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23:内緒にしなければ

祖父の誕生日が過ぎて、次は3ヶ月後に兄の誕生日がやってくる。

兄にはどんな贈り物をすればいいだろうと思い、アイダやばあやに相談してみた。


「そうですね、小振りのお嬢様の姿絵が欲しいと以前仰っていましたね」

「何処にでも持ち歩ける大きさの物が欲しいと仰っていましたねぇ」


持ち歩ける大きさの私の肖像画…

そういうのは普通、婚約者や恋人のを持ち歩くのでは?


「大切な家族の物を持ち歩く方もいらっしゃいますよ」


そうなんだ。

私はこの離宮から出る事はほとんど無いし、いつでも壁に掛けられている絵を見る事が出来る。

でも兄は仕事で出掛けているし、忙しいと帰ってこれない日もある。

そう考えたら、姿絵を持ち歩きたくなってしまうのかもしれない。

でも、私は人物画を描けないし…


「確か家庭教師の方は絵の腕前もなかなかよろしいのだと伺った事があります。

 家庭教師の方に頼んでみてはいかがでしょう」


本当ならちゃんとした画家にお願いした方がよいのだろうけど、知らない人と会うのはまだ少し怖いし緊張してしまう。

なので家庭教師に相談という名のお願いをしてみた。


「そうですね、お嬢様の体調の事を考えれば

 確かに外部の者を招き入れるのはよろしくないかと思われます。

 解りました、私でよければお受けいたしましょう」


その後はどんな感じの絵にしたいのかなどを話し合った。

私はすました顔ではなく、元気いっぱいの笑顔でとお願いした。


それからの日々は午後からの庭の散歩に家庭教師も加わった。

庭で花を見たり、鳥や虫を観察している時の私の顔はいい笑顔なのだそうだ。

だからその笑顔をスケッチしていくらしい。

私が花や鳥をスケッチして、その姿を家庭教師がスケッチする。

なんだか不思議な光景だなと思った。



数日後、いつもの散歩の途中で私は突然吐血してしまった。

変な物を食べた覚えは無いし、変な匂いを嗅いだ覚えもない。

何故いきなり吐血してしまったのだろう。


アイダが慌てて医師を呼ぼうとしていた。


「待って、あのね。

 お祖父さまやお兄さまに心配かけたくないの。

 だから医師は呼ばないで…」

「しかしお嬢様」

「あのね、こっそりと医師の叔父様の所に行く事は出来ないかしら」

「それは難しいかと…」

「そうよね…

 じゃあやっぱりお祖父さまやお兄さまには内緒にしていて。

 ほら昔から吐血なんてよくしていたし、私にはよくある事よ。

 お祖父さまだってお元気だけどもう高齢だし、お兄さまだってお忙しいのだから

 これ以上心配掛けたくないのよ…

 ね? お願い」

「解りました、お祖父様やお兄様には内緒にしておきます。

 ですが医師の診察はお受けになって下さい。

 私とばあや、モルトじいの3人で

 なんとかこっそり診ていただけるようにいたしますから」

「解ったわ、ごめんね。ありがとう」


アイダとしては祖父や兄に報告したいのだと思う。

私の我儘だと解っている。

でも私はどうしてもこれ以上心配かけてしまうのが嫌だった。


その後は眩暈や発熱も無い様なので図書室へ向かい、本を探す。

毒についてや巫毒(ふこ)について、何か解らないかと思ったのだ。

だって突然の吐血の原因について、それ以外に思い浮かばなかったから。

祖父と精霊さんが巫毒を解除してくれても、おそらく長年巫毒に掛かっていたのだろうから何かしらの影響が残っているのではないだろうか。


鉱山で働く人々は採掘の際発生する塵を吸い込むため短命なのだと本で読んだ。

根や葉に毒を持つ植物は薬の素材にもなる為採取されていはいるけど、採取する人は僅かながらも毒に触れてしまう為やはり短命なのだとこれも本で読んだ。

1つ1つは極微量だけど、長年働く事で体の中で蓄積されていって長生きは出来ないのだそうだ。

私の体もそれと同じ様な状態だったのではないだろうか。

もしかしたらもっとひどい状態なのかもしれない。

巫毒だけではなく、あの王子や()()()からも毒を盛られたのだから…


アイダもばあやも何も言わず、私と一緒に毒に関する本を読んでくれている。

祖父が来た時に誤魔化す為の料理やお菓子の本も一緒に持ってきている。


色々な本を読んでみて解った事がある。


人間の体内では、解毒作用をおこなう臓器があると言う事。

長年微量の毒物を摂取し続けていると、その臓器が損傷してしまう事。

幼い頃にそれらの影響を受けてしまうと成長が止まったり遅れてしまい、体調も崩しやすくなってしまう事。

最悪の場合、生きる為に必要な臓器にも影響が出てしまう為短命となってしまう事。


それらの事が解って私は落胆したというよりもやっぱりなと言う気持ちの方が大きかった。

だって… 私の体は8歳の頃からほとんど変化がないのだから。

だけど悪い事ばかりが解かったわけではない。

野菜や海藻、豆製品、キノコ類、雑穀類が解毒作用にはいいとも書いてあった。


「そうですね、料理長にはお嬢様の健康の為と言えばよいでしょう。

 あの料理長の事ですから張り切って美味しい料理にしてくれますよ」


アイダがそう言ってくれた。

そしてその言葉通り、料理長はそれらの食材をふんだんに使った美味しい料理を作ってくた。

雑穀を使ったお菓子まで、パティシエと一緒に考えてくれたらしい。

有難い事だと思う。


祖父と兄が居ない日に、庭からこっそりとあの医師の叔父がやって来てくれた。


「叔父達には内緒だと言う事でお庭から失礼しますね」


そうして色々と調べてくれたのだけど、だんだんと叔父の顔が険しい物へとなっていった。


「以前診た時はここまでではなかったはずなのに…」

「そんなお顔なさらないで下さい。

 それだけ巫毒がやっかいな物で未知の物だったと言う事でしょう?

 巫毒が解かれてもどんな影響が残るのかなんて書物にも載ってませんでしたし。

 そもそも巫毒についての書物がないのですから。

 それに、ほら私はこうやって現状では元気なのですし」

「だがな…」

「解ってます、大丈夫ですから。

 私はお祖父さまやお兄さまと一緒に幸せになると決めたんです。

 ですからこのまま諦めるつもりはありませんし

 お祖父さまやお兄さまに伝える気もありません。

 なので叔父さまも協力していただけませんか?」

「協力など幾らでもするさ。

 だが伝えないのは…」

「お願いします、これ以上心配は掛けたくないのです。

 お祖父さまにもお兄さまにも笑っていて欲しいのです」

「解ったよ、可愛い姪の頼みだからね。

 僕も全力で協力しよう。

 但し、無理はしない事。

 そして少しでも体調が悪ければすぐに僕に連絡を入れる事。

 そうだな…

 僕が頻繁にここへ足を運んでも怪しまれない理由があればいいのだけど」

「でしたら、庭に植えられている薬草についてお嬢様が興味を持たれたので

 それらについて教えに来ると言う名目ではいかがでしょう」

「左様ですね、薬草の中にはお茶に使用出来る物もございます。

 お二人の為に薬草茶を勉強したいのだと言う事であれば…」

「うん、それいいね。それでいこうか」


と言う事で、明日叔父宛の手紙を書いて祖父に預ける事になった。

叔父には巻き込んでしまって申し訳ないと思うけど、叔父の手助けは必要だからごめんなさい。

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