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異世界ガチャで“初期装備”だけ当たったけど最強だった件 ――運だけは最低、でも世界一ツイてる男。  作者: 妙原奇天


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第13話 駄女神、神界に呼び出される。まさかの“査定バトル”

 朝、空がポストの役目を果たした。青の真ん中から白い封筒が落ちてきて、石畳を一回だけ跳ね、俺の足元で止まった。宛名はルミナ。差出人、「神界監査課」。嫌な四文字が二回も入っている。


 封を切った瞬間、部屋の空気がびりっと鳴った。手紙の中から、声。


「ルミナ=ライト。貴様の“人間界派遣業務”は不適正と判断された。即刻帰還せよ」


「……は?」


 ルミナの顔から、血の色が抜けた。


「帰還に応じない場合、“権能”を剥奪する」


 棒――ルートロッドがぽつりと呟く。


「つまり、クビだな」


 クビ。笑えそうで全然笑えない単語だ。俺は手紙を握り潰したい衝動を飲み込み、ルミナの肩をつかんだ。


「行くなら、俺も行く」


「だいじょうぶ。ちょっと話してくるだけ。すぐ戻——」


 床に光が差し、階段が生まれた。上への道だ。止める暇も、息を吸い直す余裕もない。俺たちは光の段差を駆け上がった。



 神界は、白いのに冷たくない。巨大な宮殿の柱は雲を固めたみたいで、高すぎて天井が見えない。正面の壇には、金の衣をまとった審判官たちがずらり。真ん中の痩せた神が口を開く。


「ルミナ。君の管轄した人間界、笑いが多すぎる」


「……笑いが、多すぎる?」


「神は秩序を与える。爆発もギャグも、想定外だ」


 ルミナの指が小刻みに震えた。だが、声はしっかり前へ出た。


「でも、笑ってくれた人がいました。泣いてる人が、少し笑いました。帰り道の足取りが、ちょっとだけ軽くなってました!」


「異端だ。削除案件だ」


「異端です。でも、“幸せ”って、たぶんいつも異端から始まるんです!」


 俺はもう我慢できなかった。前へ一歩出る。


「その異端、こっちじゃ大人気です」


 審判官たちの視線が刺さる。「誰だ、貴様」


「ただの人間です。でも、こいつに何度も救われました。飯も、心も」


 短い沈黙。ルミナが小さく笑う。


「ね、言ったでしょ。笑っていいって」


 痩せた神が立ち上がった。眉間のしわが、少しだけ緩む。


「ならば問おう。笑いは罪か、力か。証明せよ。神界の審査員に笑いを取れたら、“不適正”は撤回する」


「……神界漫才やれってこと?」


「形式は問わん」


「じゃ、やるか」


 俺はルミナの手を握った。手汗がやばい。相方って呼びそうになるのを飲み込み、深呼吸。


「よっしゃ、行くかルミナ」


「相方呼びはやめて。今わたし神だから」


「神だろうがボケはボケだ」


「だれがボケ、誰がツッコミ?」


「お前が両方やれ。俺は見守る」


「仕事放棄!」


 神々の口角が、ぴくっと同時に上がる。乗った。後はリズムだ。冒険者版・日常ネタで押し切る。


「ギルドの会員登録が一万ゴルドだった話する?」


「やめて、監査課の前でお金の話は悪手!」


「じゃ、爆発の謝罪会見」


「それは神界で一番ウケるけど一番危ない!」


 押し引きの合間に、ルミナの指先が光った。権能じゃない。ただの、手の動き。それでも、場に“笑っていい空気”が入る。最後に、俺は言った。


「想定外でいいじゃないですか。予定表通りの人生なんて、眠くて退屈で、誰かのせいにしやすい。うちの神様、毎日想定外で、毎日ちょっとずつ偉いです」


 拍手。白い宮殿で起きた手の音は、やたらと大きく響いた。痩せた神が席を立ち、静かに宣言する。


「異端認定、撤回。権能剥奪も見送り。——ただし」


 ただし。嫌な言葉だ。


「想定外を起こすなら、想定外の後始末も想定せよ。笑うなら、最後まで笑わせよ」


「それ、毎日やってます」


 ルミナが泣き笑いした。帰りの階段で、彼女は照れくさそうに俺の肩を小突く。


「ねえカイル。あんたといると、毎日が想定外。……最高だよ」


「褒め言葉として受け取っとく」


「褒め言葉だから」


 空に、虹が薄くかかった。


     *


第14話 停戦下の共同任務。敵側の常識人と“同時決め”


 昼のギルドに、黒い外套が影を落とした。監察役レイ。相変わらず無駄のない歩き方で、受付前まで来ると短く会釈をする。


「共同任務だ。城下の工房で“暴走魔導機械”が起きている。人も魔族も巻き込んでいる。停戦協定に基づき、混成チームを組む」


「つまり、俺たちの出番だな」


「その通りだ。——詳細は歩きながら」


 工房は街外れ。古い風車の骨組みをそのまま使って、若い技師たちが魔力で回す仕組みに変えたらしい。見た目は洒落ているが、中身が拗ねた。


 爆発、ではない。重たい歯車が勝手に回転を上げ、止まらない。壁を削り、床を砕き、ひゅんひゅんと嫌な音が出ている。油の匂いに、金属の焦げが混じる。


「生き物みたいだな」


「止め方は三つ。力で止める。燃やす。——もしくは、歌わせる」


 レイが言う。歌わせる?


「機械はリズムに弱い。均一を好むからだ。わずかなズレを“正しい”と思い込ませれば、過熱は落ちる」


「それ、鳩でやった」


「鳩?」


「鳩を一斉に飛ばす時、棒の音で合わせてさ。どん、どどん、どん」


「理屈としては合ってる。やれ」


 合図は短く。俺は棒の腹で床を軽く叩く。ぺち、ぺち、ぺち。工房の骨組みが、同じリズムを真似するみたいに微かに鳴る。メリアが両手を広げ、風の輪で回転を包む。ノワがベルトの鎖に身軽に飛び乗り、要のナットに体重を預けて“ちょい”だけ遅らせる。ルミナが口ずさんだのは、昨日の夜、子どもに歌って聞かせていた寝かしつけの歌。レイは最短の位置に立ち、全体のズレを一言で調律する。


「今」


 歯車が、抵抗を落とした。過熱の音が引いていく。最後に俺は棒で“芯ずらし”。回転の中心を、ひと目盛りずらしてやる。歯が噛み直り、機械は嘘みたいに静かになった。


 工房の若いのが泣きそうな顔で頭を下げる。


「助かった……!」


「機械は賢いが、人の都合には賢くない。都合よくなるまで、手で仲良くなれ」


 レイの言葉は冷えているけど、芯が温かい。帰り道、彼はふと足を止めた。


「君の棒、音がいい。合図に使える」


「叫んだ技は必ず決める、ってルールだからな。音は裏切らない」


「そうだな。音は裏切らない。——人も、できれば」


 彼は薄く笑った。敵側の常識人は、今日も真っ直ぐだ。


     *


第15話 “狙った場所だけ”爆発させろ。メリアの師匠と、再挑戦


 魔法学院の庭に、杖をついた白衣の老人が立っていた。背は曲がっているのに、目だけが若い。メリアが帽子を深くかぶる。


「師匠……」


「久しいな、メリア。噂は聞いとる。“暴発娘”が街を派手にしておるとな」


 失礼ポイントをカウントしたら、怒りが勝ちそうになる。けれど、メリアは長く息を吐いた。


「今日は、“狙った場所だけ”爆発させます」


「口ではなんとでも言える。——試験だ」


 学院裏の小丘。標的は三つ。干し草の山、空の樽、水を張った桶。干し草は絶対燃やすな。樽は焦げ跡を一筋だけ。桶の水面に、円をひとつだけ描け。


「むずかしい注文だな」


「難しくしないと、褒めない」


 師匠は相当面倒くさいタイプだ。だが、メリアの背筋は伸びている。俺は横に立ち、棒を額に軽く当てた。


「技名で行こう。合図が揃えば、ズレは減る」


「うん」


 最初は桶。風と水の折り合いは、メリアが得意にし始めている。


「一点、輪」


 短い詠唱。指先で水面を撫でると、まあるい光が二つ、三つ。——じゃない、一つだけ。きれいに広がって、消えた。次は樽。火は最小、熱は細く。


「星火、一本」


 ぱち、と音がして、樽の表に焼き目が走る。線は真っ直ぐで、短い。最後が問題の干し草だ。ここで風がいたずらをすると、一気に広がる。


「ルミナ、祝福」


「風、おだやか。すべらない空気」


 ノワが干し草の周りを一周、尻尾で地面を掃き、火の走る道を消す。俺は棒を構えた。万が一の時の受け流し。メリアは息を止めるでも、荒くするでもない。普通に吸って、普通に吐いた。


「灯、点だけ」


 ぽん、と豆電球みたいな光点が干し草の端に灯り、——それで終わった。燃えない。点だけが、星みたいにきらっと光って消えた。


「できた……!」


 師匠の杖が、地面を一度だけ叩いた。褒める時の音だ。


「合格だ。暴発が悪いんじゃない。暴発しか覚えないのが悪い。——よく、怖さを覚えた」


 メリアは泣きながら笑い、帽子で目を隠した。俺はそっと帽子を持ち上げ、額を軽く小突く。


「お前、かっこいいよ」


「知ってる。今だけは自惚れる」


「そういうの、男子は好きだ」


     *


第16話 ノワの里へ。橋の上の握手と、たき火の約束


 ノワが珍しく朝から落ち着かない。尻尾の毛並みが、風のない部屋で波打っている。


「里から、知らせ。境の森で“境界の穴”。人間が迷い込むかも。魔族が驚かすかも。——喧嘩になる」


「行こう」


 里へ続く道は、石を積んだ橋で人間の領と結ばれている。橋の真ん中に立つのは、里の長と、人間側の村長。どちらも額に汗。言葉は少ないが、目は強い。


「境界の穴は塞いだ。だが、互いの怒りが残る」


 長の声に、ノワが前へ出る。


「おれ、橋の番、やる。怒りが来たら、半分ずつ受ける」


「半分ずつ?」


「半分なら、笑える。全部は笑えない」


 村長が鼻を鳴らした。だが、口の端がわずかに上がる。俺は橋の欄干に棒を立て、言った。


「ルールを作ろう。橋を渡る時は、名前を言う。今日の目的を一つ言う。——言えないやつは渡らない」


「単純だな」


「単純が一番強い」


 最初に手を伸ばしたのは、里の子どもだった。


「名前、ノエ。焼き芋を買いに。半分、人間にあげる」


 橋の上で、笑いが一つ生まれた。村長がゆっくり手を伸ばす。


「わしはタツ。たき火に薪を運ぶ。半分、魔族の子に貸す」


 たき火は、火事の反対語だ。夜、里の広場に輪ができ、焼き物の匂いが混じり、言葉は少しずつ近くなった。レイが遠くから見ていた。外套は脱いで、ただの旅人みたいに。


「監察の結論」


 俺が言うと、彼は短く答えた。


「焼き芋は、やはり最強だ」


     *


第17話 世界の根へ触る杖。鍛冶屋の炉で、心を打つ


 ラガンの鍛冶場へ、風のない夜が来た。火は小さく、赤い。俺たちが戸口に立つと、ラガンは顔を上げずに言った。


「悪い知らせは火を弱くする。いい知らせは火を強くする。——今夜は、どっちだ」


「両方だ」


 棒が低く鳴る。


「世界の根に、切れ目ができている。俺の中が、空気の抜けた笛みたいにときどき鳴る」


 ラガンの目が、炭から炎に変わった。


「見せろ」


 炉の前、俺は棒を両手で持ち、ラガンは掌で包んだ。熱くない。なのに、心拍が一つ飛んだ。


「武器は持ち主を映す。お前の心は、今どこへ向いている」


「前。仲間の笑いのする方へ」


「なら、折れない」


 ラガンは火を強くし、棒を熱の輪にくぐらせ、冷水に浸す。普通なら木は割れる。割れない。炉の奥で、何かが小さく鳴った。土の下から、根が伸びる音に似ている。


「儀式をやる。お前と杖をもういちど結ぶ。名を呼べ」


「ルートロッド」


「もう一つ」


「相棒」


 火が一段上がった。ラガンが掌で棒を軽く叩く。ぺち。嫌な音じゃない。目を閉じると、暗がりの中で細い光が一本だけ、遠くまで伸びていくのが見えた。


「根だ。世界の底に張っているやつだ。そこに切れ目がある」


「塞げるか」


「塞ぐんじゃない。繋ぎ直す。笑いながらな」


「笑いは、金槌になるか」


「なる。重さは軽いが、数で勝て」


 ラガンはにやりと笑い、両手を洗った。


「次、来るぞ」


 彼の言った「次」は、意外とすぐ来た。


     *


第18話 鐘楼を守れ。名乗りと“同時決め”の夜


 夜風が、昨日と違う匂いを運んできた。乾いた草、濡れた革、そして、焦り。鐘楼の上に小さな影が走った。


「来た」


 夜番の笛が短く鳴る。俺たちは屋根へ。昨日よりも高く、昨日よりも遠くへ。鐘楼は街の心臓だ。鳴ればみんなが空を見上げる。黙ればみんながうつむく。


 敵は盗賊団じゃない。仮面をかぶった“無言の連中”。誰かの命令で動く感じが薄い。自分の影を自分で踏んでいるみたいに、足音が揃わない。嫌な動きだ。


「鐘を落とす気か」


 鐘の鎖に手がかかる。俺は叫ぶ。


「名乗れ!」


 相手は黙った。黙ったまま刃を上げる。名乗らないやつと、殴り合いはしたくない。けれど、守るべきものは目の前だ。


「伸」


 棒が伸び、鐘の梁に回る。俺は両足で屋根を蹴り、鎖と鎖の間に体を滑り込ませる。


「受け流し・ルート回し!」


 刃の芯を外に追い出す。ノワが右の端へ飛び、尻尾が月の光を払う。


「影歩・二枚抜き!」


 メリアは帽子を深くかぶり、指先で空を切る。


「散華・星火、低光!」


 ルミナが胸の前で印を結ぶ。


「祝福・鳴らせ!」


 鐘が一度だけ、大きく鳴った。音が街の骨を鳴らし、人の背筋を伸ばす。夜の窓が、あちこちで開いた。誰かが囁く。「鳴ってる」。誰かが笑う。「大丈夫だ」。


 敵の動きが鈍る。名乗らないやつは、音に弱い。音は名前の代わりになるから。俺は棒を縮め、間合いを詰めた。


「弾き・芯ずらし!」


 仮面の男の拳を、ほんの少しだけ遅らせる。ノワの膝がそこへ入る。メリアの薄氷が足元に走る。ルミナが“すべらない空気”を履かせる。落ちない。落とさない。鐘の鳴りが、もう一度だけ街を包む。


「退け」


 低い声。屋根の向こうで、黒い外套が揺れた。レイだ。彼は敵と味方の間に立ち、笛を短く三回吹いた。合図は魔王軍の撤収。仮面の連中が一瞬だけ迷い、影へ溶ける。


「監察役」


「今日は“見た”。——次は、“止める”。敵でも、味方でも」


 彼は俺の肩を見て、ぽつりと言った。


「名乗りは、強い」


「叫んだ技は、必ず決める。名乗って来いよ、って話だ」


「その通りだ」


 屋根の上で、息を合わせる。俺たちは同時に棒を掲げ、同時に声を出した。


「“屋根上連携・四人四様”!」


 叫んだ瞬間、体が同じ方角へ向いた。棒が伸び、尻尾が走り、光が散り、祝福が粘る。鐘が三度目を鳴らす。夜が、少しだけ明るくなる。


 戦いがひとだんらくして、屋根の縁に座った。汗が冷える。星は近い。街のどこかで、焼き芋の匂いがした。誰かが半分こしている。いい夜だ。


「カイル」


 棒が呼ぶ。声じゃないけれど、確かに。


「根の切れ目、広がっている」


「わかってる」


「次は、下だ。屋根の下。街の下。世界の下」


「降りるのか」


「降りる。笑って、叩いて、結び直す」


 俺は立ち上がった。


「なら、明日も働く。笑うために。——叫ぶために。叫ばないで決める、その日まで」


 ルミナがにっと笑い、メリアが帽子で星を掬い、ノワが尻尾で“V”を作る。レイは外套の襟を直して、短くうなずく。鐘楼の鐘はもう鳴らない。でも、鳴らした音は、みんなの体の中でしばらく鳴り続ける。


 男子の心拍数が一番上がるゾーンは、いつだって“みんなで同時に決める瞬間”だ。今夜、俺たちは確かにそこへ入った。次は、もっと深く。もっと明るく。——クライマックスへ、降りていく。

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