閑話『千夏 夏帆視点』
私の名前は千夏 夏帆今ではフォロワー30万人を抱える、超大物インフルエンサーだ。可愛いのは言うまでもないし、運にも恵まれている。
人から羨ましがられるのは当然のこと。頭がいいかって?まぁ、そこは勉強をちょっとサボってただけだから、仕方ないわね。
世界は私のために回っているようなもの。私が笑えば、誰かが反応し、私が動けば、誰かがざわつく。世界は私のもの、本当に簡単。
今日も学校に足を運ぶ。標的は、美咲だ。こいつ、本当にいけ好かない。存在そのものが鼻につくから、少し嵌めてやるだけで、世界は面白くなる。
美咲は根暗で、人に流されやすい。私が少し指を動かすだけで、彼女はころころと振り回される。まるで操り人形。そんな姿を見るたび、心の奥がぞくぞくするのだ。
彼女は、私を親友だと思い込んでいるらしい。滑稽すぎて笑いが止まらない。私を好きになる奴も、自然とこいつに注目する。いや、むしろ私の存在を認めたくて仕方がないくせに、手のひらで踊らされているのだ。
ムカつく?もちろん。だが、同時にこの感覚が、私の快楽でもある。
まぁ、あとは単純に楽しいからでもある。かつて“女王”と呼ばれていたこいつは、今や私の前ではただの奴隷。その裏切られた顔は、決して忘れられない。あぁ、ぞくぞくする。
「もう、許して……ごめんなさい」
かつて傲慢に振る舞い、私の存在を鼻で笑っていた女が、今では土下座をしている。その頭を、私は軽く踏みつける。心の奥から湧き上がる感覚が、全身を支配する。
あぁ、堪らない……。この力、この優位、この冷酷な快感。世界が私の手の中で震える瞬間。それこそが、私が生きている証だ。
「あ、ねぇ、ねぇ、見て見て。最近この音源流行ってるらしいよ」
取り巻きのヒヨコたちが、私に向かって小声で囁く。
動画投稿をすれば、コメント欄は私を称賛する言葉で溢れかえる。
可愛い、好き、尊い――どれもが私の血液を熱くする栄養のようだ。人気イケメンインフルエンサーからもDMが届く。誰もが私を見て、認め、欲している。その視線一つひとつが、私を陶酔させる。
満たされる承認欲求。周囲の羨望と嫉妬が、私の快感をさらに増幅する。世界中が私の存在を祝福しているような気分。
甘美で、熱く、そして、ぞくぞくするほどエロティックな感覚。私を見上げ、私に縋りつくすべての存在が、私の支配下にあるということ。あぁ、この感覚……堪らない。
「可愛い音源ね〜。あ、美咲、あんたさ、スマホ取ってくれるよね?」
「は、はい……」
その返事に、私は眉をひそめた。甘く舐めた口を利くな、と思う。光栄な仕事を与えてくれたのだから、「ありがとうございます」と言うべきだろうが。
そして、私は容赦なく奴の腹を殴った。未曾有の力で、美咲は小さく呻き、痛みに悶えている。
「はい、もう一度言ってみな?」
震える声で、美咲は必死に頭を下げる。
「す、すみません……取らせてください、お願いします……」
その怯えきった姿、必死さ、すべてが私の心を満たす。
「そこまで撮りたいなら、しょうがないな〜。撮らせてあげるわ」
美咲にスマホを握らせ、私たちは可愛く踊る。動画を投稿すれば、コメント欄は必死に一コメを争うモテない奴らで溢れかえる。女たちの嫉妬の視線も飛んでくるけれど、私は気にしない。所詮、負け組の女共だ。
「さてと、私はこれからお仕事に行ってくるわ。美咲、あんた、今日の掃除当番よろしくね」
そう告げると、私は取り巻きのヒヨコたちを連れて、軽やかにその場を後にした。
ふぅ〜、今日もこんなに大金稼げた。
私は今、ラブホテルの一室にいる。パパ活や援交、それが私の日常だ。相手は金持ちのおっさんだったり、ちょっとしたイケメンだったりするけれど、正直楽でしかない。
たった数回会っただけで、こんな大金をポンとくれるのだから、世の中って本当にちょろいものだ。
ちなみにさ 、金振りが悪い奴はマジで徹底的に落とす。
こいつら、未成年淫行とかやってるわけよ、私が警察に行ったら、捕まるのはこいつらだし、脅されたとかなんでも理由はいいけど、だって相手が脅してない証拠なんてないし、でも未成年とそういうことした証拠はバッチリ残ってるから、当然有利なのは事実がある私になるってわけ。
頭良すぎでしょ私。
だから私は脅す、警察に行かれたくないなら、30万払えと、大抵の男は払う、払うしかないから。
私はそうやって、何人もの男を静かに、でも確実に地獄へ突き落としてきたんだ。ネットのコメント欄で「パパ活してる」だの「援交してる」だの好き勝手に書かれても笑っちまうだけだよ。
だって証拠がないんだもん、証拠があるかどうかが勝負を決めるの。こっちが掌を返すだけで、世界は簡単にひっくり返るんだから。
はぁ、明日も美咲をいじめてやる。胸が熱くて、ぞくぞくする。
あの顔がもう一度歪むところを見たい。壊れるのが見えたら、次は適当に標的を変えればいいだけ。飽きたら捨てる、遊び終えた玩具みたいに。
次一樹か、あいつの顔を思い浮かべただけで血が湧く。生意気な態度、ほどよいプライド、崩しがいがありそうな獲物、想像するだけで舌先が弾く。
「じゃあね、またね、せんぱぁい!」
彼氏と別れたあと、私はふらりとファミレスへ向かった。彼は学年で最強の男。泣きつけばすぐに飛んできてくれる、なんて都合のいい存在なのか。
男って本当に単純、涙をひとつ流し、ちょっと身体を預けるだけで、すぐに頭を撫でて「大丈夫だよ」なんて言う。
演技の指示を出すと、彼らは忠実に従う役者に早変わりする。
ファミレスの安いランチプレートを前にしながら、私はその軽さに呆れ笑いを漏らす。
私はまた化粧を直し、スマホの画面をちらりと確かめる。通知が増えているのを見て、唇がゆるむ。男も女も、皆ちっぽけな役者たち。
人気イケメンインフルエンサーとのディナーを終えた翌日。
いつも通り、学校の朝は少しだけ眩しい。けれど、私の一日はそこで始まらない。今日もまた、美咲を追い詰める日だ。
こいつは中学の頃、やたらと威張っていた。成績も顔もそこそこよくて、男子にも女子にもチヤホヤされて、自分が世界の中心だとでも思っていたのだろう。
だから今こうして私の前でうつむき、震えている姿を見ると、胸の奥がじんわりと熱くなる。ざまぁみろ、って言葉が喉まで込み上げてくる。
私だけが彼女を嫌っていたわけじゃない。あの頃の彼女を恨んでいる女子はたくさんいる。だから誰も助けようとしない。
むしろ、みんな内心で拍手してる。正義なんて、所詮は都合のいい幻想。誰もが心のどこかで、自分以外の誰かが壊れていくのを見たがってる。
私がやっていることが悪い? 笑わせないで。こいつが積み上げてきた偽りの優越を、私が壊してるだけ。罪悪感なんてものは、持った瞬間に負けになる。私が笑ってる限り、世界は私にひざまずく。
だけど、今日は本当に最悪の日だった。美咲の身体を使ってパパ活や援交の動画を撮ろうとした瞬間、運命の悪戯のように一樹が現れた。
しかも、私の彼氏はあっさり負けてしまったのよ。あいつなんて、最悪のクズ!使えないし、もう本当に死んでほしいくらいムカつく!こんなことなら、あいつとはさっさと別れちゃおう。
それに加えて、スマホまで壊されちゃったの。はぁ〜、私なんて可哀想なヒロインなの?
思い出すだけで本当にうざいわ。まぁ、金はあるからそれだけは救いだけどね。
一樹、ほんっとムカつく。あいつの顔を思い出すだけで血が沸く。そうだ、あいつの動画を撮って晒してやればいい。私の囲いが一斉に叩いてくれれば、あいつの居場所なんてあっという間に消える。ふふ、ざまぁみろ、一樹。
謝っても、私は許さない。黙って見ているだけじゃ終わらせない。あいつが周囲から嘲笑され、居心地の悪さで縮こまる未来を何度も再生して、私は恍惚の笑みを浮かべた。
だけど、そう思った矢先だった、私に1報の連絡が来た。
「あんたが美咲虐めてる動画、ネットに晒されてるよ!」
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次回で千夏視点は最終回です!




