目覚め
神様、本当に有難う。絶対ハーレムつくるよ。ぜったいに・・・
寒い。それに、息苦しい。あれは、やはり幻だったか。
しかし、死後の世界がこんなに辛いなんて、あんまりじゃないか。
というか、苦しい。ちょっと本気で苦しいって!
「ぶはっっ!げほっ、げほっ」
なんで俺は溺れているんだ?意味が分からない。
とりあえず、陸に上がらなければ。
俺は、ずぶ濡れの体をひきずりながら、なんとか陸にあがる。
そしてどっと腰をおろし、混乱する頭をどうにか落ち着かせた。
確か、道場で俺は死んだはず。しかしここは森の中、しかもあの大きな滝はなんだ?
あんなもの日本にあったか?
そして、ふと下を見ると、水面にしらない男の顔が映っている。
年齢は10代後半、髪は短めで、顔は少し弛んでいる。だが美形といわれる部類には入るだろう。
その顔を眺めているうちに、あるひとつの事実が確信を帯びていく。
・・・・・!まさかあの神の言葉、あれは幻ではなく、本当だったのか!
や、やった、やったぞ!今度は絶対に、絶対にまともな女の子と恋愛する。そしてゆくゆくはハーレムを。くそ、嬉しくて涙が出てきよ。
ガサっ
ガサガサっ
ドゴゴゴゴゴゴゴオゴオ!
突然聞こえてきた足音に反応し、振り向く。そこには全長5メートルくらいのワニがいた。
驚く暇もなく、ワニはこちらにむかって突進をしてくる。
俺はとっさに身を翻しそれをかわす。
この状況は非常にまずい。
確かに武術は極めたが、俺の流派は、主に人間の急所を突いて、相手を倒すことに重点を置いている。
よって、硬い皮に守られているワニ相手では、効果がない。それにワニの急所も分からない。というかこいつは、そもそもワニなのか?
俺はどうにかしようと考えるが、敵はそんな時間を与えてくれない。
再びこちらにむかって突進してくる。
それをかわそうとステップを踏んだ時、間抜けにも石につまずいてしまう。
「くそ、ここは道場とは違うんだ。早く態勢を、」
そう悪態をついたときには、もうワニの口が目の前に迫っていた。
何?これで終わりなのか。ハーレムどころか、前世よりひどいじゃないか。
いや、終われるわけないだろ。もう後悔はしたくないんだ。
「このワニ野郎おおおおおおお!」
仰向けの体制のまま、俺はがむしゃらにワニの口を蹴り上げた。
インパクトの瞬間、まるで爆発したかのような衝撃が走ったかと思うと
5メートルの巨体が俺の視界から消え去った。
ワニとの激闘からかなりの時間が経過していた。
あの後、自分の能力の上昇に歓喜し、技を確かめるのに数時間。
近くに誰かいないか探すのにまた数時間。
そして今、ぼろぼろになりながらも、大きな屋敷を見つけた。
もう真っ暗だな。しかも、この汚れた格好、まさに不審者の鏡。
でも、腹も減ったしもう限界です。まあ駄目もとで訪ねてみよう。
「坊っちゃん!その格好はどうなされたんですか?」
「えっ?」
「えっ?じゃないでしょう。旦那様も心配しておられましたよ。
それと、楽しむのもいいですが、レニーナ嬢のお父上は、病で伏せっているとはいえ軍神と呼ばれている御方、あまり無茶なことをするのはよしてください。」
突如屋敷から現れた、執事の格好をした、60歳くらいの紳士が、俺の腕をつかみ
屋敷の中に引きずっていった。