プロローグ 第1話 特異点
訳がわからない。コンビニに週刊誌を買いに行った帰りだったはずなのに気づいたら真っ白な空間にいる。な、何を言っているのかわか(ry
普通の高校生の俺が何故こんな訳の分からないことに巻き込まれているんだ。あれか、異世界転生モノの定番パターンか?ってことは、俺は死んだのか………異世界にいけるのか?おおっテンション上がってきた。拳を握りガッツポーズをすると声が聞こえてきた。
「盛り上がっている所すみませんが、宜しいですか?」
背後から若い女性の声が聞こえてくる。声のするほうに振り向くと、美しい女性がいた。美しいなどという言葉ではとてもすべてを伝えられないが、美しいとしか言えない女性だった。腰まで伸びたウエーブがかった金色の髪に蒼色の瞳の西洋風の女性が、部屋と同じように真っ白なワンピースを着て佇んでいる。思わす彼女に見とれていると、彼女が困ったように言葉を紡ぐ。
「あの~、大丈夫ですか?」
その言葉にふっと我に返る。
「だ、大丈夫です。えっと、神様ですか?」
「そうです。よく分かりましたね?」
「テンプレですから。」
「てんぷれ?」
「ああ、気にしないでください。それより、俺はどうなったのですか?これから異世界に転生ですか?」
目を輝かせながら食い気味に彼女に詰め寄ったせいか、彼女の顔が引きつっている。
「落ち着いてください。」
おっと、ちょっと興奮してしまった。自重しなければ。深呼吸をしてから彼女に再び顔を向ける。
「落ち着いたようですね、それでは状況を説明します。まず、私はご想像の通り神です。ただし、この世界の神ではありません。ここは私が作った亜空間とでも言いましょうか。私が人と直接話すためにはここに呼び出すしかなかったのです。いきなり呼び出してごめんなさい。」
そういって頭を下げる彼女に狼狽する。神に頭を下げさせるとか心臓に悪すぎる。天罰とか来ないよな・・・
「謝る必要はありませんよ。大体予想通りです。(テンプレ展開だしな。)」
「そう言ってもらえると助かります。それにしても理解が早いですね。予想通りとは?普通もっと驚くとか、否定するとか思っていたのですが。」
「あ~普通はそうなんでしょうね。まあ、俺は中学二年生の時にちょっとこの手の話を作っていたので、予想しやすかったんですよ。(妄想していたともいえるが。)それで俺はこれからどうなるんですか?異世界に転生ですか?」
過去の自分の恥ずかしい歴史に悶えそうになるのをぐっと堪え彼女の話に言葉を傾ける。
「やけに異世界転生にこだわりますね。ですが今回の要件はそれではありません。異世界に行くという点はおおむね間違っていませんが。」
否定の言葉に気を落とすが、そのあとの言葉はそれを補って余りあるものだった。
「異世界に行けるんですか?なら異世界トリップですか?召喚ですか?」
またもや食い気味になってしまったが、彼女は苦笑いするにとどまった。
「随分と詳しいですね。おおよそ間違っていません。あなたには私の管理する世界に行ってとある脅威と戦ってもらいたいのです。もちろん全てが終わったらきちんとこの世界に戻ってこれるようにしますし。あなたの身に危険が起こらないように最大限の協力は惜しみません。」
なんて俺の心をくすぐるワードなんだ。封印したはずの俺の暗黒面が表れてしまいそうだ。鎮まれ俺の右う…ハッ、
いかんいかん、これは封印すると決めたんだ。再びあの病気が発動しそうになるのを必死に耐えながら、彼女に気になることを聞くことにした。
「質問いいですか?」
「構いませんよ。」
「何故俺なんですか?」
「貴方でなければならない理由があります。」
やめてくれ、これ以上俺の厨二心をくすぐらないでくれ。あの頃には戻りたくないんだ。
「貴方は特異点と呼ばれる存在です。」
「キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!」
思わず叫んでしまった。これほど心が躍るのはいつ以来か。あの頃の妄想が今、真実だったと証明されようといているっ!ドラゴンに乗り世界を駆け巡り魔王との死闘を…ハッ、いかん、もうあの頃に戻らないと誓ったんだ。いや、戻って良いんじゃないか?どうせこれから異世界に行って脅威と戦うんだから…いや、しかし…。
目の前の少年が心の中で葛藤していることに全く気にせず、彼女は話をつづける。
「テンションが高いですね?まぁいいです。特異点とは、如何なる制約を受ける事もなく世界を渡ることができる存在です。一方通行だけでなく往復することができるのは特異点だけなのです。我々の事情に巻き込んでしまうわけですから、貴方の人生を滅茶苦茶にする訳にはいきません。無事に送り返すためにも特異点であることが望ましいのです。しかも、特異点が表れる確率は1京2858兆519億6763万3865分の1です。しかも、戦うに足る魔力を保持しているのは更に限られてきます。他の人を探している余裕はないのです。争いのない国の少年をこのような事に巻き込むのは心苦しいのですがどうかよろし「やります!!」…よろしいのですか?」
テンションが上がりすぎて食い気味になってしまうのは仕方がない。そう、仕方がないのだ!俺、選ばれた存在。あの頃の妄想が今現実なものに!俺のリア充ハーレムライフがすぐ傍に!あれか、魔法とか使えるのか?いや近未来SFの可能性も………ぐふっぐふふふふふ。
「あ、あのっ!」
妄想にトリップしていた俺に彼女が困ったように話しかける。
「はっ、すみません。続きをどうぞ。」
「ああ、はい。それでは詳しい話をしていきたいと思います。まずは私の管理している世界のことから。名前はサンクレア。この世界の人に分かりやすく説明するなら、RPGのような世界といった所でしょうか。剣と魔法の世界といったところです。」
「剣と魔法!魔法とか使えるようになるんですか?そういえば、脅威と戦うに足りる魔力を持っていると言っていましたが、俺魔力なんて持ってると自覚してはいないんですが・・・」
地球上には魔法なんて存在しない。科学が発展している現代において魔力なんてものが存在するのかといえば説明もできないし、把握もできない。首をかしげていると彼女が笑いながら疑問に答えてくれる。
「ふふっ、この世界の人は魔力に頼った生き方をしてはいませんからね。この世界の人は例外なく魔力を持っています。魔法が発展しいない世界なのに個々の人々の魔力はサンクレアの人より遥かに多いのに思うことはありますが。」
つまり、この世界の人は気づいてないだけで魔法が使える可能性があるのだ。いや、もしかしたら使える人がいるのかもしれない。火のないところに煙は立たない。概念が存在するならば本物がいてもおかしくはない。思考の海に沈みそうになっていたが、彼女の話が意識を引きもどした。
「この世界にも魔法やそれに類する力を使う人がいるようですが、表舞台に出てこないので発展してこなかったんでしょうね。」
「やっぱり、多少なりともそういう人は地球にもいるんですか?」
「ええ、日本でいえば陰陽師や巫女といった人たちの中で今も力を引き継いでいる一族がいるようです。ほとんどは形骸化しているようですが、一部本物も残っているようです。」
「調べたら面白そうですが、今はこの話を掘り下げている場合ではないですね。自分はサンクレアの人の魔力量の平均に比べてどれくらい違うんですか?」
「サンクレアの人の平均魔力を1とするなら、この世界の平均は100といったところです。貴方の魔力は120といったところでしょうか、多いほうだと思います。しかも魔力量は使えば使うほど増えていきます。この世界の人は潜在能力の時点で100倍あるのですから、うらやましい限りです。宝の持ち腐れであるとは思いますが。あなたには魔法を覚えてもらいます。これだけの魔力があればサンクレアの人たちより多くの魔法が使えるでしょう。」
おお、ついに、ついに俺は魔法使いになれる。別の方法で魔法使いにならなくて良かった。30歳まで待つのは嫌だったからな。魔法の習得やってやろうじゃないか。どんな特訓でもどんと来いだ。静かに闘志を燃やしていると彼女は思い出したかのように話す。
「すみません、肝心な脅威について話していませんでした。」
ああ、言われてみれば脅威って何だろう。魔王でも表れたか?テンプレ通りならこんな感じだろうが。
「魔王ですか?」
「いえ、そうではありません。魔王もいたのですが脅威によって殺されました。」
なに・・・魔王が殺された、だと。一体何が現れたんだ。
「魔王は世界を形成するシステムの一部として存在する必要悪の一つでした。定期的に魔王は世界に刺激を与え停滞を防ぐ役割を演じてきました。魔王を倒すのは勇者といわれる人たち、今までは例外なく勇者が魔王を倒すという流れでした。」
「今回は違ったと。」
「はい。1年前、勇者が率いる人間や亜人の軍団でもなく、魔王が率いる魔物の軍団でもない第3の勢力、正体不明の軍団が表れたのです。この軍団を表現するならば闇、黒い霞が人の形を取った様な異形の軍団。黒い軍団は魔王と勇者の決戦に乱入し両者を殺害した後、人も魔物も関係なく手当たり次第に殺戮を繰り返しました。人の連合軍と魔王軍が同盟を結び協力して戦うという前代未聞の連合軍で反抗しましたが、健闘虚しく前線は後退していき、現在では1年前の10分の1まで人口が減少しています。」
言葉が出なかった。思った以上に深刻な状況に陥っている。そして一つの疑問が生まれた。
「俺なんかで役に立つんですか?」
それは当然の疑問、1年で人口を10分の1にまで減らすような軍団に今まで碌に戦った事のない人間がどうこうできるのか。その答えは明るいものだった。
「問題ありません。むしろ特異点であることこそ重要なのです。私の予想ということになりますが、黒い軍団はおそらく別世界からの侵略者だと思っています。世界を渡ると自らの体が移動先の世界の理に自動的に調整されます。理の力を理力と呼称します。理力10の世界にいる人間が理力1の世界に移動する場合、余剰分の9が特殊な力となって表れます。異世界に渡った人に強力な力が表れるのはこのためです。そして理力が異なっているものには基本的に干渉できません。黒い軍団には攻撃がほとんど通用しません。これはこの理力が関係していると思われます。何らかの形で無理やり理力をいじったのでしょう。そのために黒い軍団のモノ達は体の原型を保てず、黒い人型の霞として存在しているのでしょう。」
「つまり、黒い霞は元々人間だったと?」
「おそらく。人でなかったとしても人型の魔物でしょう。どちらにしても知能もなくただ命令のままに生き物を殺す兵器に成り下がっています。これを作り出している存在を何としても見つけ出さなければなりません。ここで特異点の話に戻りますが、特異点の特徴として世界を移動しても如何なる制約も受けないというものが重要になってきます。これは言い換えれば理力の影響を受けないと言う事になります。あなたの攻撃はあの軍団に簡単に通用するでしょう。あなたには辛い運命を背負わせてしまうかもしれませんが、あなたに頼るしかないのです。」
「俺が断った場合は?」
「別の特異点を探すことになります。貴方を見つけるのに1年掛かりました。今から探しても間に合うかどうかはわかりません。よく考えて返事をもう一度聞かせてください。力を貸していただけませんか?」
正直、魅力的な話ではある。魔法使いになるチャンスなんてこの機会を逃せば二度と起こらないだろう。しかし、命と天秤にかけてまで手に入れるものだろうか?いや、考えるまでもない!俺は厨二病患者だ!
「もう一つだけ質問を。黒い異形たちを救うためにはどうすればいいんですか?」
「一度ああなってしまったら消滅させる以外の方法はありません。」
『彼は選ばれし特異点。異界の神に頼まれ世界を救う魔術師となり、悪しき邪神に異形の姿に変えられた人々を解放するために戦う。世界を救い戻ってきた彼を勇者だと知るものはいない。だが、今日も彼は戦う。異世界で身に着けた力を使い、地球の平和を陰ながら守っている。彼の名は・・・』
これはもうやるしかないだろう。命の危険?知るかそんなもん。俺は今、夢を叶えるっ!
「やります!いえ、やらせてください!」
女神に向かって頭を90度下げる。
「頭を上げてください。お願いしているのはこちらなのですから。了承していただきありがとうございます。」
頭を上げるとそこには目尻に涙を浮かべながら笑顔を向ける女神がいた。
「それではあなたに神の加護と祝福を。我が名はフィオレミーナ、知と魔法の神。汝、永瀬渡<ながせわたる>に魔法を扱う力を与えん。」
そして渡は眩いばかりの光に包まれた。