表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

9:兄の思い③

そうして保有魔力や血液などを詳しく調べた結果は、やはり私は教授と血縁があり孫だと認定された。


「ふっ、そうだと解れば多少強引にでも養子縁組を早急に成立させれるな。

 君の妹についても早急に手を打とうではないか」

「教授、それは私が成人するまで待つ必要がないと言う事ですか」

「ああ、そうだ」

「ならば今すぐにでも妹を迎えに行きたいです」

「そうだな、早い方がよかろう。

 よし、手立てを考えるとしようか」

「はい!」


ちょうどその時だった、執事とメイド長から手紙が届いたのは。


両親には気付かれない様に妹を隣国へ連れ出して欲しい事

このままでは妹が弱り切って死んでしまうのではないかと心配でならない事

自分達では助け出す事が出来ない事

そしてこれまで妹の身に何が起きたのかが切々と書かれていた。


見つからないようにと急いで書いたのであろう、字は乱れており紙はしわくちゃになっていた。

手紙を読み終えた時、自分の愚鈍さに嫌気がさす。

何故あの母の手紙を真に受けたのか。

何故1度でもいいから妹の様子を見に戻らなかったのか。

情けなくて悔しくて、ぐっと自分の拳を握りしてた。

そんな私の拳を温かくて大きな手が包み込む。


「だがな、もし君が1度でも戻っていたならば君まで軟禁されていただろう。

 そして妹さんはもっと辛い目にあっていた可能性が高い。

 だから自分を責めてはいけないよ。

 君はまだ子供なのだからね。

 悪いのはあの者達であって君ではない。

 そして君達の状態に気付けなかった我々大人の責任でもあるのだから。

 私はこれから陛下にお会いしてくるよ、この手紙は陛下にも見せてよいかな」

「はい」

「大丈夫だからそんな心配そうな目をするでない。

 権力とは正しく使うべきであろう。

 幸いな事に私にもある程度の権力はある。

 やっと再会出来た可愛い孫達の為に活用するのは悪い事ではないだろう?

 今権力を使わなくて何処で使うと言うのだ。

 任せておきなさい。

 さあ、君は何時でも出かけられる準備をしておくのだよ」


そこからの動きは早かった。

知らせを受けた皇帝は驚きの後感涙にむせび、その後に激怒するという状態になったらしい。


「今すぐその犯罪者共に暗部部隊を送り込んで…」

「陛下!まずは妹君の救出が先で…」

「陛下、これは国家間の、いえこのさい国際問題として…」


なにやら大事に発展しそうだったので教授はそそくさと戻って来たらしい。


「誘拐も虐待もりっぱな犯罪だからね。

 言い逃れ出来ないように証拠固めは行うだろうね。

 まぁ面倒事は陛下に任せればよい。

 私達は君の妹を迎えに行くとしようか」


準備はいいかい?と聞かれたので頷くと、私の体は眩しい光に覆われて別の場所へと移動していた。

此処は何処かと問えば、教授の別荘だと言う。

しばらくは宮殿も騒がしいだろうからとここで妹の療養をする事になった。

ここから馬を飛ばせば2,3日で妹の居る田舎の別荘へ到着するようだ。


「休憩はと睡眠は必ずとるように、食事も抜かぬようにな。

 無理をすれば肝心な時に君が倒れてしまうからね」

「解りました、では行ってまいります」


逸る気持ちを押えながら私は3時間毎に10分の休憩を取る。

私だけなら5分でもいいのだが、馬も休ませてやらねばならない。

日暮れと共に宿へと入り、日の出と共に宿を出た。


そうして3日目の昼前に妹の居る田舎の別荘へ辿り着く事が出来た。

幼少期に1度だけ来た事のあるこの別荘には、当時の面影を残す老夫婦が居た。

老夫婦は私の訪問に驚いたようだったが温かく迎え入れてくれた。

おおよその事情は察しているのだろう。

老夫婦は日持ちがするような食べ物を小さな鞄に詰めたり、妹の為の外套を用意してくれたりしていた。

私は教授から預かった2通の封筒を老夫婦に差し出す。


「1つは通行証。もう1つは仕事の紹介状だ。

 これまで不甲斐ない私の代わりに妹の側に居てくれて感謝する。

 私は此処から妹を連れ出す。

 このまま貴方達が残れば危険が及ぶかもしれない。

 もし此処を離れて行く宛が無い様であれば書いてある住所を訪ねて欲しい。

 それと、これは今までの賃金と路銀に当てて欲しい」


そう言ってお金の入った革袋も差し出した。

老夫婦は受け取れないと言ったが、私としては受け取って貰わないと困る。


「妹の為だと思って受け取ってもらえないだろうか」


ずるい言い方だと思う。

妹は自分が此処から立ち去るとなればきっとこの老夫婦の事を気にするだろう。

妹を安心させる為にも受け取って貰いたいのだ。

勿論感謝の気持ちも込めて入る。


「解りました、有難く頂戴いたします。

 代わりにといいますか、これをお嬢様に渡していただけますでしょうか」


老婦人が差し出したのは端切れで作られた小振りのクマの人形と雑紙で作られたメッセージカードだった。


「解った、必ず渡そう。ありがとう」


手早く荷造りを終えた老夫婦の旅立ちを見送り、私は妹の待つ部屋へと歩を進めた。

やっとだ、やっと会える。

何年もの間手紙1つ寄越さなかった兄を恨んでいるだろうか。

何故もっと早く来てくれなかったのかと泣くだろうか。

もしかしたら背が伸びて体格も良くなった私を兄だと解らないかもしれない。

不安を募らせながら扉を開く。


目に飛び込んできた妹の姿は13歳とは思えないほど小さくて細かった。

5年前に別れた頃とほぼ変わってないじゃないか…

視界が滲んで行く。

私は声を掛けるのも忘れ、思わず駆け寄って抱きしめた。

少しでも力が入ってしまえば折れてしまうのではないか、そう思うと手が震えた。


「ファレグ。なんて事だ、こんな状態になっていたなんて。

 もっと早く足を運ぶべきだった。

 母上の手紙を鵜呑みにするのではなかった。

 すまない」

「お兄さま、謝らないで下さい。

 こうして会えたのですから…」


そう言って微笑む妹の顔は昔のままのあどけなさが残っていた。

この笑顔を失わなくてよかった、心の底からそう思ったのだった。

読んで下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ