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第13話

 秋山たちから奪った金をポケットに忍ばせ、俺は体育館の倉庫に潜んでいた。タバコを吸うためだ。


 ここなら誰にも見つからないし、気楽だ。

 確かに倉庫内にはタバコの匂いが充満しているけれど、そんなことはどうでもいい。

 この場所は隠れ喫煙スポットとしての役割を果たしており、先生たちも基本的に何も言わない。


 薄暗い倉庫の隅で、俺はライターの火をつける。

 煙が肺に入るたび、少しだけ心が落ち着く気がした。

 外では美咲の声や教室の騒音が遠くに響くが、ここではその全てが遮断される。


 ――現実逃避、と言えばそれまでかもしれない。

 だが、今の俺にはそれが必要だった。


「ね、ここならばバレないっしょ」


 薄暗い倉庫に、鬱陶しい声が響いた。2号だ。

 千夏、1号は美咲。


「な、何するの……」


 美咲の声は震えている。弱々しく、でも必死に抵抗しようとしているのがわかる。


「いや、最近金がないんだよね。それでさ、みさちゃんに軽くお仕事して欲しいの。」



 俺が後ろに隠れていることなど、千夏にはまったく分かっていない。

 倉庫の暗がりで、俺は静かに煙草の煙を吐き出す。


 千夏は淡々と、悪意を隠さずに美咲に話しかける。


「お仕事……?」


 美咲の声はかすれ、耳を塞ぎたくなるほど小さい。


「そうそう、おっさんと寝たりするだけ。簡単でしょ?後はそういう動画とか撮ったりして、お金を稼ぐの」


 言葉の重さが、空気を重くする。

 美咲の肩が小さく震え、目を伏せる。


「それって、身体を売れって事です……か」


 美咲の声は震えて、言葉が途切れ途切れだ。

 その小さな問いかけに、千夏はまるで軽く受け流すかのように笑う。


「身体を売れって違うよ、自分の価値を高める為だよ。じゃあ、早速、服脱いで」


「え……」


 美咲の瞳が見開かれ、唇が震える。


「大丈夫、ここ誰も居ないから、あんたの靴下とか制服とか売るのよ。ま、あんた不細工だけど、世の中物好きもいるからね〜」


 倉庫内の空気が一気に張り詰める。

 美咲の肩が小刻みに震え、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえている。


「早くしろ……よ。あ、まずはこの学園の男子達を軽く相手してもらって、次に、おっさん達で。今日のスケジュールはざっと30人ぐらいね。感謝しなさいよ、使えなくなるまで使ってしまったあげるから。」


 千夏の言葉は冷たく、計算された悪意で満ちている。

 美咲の小さな体は縮こまり、声も出せずに俯いたまま。


 俺はその光景を、倉庫の暗がりから黙って見つめる。

 助ける必要は――ない。


「あの、私……経験ないんです……だから」


 美咲の声はか細く、震えていた。

 その言葉に、千夏達は顔を見合わせてから、いっせいに笑い声をあげる。


「はぁ?」


 大声で笑いながら千夏が美咲に問いかける。


「マジでぇ〜?!あの陰キャと行くところまで行ってたと思うけど、元彼何人なの?」


 美咲は小さく肩をすくめ、俯いたまま答える。


「1人です……」


 千夏の目がくすっと光る。


「あぁ、あの陰キャかぁ〜」

「え、誰なの?」

「別にあんたが知る必要ないよ

 ま、いい機会じゃない、処女なんて持っていも無意味だからさ」


 千夏はためらうことなく、美咲の服装に手をかけた。

 その指先がボタンに触れると、バチンと音を立てて外れる。美咲は胸に晒しを巻いていた、理由は分からない。


「こいつ晒し巻いてるじゃん、意味わかんねぇ」

「おぉ、意外とあるじゃん」


 千夏の言葉に取り巻きたちも笑い声をあげる。


「つーか、何こいつピンク色のブラ着てんだよ、キモ。」

「何カップ?」


 美咲の声が震える。


「え?」

「カップ数は?」

「わ、分かりません……」


 千夏は鼻で笑い、さらに口を重ねる。


「は?ブラ見れば良くない?本当に使えない馬鹿」


 その手が、美咲のブラに伸びる。

 しかし美咲は必死に抵抗して、身を縮めた。


「は?何」


 千夏は苛立ちの色を滲ませ、そのまま美咲の腹に蹴りを入れた。


「うぅ……」


 美咲の体が小さく縮こまり、痛みに耐える姿が目の前にある。


 千夏はためらいなく、美咲のブラを強引に外した。


「Gカップかよ。ってかこいつ、胸に傷あるやん」


 胸に刻まれた痛々しい傷が、倉庫の明かりの下でくっきりと見える。


「だからサラシ巻いてたのか、理解理解」


 取り巻きたちも笑いながらざわめく中、美咲は肩を震わせ、声も出せずに俯いている。

 その小さな体が、痛みと羞恥でさらに縮こまるのがわかる。


「ま、編集でどうにかなるか。んじゃ、スカートも脱いで」


 美咲は泣きながら、ゆっくりとスカートを脱いでいく。

 その小さな体が震え、肩をすくめ、涙が頬を伝う。


「可愛い〜、パンツ〜」


 千夏の声に取り巻きたちも笑い声をあげる。

 美咲のクマの柄のパンツが目に入った瞬間、俺の胸に鮮明な記憶が蘇る。

 あれは……僕の記憶にある、あの頃の美咲の笑顔。

 そして、目に入ったのは――お揃いのパンツだった。

 クマの柄は、昔見たあの記憶と同じ。

 無邪気だったあの頃の美咲が、ほんの一瞬だけ笑っていた姿を思い出す。


 最後の一枚も脱いでいく。


「もう、やめてください……」

「あのさ、もうちょい足広げてくれない?」


 美咲はゆっくりと足を広げた。


 泣き小声が、かすかに耳に届く。

「うるさい……」


 違う、これは――そう考える。


 俺はゆっくりと身体を開けていった。

 震える美咲の背中、俯いた顔、涙で濡れた頬。

 その光景が、胸の奥でざわつく感情をさらにかき立てる。


 ――助ける必要はない。

 でも、理性だけでは抑えきれない何かが、確かに俺の中で蠢いていた。


 だが、気づけば、俺は立ち上がっていた。

明日はカクヨムに投稿します!

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