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8:兄の思い②

留学の話は滞りなく進んで行った。

学校長の推薦と皇太子からの推薦、そして隣国である帝国の皇帝からの招待状が国王を通して父に渡されたのだ。

いくら母が嫌な顔をしようが父が難色を示そうが断る事が出来ない状態だった。


妹にも留学の話をした。

妹はとでも喜んでくれた。


「お兄さま、素敵!

 お隣の国の皇子さまとお友達で、その国に留学生として招待されるなんて!

 私も留学出来るように元気にならないとね」


一般的に女子は13歳からの2年間貴族女学校に通う事になる。

成績がよければ諸外国への留学や女官としての就職斡旋などもあると言う。

妹がそうなってくれれば一番よいのだがあの両親、特に母が邪魔をしてきそうである。

私が留学先で卒業するのは5年後の18歳、成人と同時だ。

それまでに地盤を固めて妹を呼び寄せる事が出来る様に頑張らねば。


留学へ出発するまでの間、両親の目を盗んでは妹に色々な本を読み聞かせた。

それには執事やメイド長が協力してくれた。

この2人は私達がこの屋敷にやってきた当初から勤めておりあの両親との付き合い方も心得ているようで適度な距離を開けつつ上手く立ち回っているようだった。

私達が幼い頃の世話などもしていてくれた為、両親の目が無い所では私達の味方をしてくれていたのである程度は信頼できると思ってもいいだろう。

私が居なくなったら、両親の目が無い時だけでいいから妹の様子を見てくれるように頼んだ。


それから数か月後の13歳の夏、私はこの国を出て隣国の学院へと留学をした。

学院では寮に入った。

皇太子は自分と同じ館から通えばいいと言ってくれたがさすがにそれは遠慮させて貰った。

皇太子の館なんて宮殿ではないか、勘弁してもらいたい。

学院では学ぶ事が多かった。

授業もそうだがそれとは別にこの国に存在する魔法の事や法律、礼儀作法や一般常識などもすべて学び直した。

国が違うのだから礼儀作法や一般常識も違う部分があるだろうし、なによりもあの家で習った事に不安があったのだ。

いくら家庭教師が教えてくれたと言っても家庭教師の質にも格差がある。

貴族学校の友人達の話と比べても足りない部分が多い気がする。


多忙な日々を過ごして居ると時間はあっと言う間に流れる。

時折あの家に手紙を出すものの返事は決まって母からで『こちらは皆元気に過ごしているので心配せずに勉学に励みなさい』としか書いてなかった。

妹からの手紙が入ってなかったのは残念だったが恐らくあの母が邪魔しているのだと予想がつく。


17歳になった時、私は衝撃的な真実を知る事になる。


まず1つ目、卒業後の就職先として王太子の側近となる内定手続きの為に国元から戸籍と貴族籍の写しを取り寄せた。

この2つは王国印が押され公的な書類となる。

戸籍の方は問題なくあの両親の養子と言う事で記載されていた。勿論妹も。

だが貴族籍の方には私達の名前は載っていなかった。

これはどういう事かと言えば正式な養子とは認められておらず、養子となった本人達が成人した場合離反して独立した戸籍が持てると言う事だ。

私達の様な兄弟の場合長子が成人し離反した場合は弟妹も長子の戸籍に入れる事が出来る。

貴族籍が入って居なかったのは幸いだった。


次に2つ目、私は卒業後もこのまま帝国に住むつもりでいたので定住資格証明証の取得手続きをしようとした。

その為の条件の中の1つに帝国民の保証人が2人必要となるのだが、これは皇太子とお世話になっている教授が名乗りを上げてくれた。

このまま順調に手続きが進むと思われたのだが、ここでストップが掛かった。

話があるから取り敢えず来いと皇太子に腕を組まれて向かった先は宮殿だった。

そのまま引きずるように連れて来られたのは皇帝一家が勢揃いしている晩餐会場。

いったい自分の身に何が起きているのか戸惑っている内に席へと促された。


「私的な場なのでな、気を張らず楽にしてくれ。

 まずは食事にしようではないか。

 息子のお気に入りの親友で側近になってくれると聞いた。

 ならば私にとっても息子同然だな」

「ええそうね。家族同然だと思ってちょうだい」


なるほど、皇太子の人懐っこい人柄はこのお二人から来ているのかと場違いな事を考えてしまった。

なぜ私は突然宮殿に連れて来られて皇帝一家と食事をする事になっているのだろうか。


食事を摂りながらの話題は私の卒業後についてとなる。


「かの国はちと曲者が多いからな。

 其方の優秀さが露見すれば難癖をつけて取り戻そうとしてくるやもしれん。

 そうなるといささか面倒になるのでな。

 其方、叔父の養子となれ。

 なに心配はいらぬ、叔父は大歓迎だと言っておった」


行き成りの提案に私は口に運んだ人参をグフッと喉に詰まらせた。


「父上、私の親友を窒息させる気ですか。

 タイミングを見計らってから提案して下さいよ」

「おや、それはすまなかった」


皇帝陛下の叔父、それは先帝の弟君と言う事で…

その方が私を大歓迎…

はて、何処かでお会いしたことがあるのだろうか。


「あれ、解ってないみたいだな。

 君、頻繁に会ってると思うんだけどな」

「昨夜も叔父上と一緒だったのではないのか?」


頻繁に会ってる?…

昨夜も一緒だった?…

それって、まさか教授?


「おや、言って無かったかな」


教授がニコリと微笑みながらやって来た。

なるほど、教授が皇帝の叔父で先帝の弟君だったと・・・

この日の衝撃を私は一生忘れる事がないだろう。

驚きのあまり叫ばなかった自分を褒めてやりたかった。


翌日には養子縁組の為の必要手続きを取る事になったのだが、ここでもまた衝撃を受ける事になる。

この国での養子縁組では書類に魔力を流すらしい。

この国に産まれた者であればたとえ微量であっても皆魔力を保有しているのだと言う。

私も魔力を保有しているのは教授に指摘されて分かってはいた。

だから書類に魔力を流す事は出来るのだが…


「どうかされました?」

「あぁ君か。

 いやなに、大したことではないのだがね」


どうやら私の保有する魔力と教授が保有する魔力の性質が酷似しているらしく、このような酷似した魔力を持って居るのは3親等以内の身内に限られるらしい。

だが私は王国で生まれ育って…

そこで疑問が生まれた。

記憶があるのは5歳の頃で生まれが何処なのかは解らない。


「君は幼い頃、教会の前に捨てられていたのだと言っていたね。

 どこの教会だったかは覚えているかい?」

「国境付近にある小さな教会でした」

「なるほど、越境していたという事か。

 さすがにそこまでは捜索していなかったな」

「あの… 教授?」

「ああ、すまないね。

 どうやら君は、君達兄妹は私の孫という可能性が高くなってきたね」

「え?」


教授の話によれば12年前、何者かによって教授の孫が2人誘拐されたのだと言う。

長年探し続けては居たが2年前に「10年も探して見つからないのは…」と捜索は打ち切られたらしい。

教授の息子夫婦も自ら捜索隊に加わり不運にも崖崩れに巻き込まれて亡くなってしまったのだとか。

そう言って教授はロケットペンダントの中に描かれた息子夫婦の小さな肖像画を見せてくれた。

夫人の顔はどことなく妹に似ており、髪の色と瞳の色も同じだった。

ああ、この顔だったかもしれない。

優しく微笑みながら私を抱きしめてくれていたのは…


「母上…」

「覚えているのかい?」

「朧げにですが…」

「そうか」



読んで下さりありがとうございます。

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