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3:領地へ

熱が下がってからお父さまが部屋に顔を出してくれた日、私は思い切ってお願いをしてみた。


「お父さま、私領地でゆっくり療養したいのだけど駄目かしら」

「ふむ、そうだな。それがいいか。

 お前は体が弱いからな。

 賑やかな王都よりも自然豊かな領地の方がよいのかもしれんな。

 本来社交デビュー前なのだから無理に滞在する必要もないだろう」

「ありがとう、お父さま」


私への負い目を少しでも感じているのか私のお願いはあっさりと認めて貰えた。


こうして私の体調を見ながら領地へ戻る準備をすすめる事となった。

私の体力はかなり落ちており、長旅に耐えられるようになるまでには3ヵ月を要した。

それでも万全という訳では無く、休憩を多めに挟むゆっくりとした行程が組まれた。

私としては無理を押してでも早く王都から立ち去りたかったのだ。


「もう少し体力が回復してからでも良いのではないかしら」

「貴方が心配なのよ、母様の傍に居なさいな」

「貴方は母様と離れてもよいの?」


などと母は言っていたけども私は眉を下げて微笑むだけにしておいた。


「領地なんて辺鄙な田舎私は行かないわよ!

 あんな所夜会もお茶会も参加出来なくなるのに嫌よ!」


結局母はそう言い放つと私の部屋には近寄らなくなった。


そうして明日はいよいよ領地へと向けて旅立つとなった時

少しワクワクとしていた私の気持ちをどん底に突き落とすような出来事が起きた。

突然の第二王子の訪問である。

両親が居ない時を見計らって押しかけて来たのか、執事などの使用人では追い返す訳にも行かず無遠慮に私の寝室へとやって来た。


「なんだ元気に生きているではないか。

 あの毒も大したことはなかったのだな」


ベッドのヘッドボードに置いたクッションに背を預けて座る私に投げ掛けられた言葉だった。

何を言っているのだろうか。

どう見れば私が元気に見えるのか。

未だに肌は青白く体はやせ細ったままだし、長時間座っていることもままならない。

喉の違和感は残ったままで声はかすれ耳障りになっている。

10日間もの間生死の境を彷徨ったと言うのにあの毒も大したことはなかったとは…


私はどうすればよいのか解らずにポカンと無表情のままになってしまっていた。


「ふん、まあいい。

 ほら見舞だ、受け取るがいい」


そう言って投げつけられたのは血の様な赤い色をした花だった。

受け取るがいいと言われても投げつけられた上に私の腕には軽い麻痺が残ったままだ。

花は私の頭から上半身へと降り注ぐように落ちて来た。

舞い散る花粉を吸いこんでしまい呼吸が苦しくなる。

ゴホゴホと咽て少量の吐血をしてしまった。

助けを呼ぼうと口を開けば更に花粉が入り込んでしまいもっと咽て吐いてしまった。


「なんだつまらん。

 この毒も大したことが無いな」


そう吐き捨てるように呟くと第二王子は帰って行った、毒の花を私に投げつけて…

この人は何がしたいのだろう。

そして何故私にこの様な事をしてくるのだろう。



第二王子と入れ替わるように部屋へ入って来たメイドが悲鳴を上げる。

ああ、貴方はこちらへ来ては駄目よ。

そう伝えたいのに声は出ず、私はそのまま意識を失う事になった。


「ずっと付き添うと言っておきながら何故目を放した。

 こんな時間まで何処へ出掛けていたと言うのだ!」

「私だってたまには息抜きが必要なのよ!

 ほんの少しお友達とお茶を飲むくらいよいではないですか!」

「ほんの少しだと?

 半日以上留守にしておいてほんの少しだというのか!

 それにこのところ連日帰りが遅いではないか!」

「そこまで仰るなら旦那様が付き添えばよろしいではありませんか!」

「私は仕事が」


「お二人共止めて下さい!

 体が弱い私が悪いのです、申し訳ありませんでした。

 付き添いは不要ですから。

 私はもう少し眠りますのでお二人共部屋に戻ってお休みくださいませ…」

「ファレグ」


お父さまは何か言いかけて口をつぐんだ。

両親の言い争いはたまに起こる事なので珍しくはない。

しかも毎回私の目の前で言い争い、私が謝罪するまで続くのだ。

『体が弱い私が悪いのです、申し訳ありませんでした』

本当にそうなの?

体が弱いのは私のせいなの?

体が弱い事は悪い事なの?

そう思ってもそれを口にする事は出来なかった。


幼い頃熱を出すと何度も母に言われた言葉が蘇る。


「貴方が熱を出すからお茶会に行けなかったじゃない!」

「また熱をだしたの?貴方のせいでせっかくの夜会に行けないじゃない!」

「貴方が熱を出すのが悪いのよ!観劇の約束をしていたのに台無しだわ!」


私がごめんなさいと謝るまで母の口が閉じる事はなかった。

それなのに誰かが屋敷を訪れてくると大声で心配の言葉を口にする。


「先日はごめんなさいね。

 せっかく誘って下さったのにあの子ったら熱を出してしまって。

 まだ幼いし病弱なものだから心配でずっと側に付き添っていたのよ。

 ええ、今は落ち着いたし是非また誘ってくださいな」


あの頃の私は幼くて何も思わなかったのだけれど、今なら私のせいなの?と少し思えてしまう。

そんな風に幼い頃の事を思い出していた間も両親の言い争いは続いていた。

今回は私が謝っても終わらないのね…

私は両親にとって邪魔なのかしら…

言い争うなら何処か他の部屋にして欲しかった。

終わる気配のない言い争いを続ける両親の声を聞きたく無くて

私は頭まで布団に潜り込みそっと目を閉じた。


次の日、目を覚ませばさすがに両親の姿は見あたらなかった。

廊下からメイド達の立ち話が聞こえてくる。

その話からすれば父は仕事へと出掛け、母は観劇へと出かけて行ったらしい。

昨日の今日で出掛けるとは…

どうやら私は本当に邪魔なのかもしれない。

今回も医師を呼んで貰えなかったようだし…

私は生きている事を喜んでもいいのだろうかと疑問が浮かぶ。



予定より遅れる事10日。

私はやっと領地へと向かう事が出来た。

執事やメイド長が気候の穏やかな領地の方が人の出入りが激しい王都の屋敷よりも落ち着いて療養出来るのではないかと両親、特に父を説き伏せてくれたお陰だ。

執事やメイド長に直接声を掛ける事は出来なかったけれど、見送りに出て来てくれた時にはとびきりの笑顔を向けておいた。

両親が居なかったからこそ、その笑顔も向ける事が出来たのだけど。

特に母が居たら思い切り嫌そうな顔をするだろうし、あれこれと言い出して出発が遅れたかもしれない。

使用人に笑顔を向けるのはいけない事なのだろうか。

ムスッとした顔を向けるよりは良いと思うのだけれど。



領地に着くまでは馬車の揺れが少しでも減るようにとゆっくりと進んでくれ

手足を伸ばせるようにと予定よりも多く休憩を挟んでくれたりもした。

馬車の中も体が辛くないようにと沢山のクッションを敷き詰めてくれてあった。

その心遣いがとても嬉しい。

食事に関しても付き添ってくれたメイドは面倒くさがる事も無く、私が飲み込みやすいように小さく切り分けたり潰したりと世話をしてくれた。


そして2週間掛けた旅が終わり私は領地の片隅にある田舎の村へとたどり着いた。

此処には小さな別荘があるのだ。

まだ幼かった頃、兄も一緒に家族で避暑に訪れた事がある。

母は何も無い田舎で好きではないと言っていたが、私は自然溢れるこの場所が好きだった。

読んで下さりありがとうございます。

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