死の危機
試合が始まってどう来るか様子を見ると相手は動きそうになかったから、俺は突進をかました。
人族にはこれを受けるのは無理だから避けると考え、避けて体勢が崩れたところに追撃をかまそうと
そっちに注意がいってて突進の威力が弱まっていたのは否定できない。
それでも魔力で強化してない人族程度にどうにかされるとは思わない。
だけど俺は投げ飛ばされた。何をされたのかわからずに。
いや、何をされたかはわかってる。ちゃんとこの両目で見た。
俺の手を取られて、腹を蹴られて、投げ飛ばされた。
それだけだ。それだけであるからこそどうして俺がそうやすやすと投げ飛ばされたのかわからない。
だから俺はもう一度突進することにした。
あれがなんだったのか解明しなくてはいけない。
これは試合だからまだいい。けどこれが殺し合いだったら?
投げられたところに誰かいて追撃をかけられたら?飛び道具で狙われたら?
おそらく避けれないだろう。
「騎士団長は実戦で死んではいけない。」「団長は常に最強であらんとしなければいけない。」
先代の言葉だ。
だからこの試合は最悪負けてもいいから学ばなければいけない。
だから俺はあえて愚直にもう一度突進した。
だがそんな俺を待っていたのはあっけない幕引きだった。
俺の突進と同時に放ったパンチが入ってしまったのだ。メイドの鳩尾に。
また投げられると思っていたから全力だった。全力の攻撃が鳩尾に入ってしまったのだ。
最悪内臓が破裂してるかもしれない。
「っとと、大丈夫か?この勝負俺の勝ちでいいか?」
あれは偶然だったのか?と強者に出会えたと興奮していたのにそれが勘違いだったのか、
と失望しながら腹を押さえてうずくまってるメイドに近づいて行った俺が感じたのは、
膨大な魔力と強烈な殺意だった。
それを感じ飛びのこうとした俺の目の前には、
あのうずくまっている状態からどうやって飛びかかってきたのかわからないが、
俺の首に向けて魔力で作られた爪を突き刺そうとしてるメイドの姿だった。
それは恐ろしく速かった。
俺が身体強化してなかったというのもあるが気づいたら目の前にいた。という状況だった。
回避は・・・・・・・間に合わん。
身体強化して回避は・・・・・・間に合わん。
魔法の【対物障壁】の発動は・・・・・間に合わん。
他に打つ手は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なし。
死の危機により何倍にも引き伸ばされた感覚の中で強烈に印象に残ったのは、
メイドの紅く光る眼だった。