お調子者の田中機だ。ああやって、上司に振られた仕事を他人に回してるんだろ。ヤツらしいや。
再びみんなの笑い。プレーヤーの声で再生されるのが面白い。自己弁護する田中。みんなに受けたのを喜んでやがる。俺は、お前の自虐ギャグに笑わないぞ!
田中機は木村機の攻撃をかわしたらしい。
たたみかける木村機。再び画面が変わる。
【声だせ・バカヤロー!】
拡散ビーム砲だ! さすが脳筋木村。攻撃力ステータスが高いみたいだ。
って、あんなこと、新人やバイトに言っているのかな?
(今度は田中が!?)
……って思ったら、田中は何もしてこない。そのままダメージを受けたらしい、右画面のステータス画面がぐっと下がった。
脳筋も俺と同じことを考えているようだ。最初俺を無視したのもうなずける。これは共闘態勢に持ち込むしかない。
【歩留まりアップ・ムーーーーーブ!】
田中機の側面から一気に近づく俺機。この必殺技は、移動中ダメージレベル最小で敵に肉薄できる。説明ウインドウには、『ムダのない動き云々……』って書いてあったけど、こういう形でゲーム上に表現したようだ。
「ブド……何?」
「歩留まり?」
と、女性陣の声。
(分かりづらくてすまん。そういうシゴトをしているのよね)
必殺技ゲージがあと3分の2残ってる。このまま、必殺技をたたき込もう。
【段取り・ショーーーーーット!】
俺機から、太いビームが連続で発射される。
「段取りって……」
「あははははっ!」
笑う女性陣。
必死すぎて沈黙の男性陣。
【あ・と・は・任せた! 頼んだよシーーーーールド!】
俺の必殺技アニメの直後に、田中機のアニメが入る。女性陣、爆笑。ヤローどもに笑う余裕はない。
と、突然、恵ちゃんのワインレッドの機体が、緑色をした田中の機体の前に立ちふさがった。
(えっ!)
と、俺。恵ちゃん機に俺の連射ビームがガツガツと命中する。深紅の機体がぐらんぐらんと踊っている。
(うわ……。やっちゃった……。どうして突然恵ちゃんが)
「アアッ! ショウちゃん、ひどおい!」
と、恵ちゃんの声が入る。やっぱり田中の必殺技か。
「メグちゃん、ごめん! 誰を盾にするか選べないんだよ。ごめんよおお」
必死に言い訳する田中。いかにも田中らしい必殺技だわ。笑える。仕事の内容じゃなくて性格がよく出てるじゃないか。
「タッチンもひどい」
と、恵ちゃん。
くっそ、俺も怒られちゃったじゃねえか。このままで許すか、お調子者の田中め。背後から近接攻撃だ!
【歩留まりアップ・ムーーーーーブ!】
「恵ちゃん、横通るよ!」
と、アニメ表示中に断っておいて、ゲーム画面に切り替わった瞬間、田中機の背中を追う。
「私も、遠慮なく撃たせてもらうから!」
と、恵ちゃん。撃ってくれ撃ってくれ。残念だけど、この必殺技の発動中は、たいしたダメージにならないからね。
黒い木村機も、緑の田中機にぴったりとくっついて、側面から通常のビーム兵器を撃っている。田中機の耐久力が少しずつ削れていく。
いいぞ、いいぞ、これぞ連携攻撃だ! 近接攻撃のボタンを入れる俺。俺機がビーム剣出して田中機の背中に襲いかかる。1撃、2撃、3撃! 前によろめく田中機。ワッハッハッハ。
【レンチャン・シフト・パニーーーーーック!】
木村が次の必殺技。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょうっと待ってよお! なんで俺ばっかり狙ってくるのお!」
と、田中。自分の胸に聞いてみろ! いい子に成仏しちゃいなさい!
田中の挙動がおかしくなった。思うように操縦できないらしい。これを受けたらやばいわ。木村、必死すぎ。手の内見せすぎ。あと残り4機を相手にしなきゃなのに。必殺技ゲージの回復に時間がかかるぞ。
ゆらゆら動く田中機の背中にビームを浴びせる俺機。ガツン、ガツン当たってる。ガクン、ガクンよろめいてる。あと少しでとどめが刺せる。
木村機も横から田中機に襲いかかる。近接攻撃だ。木村機の攻撃力なら、勝負決まりだ。田中、成仏しろ。
【丸投げだけど・お願いできる?ワープ!】
田中機のアニメーションが入った直後、木村機が俺機の前に突然ワープしてきてきやがった。




