スクラッチ
「勇者よ、あなたを迎えに来ました。
あなたを召喚します」
そう夢の中の声はそういい、
俺がぼーっとしてると俺に続けてこう言う。
「ん~。信じて無いようですね。いいでしょう。では駅を降りたら宝くじ売り場でスクラッチくじを買ってみなさい。必ず茶色い背広を来た紳士の後に並んで2枚買うのです。」
まー確かにそんな事信じる歳じゃねーし。
目が覚めると自宅の最寄り駅だった。
駅を降りたらロータリーの中に宝くじ売り場が有った。
普段よく見て無いので気にも留めて無かったが結構前からあったようだ。
スクラッチって……ずいぶんセコイ話をする夢の声だな。
ま、安いし試しに買ってみるか。
売り場に行くとちょうど見るからに野暮ったそうな茶色の紳士が当選金の受け取りで並んでいてその後に続いて並んだらすぐに順番が回ってきた。
「スクラッチ2枚」
「2枚ね。200円になります。ここのは当たりますよ~」
大阪のおばちゃんじゃないんだからそういうのは要らないって。
俺はその場でスクラッチを削ってみた。
1枚目はハズレ。2枚目、1番目2番目のとこは★でこりゃダメかな?と思ったが3番目のところを削ると「5万円」。
運よく当選した。
ラッキー!これこそ神のお告げか。
「ほ~ら当たった」やたら誇らしげなおばちゃん。
その場で換金してもらう。
換金した時に余りにも顔がだらしなくほころんでいたので、くじ売り場のおばちゃんに変な顔で見られてしまった。
意外な現金収入に喜んだ俺。
「あれは本当に神のお告げだったのかもな~」
帰り道のコンビニで少し奮発して高いおにぎりとプレミアムビールを買ってきたのを自宅のワンルームで朝食として食べる。
ここ5年ほど、仕事帰りの朝食はおにぎり1個とビール風発泡酒か缶チューハイで済ませてる。
昔はコンビニ弁当を食べてたけどカロリー摂取過多で太り過ぎて二重あごが出来たのでやめた。
夕方出社して朝に帰宅すると言う生活をここ何年も続けてて仕事の時間が不規則なので、彼女なんてのは出来るわけがが無い。
仕事する前から彼女出来たことないんで別なとこに問題あるのかもな。
気が付くと歳もアラサーからキッカリ30歳になっていた。
「このまま、彼女出来ないまま歳くって死ぬのかな?」
最近そんな事をよく考える。
今の収入じゃとてもじゃないけど結婚なんかできないし、それ以前に出会いが無いから彼女がいねーわ。
そういや童貞って30歳になると魔法使いにクラスチェンジできるんだったな。
仕事中に録画しておいた深夜アニメの魔法少女物をベットに寝ころびながら見ながらそんな事を思う。
俺、中高生の頃は30歳になったら美人の嫁さん貰って娘がいて犬飼って一戸建てに暮らしてるのをおぼろげながらに想像してたんだけどな~。
まさか30歳にもなって四畳半一間のワンルームに住んでるとは思ってなかったわ。
大学落ちてコンピューター系の専門学校に妥協して行った辺りから俺の人生狂い始めたな。
そういえば夢の中で、
「勇者がどうのこうの言ってたな……、勇者でも魔法使いでも世紀末覇者でも何でもいいからなれないものかな~
こんな退屈な世界無くなってしまえばいいのに」
そんな事をアニメ見ながらベットの中で妄想してると酒が回ったのか気が付いたら眠りに落ちていた。