常識知らず
さて、廊下に出た侍女と少女。
「で、あなたの部屋ってどこよ。別館?それとも使用人の寮?
いえ、それはないわね。鈴の音が聞こえる範囲に部屋はあるはずよね。」
私の推測だとこのあたりなんだけどこのメイドが自分の部屋に入るのを見たことがないからどこかわからないのよね。
「では、入りましょうか。」
「へっ、ここ?」
メイドがさしたところは私の部屋の隣でした。
「そうですよ。」
「そっそうなんだ。」
正直ここまで近かったとは知らなかった。
とか驚いていると
「入らないんですか?」
メイドがドアを開けて待っている。
「入る、入るから。」
どんな部屋なのか見てみたいし。
そうやって入ってみたけどそこには質素な部屋が広がっていた。
メイドだからそこまで豪華なのは無理なのは当たり前だけど少しは女らしい部屋を期待したんだけど。
というか部屋にベッドと机しかないんだけど。小物どころか生活必需品も置いてないんだけど。
どうやって生活してるのか謎だ。
またメイドの謎が増えた。
ただベッドには何かが置いてある。パッと見、何かの骨で作ったナイフみたい。
多分これがワイバーンの牙で作ったナイフなんだろうけど複数手に入れてくるなんて。
「合計十三本作ってみたんですけどどうですか?気に入るのはあります?」
まてまて、今作ったって言った?
おかしいでしょ。作ったって言ったよね?
「ちょっと待って。」
「はい。」
メイドは表情を変えてない。冗談ではないよね。
このメイドが冗談言うような性格なわけはないし。
「今作ったって言った?」
「はい、言いました。」
このメイド何なのかしら?牙そのものを手に入れるなんてこと普通出来ないし、
牙を加工するのは固すぎて普通は無理なんだけど。
「とっとりあえず見せてくれるかしら。」
「ええ、どうぞ。どれでも持って行っていいですよ。」
「いくらしたの?一応聞いておくわ。」
家はお金持ちだから別にいいんだけどこんだけの数になるとちょっと。
メイドは少し悩んだ後に行った
「ただ?ですかね。」
「ただ?」
「ええ、私が作りましたから。」
「それはさっき聞いたから。そうじゃなくて材料費の事。
ワイバーンの牙を手に入れるなんてそれなりにしたでしょう。」
ギルドから特別に融通してもらうぐらいじゃないと手に入りようがないだろうし。
いや、家の権力を使ったら普通に手に入るだろうけど輸送に何日かかかるし。
「それもただですね。私が狩ってきましたから。」
買った?・・・・・・・いやもしかして狩った?
私は頭が痛くなってきた。このメイドってホントに何なんだろう。
私は自分を正直チートだと思ってる。基礎スペックが半端ないし。やろうと思ったことは大概できる。
けどそれでもワイバーンを狩ろうとは思わない。ワイバーンっていうのは厄介だ。
私は結構チートだから肉体的にも魔法的にもすごいんだけどどっちかというと魔法寄りだ。
だからワイバーンを倒すには魔法を撃ちこみまくらないといけないんだけど、
ワイバーンってレジストが高いから範囲魔法ではあまり攻撃が通らないし、
威力の高い単体魔法を当てようにも飛ぶ速度が高いから当てにくいしで、
単体魔法並みの威力のある範囲魔法という魔法を撃たなければいけないのだ。
それをするには私はまだ魔力制御が足りない。
私の体のスペックはチートだけど私は私の体をうまく使いきれてない。
だから私はワイバーンは狩れない。
ちなみに普通の私のようにチートじゃない奴は魔法をかけた弩弓を持ってきて、
それを何個も並べて一斉射撃で羽を傷つける。
一回程度では当たらないから何度も放つ。
当然ワイバーンが石弓を狙ってくるからそれを守るために何人もの魔法師が防御壁を張って耐え忍ぶ。
それで運よく羽に当たって地面に落ちてきたら槍を持った戦士がまわりで牽制。
その隙に魔法師と石弓部隊が集中砲火する、っていう感じ。
そもそも魔法をかけた石弓なんて大都市にしかないからたいていは魔法師が単体魔法を撃つんだけど、
私みたいにチートじゃないから威力も弱い。だから何発も何発も当てないといけない。
という感じなんだけど当然死傷者は大勢出るし、
それでも殺すどころか撃退すらできないっていう事もある。
なのに、いつ狩ったのかは分からないけどメイドは狩ってきた。
そう、このいつ狩ったかわからないっていうのが問題だ。
私つきのメイドだからこのメイドにはほぼ毎日会っている。
だからこのメイドがそれなりのけがをして帰ってくればすぐに分かる。
けどそれがなかった。ということはこの侍女はちょっとしたかすり傷程度でワイバーンに勝ったのだ。
なんて言うチート。
閑話休題
とりあえず今はナイフを見ましょうか。
ん?あれ、このナイフって実践で使うような奴?
私が欲しかったのは飾りとしての物で実戦で使い物にならないような、最悪自害位はできるっていうような奴なんだけど。
「ねえ、これって・・・・・。」
「はい、頑張りました。自信作です。」
メイドの眼が心なしか輝いてるような気がする。
これじゃあ用途が違うからいらないなんて言えない。
うー、どうしよう。
一本だけもらっておけばいいよね。
こんなにたくさん頑張って作ってくれたみたいだけど一本だけもらえばいいよね。
「じゃっじゃあ、これが欲しいんだけどいいかしら?」
一番近くにあった一番普通そうなナイフを指さす。
「ええ、いいですよ。というより全部もらっておいていいんですよ。」
「それはいいわよ。私には一本で十分。」
だってこんなにいらないし。
「それとただでもらうっていうのはおかしいから後で相場を調べさせてお金を届けさせるから。」
「いらないですよ?」
ああ、もうこいつおかしい。
お金は何をするにも必要でしょう。
それがなによ、その心底どうでもいいっていうような返事は。
はあ、疲れた。
「じゃあ、私は部屋に戻るわ。何かあったら呼ぶから。」
「はい、かしこまりました。」
部屋帰って寝よ。