侍女の生い立ち
前世と同じく女に転生したと分かった時はほっとしたものだ。
これで男だったらとか想像するとぞっとする。
そうそう、小説で読んだ転生者たちの経験する羞恥体験。
授乳は免疫とか関係するししょうがないと割り切って吸っていたものの、
下の世話、あれはがんばった。がんばって自分で処理した。
生まれてからすぐにしたこと。それは神から魔法を教わることだ。
それで生後五時間ぐらいで私は魔法を身につけた。
まだ目が明かなかったから無属性魔法の【探査】でトイレの場所を探って、
したくなったらこれまた無属性魔法の【念力】で受け皿上に力場を発生させてそこにして、
それから風魔法の【風防】で匂いを遮断、闇魔法の【闇の手】で囲って外から見えなくして運んだ。
私の体は魔法の才能がないのかそれだけで吐きそうになるほど疲れたけど決してそれはやめなかった。
羞恥プレイを回避するためなんだからしょうがない。
私の母親はそんなことをしても「まあすごい」としか言わなかった。
正直異端だと思われる可能性も考えていただけに拍子抜けだった。
まあ、成長してわかったことなんだけど今世の私の母親は気がくるっていたようだ。
ああ、今嘘を言ったね。成長しなくてもわかっていたよ。
私と母親しかいなかったんだけどさあ、どんなとこで生活してたとおもう?
洞窟だよ、洞窟。しかも同居人がいたの。いや、同居人っていうのもおかしいか。
狼だったんだから。
地球の狼と違ってそれはもう大きくて強かったよ。
しかも後から知ったんだけど動物じゃなくて魔物だっていうんだから驚きだよね。
ああ、それからもう一つ嘘を言ったね。
トイレって言ったけどね、それって狼や母親がしてる場所のことをさしてるだけであってね、
洞窟の奥の方の地下水脈につながってる穴に放りこんでいただけなんだよ。
だからトイレっていうのは嘘だね。
幸いこの同居魔物の狼たちだけどね、知性があるようで綺麗好きだったよ。
だから地下水脈にフンとかを落としてたわけだし。
そうじゃなかったら私死んでた自信があるね。
赤ちゃんの時にフンまみれの巣穴で過ごしてみ、
免疫力が全然ないからすぐに病気にかかってころりだったよ。
はあ、まったく母親はなにを考えていたんだか。
いや狂ってたから何も考えてなかったのか。
その母親だけどね、私が三つの時に死んじゃった。
特に悲しくはなかったかな。まあもともと彼女のことは母親だっていう実感がなかったからね。
それからは狼が私のことを世話してくれた。
私も魔法の腕を磨いて六つの時には自立できるようになってたけど。
それで狼にも子供がいてね。とってもかわいかったんだよ。毛並みもやわらかくって。
私はその狼達には名前をつけてない。だって勝手につけるのはなんか違うし。
だから子供の狼はチビたちって呼んでた。
親の狼たちは少し恥ずかしかったけどお父さん、お母さんって呼んでた。
まあ、そんな感じに私は生きてたんだよ。
毎日が幸せだった。子供の狼と遊んで大人の狼に狩りの仕方とかを教わる。
私の体のスペックが低かったから狩りは死ぬほど大変だったけどその苦労すらも楽しかった。
日々成長してるっていう実感があった。それが楽しかった。
けどそんな日々は長くは続かなかった。