17:妖精さんへのお礼のお菓子
昼食は色々な料理が少量ずつ盛られたワンプレートランチだった。
私は紫キャベツのサワークラフトというのが気に入った。
お肉の後に食べると口の中がさっぱりとするのだ。
お陰で今回も全部食べる事が出来た。
食べ終わってお茶を飲んでいると料理人さんがやって来た。
たぶん白い服装だから料理人さんで合ってると思う。
何か用事があるのだろうか。
「お嬢様、頼まれておりました妖精さんへのお礼のお菓子を持ってまいりました」
「そうなの? 嬉しい。ありがとうございます」
元気いっぱいに答えそうになって、出来るだけ静かに言ってみた。
「はい!」とか「ありがとう!」とか元気よく言うのは悪い事ではないけど貴族はしないのだそうだ。
確かにお祖父さまやお兄さまはいつも静かに話している。
私も気を付ける様にしよう。
どんなお菓子なのか気になって聞いてみた。
「そうおっしゃると思いまして、お嬢様のぶんも作ってございますよ。
3時のティータイムの時にお出ししますね」
そうニッコリと言われたので私は凄くニコニコとしてしまった。
「本当?凄く嬉しい。ありがとう!」
あ…
嬉しすぎて元気なありがとうになってしまった。
今気をつけようと思ったばかりなのに…
受け取ったお菓子は小振りの箱に入っていて可愛くリボンも付けられていた。
「今からお届けになりますか?」
「妖精さんのお仕事の邪魔にならないかな」
「この時間ならちょうど休憩中かと思いますよ」
アイダがそう言ってくれたのであの裁縫が得意な妖精メイドの所に連れて行って貰う事にした。
メイドの休憩室は渡り廊下を挟んで離れにあるのだそうだ。
到着すると扉は開いておりあの妖精メイドが1人で休憩をしていた。
扉は開いていてもノックはするものだと教えてもらい、開かれている扉をノックする。
すると妖精メイドが気が付いて立ち上がり出迎えてくれた。
「お嬢様、アイダ様。このような所へいかがなさいました?」
チラリとアイダを見ると小さく頷いてくれたので勇気を出して箱を差し出した。
「あのね、このお洋服のお直しのお礼をしたくてね。
お菓子を作ってもらったの。
お祖父さまからもいいよって言って貰えたから
妖精さんが怒られる事はないと思うの。
だから、受け取ってもらえたら…
嬉しいなぁと思って… だめかな?」
「妖精さん…」
メイドが小さく呟いた。
私変な事いったのかな、変な子と思われたかもしれない。
どうしよう…
「うふふ、お嬢様。ありがとうございます。
私お掃除やお洗濯は苦手なのですが裁縫だけは自信があるのです。
お嬢様のお洋服のお直しは是非この妖精さんにお任せくださいませ。
心を込めて仕上げさせていただきますので!
あ、でもお菓子は今回だけでお願いしますね」
「お菓子嫌い?」
「いいえ、大好きです!
大好きだから困るのです。
ほら見て下さい、ここ。
これ以上太ったらこのボタンがですね
パツンと何処かへ飛んでいってしまうのです」
「パツンと飛んで…」
「はい、ですから今回だけでお願いしますね」
「わ、わかったわ。ボタンが飛んで行ったら困るものね」
「はい、今回は大事にありがたく頂きます」
「よかった。休憩中にごめんなさいね。
どうしても伝えたかったの。ありがとう!」
「こちらこそありがとうございます」
よかった、変な子と思われなかったみたいだし喜んでもらえた。
そうして妖精メイドと別れた後、私は図書室に行く事にした。
お花を調べている時に飛んでいた虫について知りたかったのだ。
ばあやに貰った図鑑には虫が載っていなかったのよね。
図書室に着いてみれば…
本の壁が幾つもあった。
「アイダ、凄いね。本の壁だらけだね。
大丈夫かな、中を歩いても倒れて来たりしないよね?」
「はい、大丈夫でございますよ。
倒れないようになっておりますからご安心ください」
それを聞いて安心して中へと入る。
虫が載っている図鑑はどこにあるのだろう。
探しながら歩いているけど上の方が見えない。
困ったな、どうしたらいいのだろう。
「何を探しているのかな?」
「お兄さま!
虫が載っている図鑑を探しているのです。
あれ?
お兄様学院は?… まさか」
「さぼりではないからね。
終わってさっき帰って来たんだよ」
「あ、そうなのですか。お帰りなさい」
アイダが目で何かを訴えている。なんだろう…
あ!
私はお兄さまに抱き着いてちゅっと頬に口を当てた。
そう、すっかり忘れていたけどお祖父さまにだけしてお兄さまは拗ねていたんだった。
チラリとアイダを見れば満足そうに頷いている。 よしっ。
お兄さまも嬉しそうに私の額にちゅっと返してくれる。
「ただいま。
それで虫が載っている図鑑だったかな。
それならこっちのほうに、ほらあった」
そう言ってお兄さまは見つけた図鑑を手渡してくれる。
「ありがとうお兄さま」
さっそく図書室の端にあるテーブルへと向かう。
お兄様も厚い本を持って隣に座った。
ゆっくりとページを捲りながら庭で見た虫を探して行く。
枯れ枝に薄い羽が付いたような虫だったのよね。
あった、これだ!
オニヤンマ。格好良い名前だった。
ハエや蚊などの害虫を食べてくれる益虫である。
益虫ってなんだろう。
「益虫かい?害虫は悪い虫の事なんだよ。
つまり益虫は悪い虫をやっつけてくれる良い虫って事だよ」
「なるほど、そうなのね。教えてくれてありがとうお兄さま」
「どういたしまして」
色々なのがいて纏めてトンボと言う言い方をしたりもするのね。
こっちの虫も前に見たような気がする。
これは…
アサギマダラ。へぇ凄いわ、鳥のように大陸を横断するのですって。
その後私はティータイムだと声を掛けられるまで夢中で図鑑を眺めていたのだった。
興奮しているのか鼻息がムフンムフン言ってたとお兄さまに言われたからちょっと恥ずかしかった。
でもそのお兄さまもアイダに「レディに対する言葉ではございませんよ」と怒られていた。
ティータイムに出されたお菓子はプティフールと言う一口で食べられる大きさのお菓子だった。
そのなかでもシュークリームと言うのが私は気に入った。
外側はパリッとしていて中にはたっぷりのクリームが入っているのだ。
このクリームがまた甘すぎずに美味しい。
しかも一口で食べられるから私には丁度いいのだ。
お兄さまはフィナンシェと言うのがお気に入りの様で幾つも食べていた。
あの妖精さんはどれを気に入ってくれるのだろう。
色々な味が楽しめるから全部気に入ってくれるといいな。
でも、こんなに沢山の種類を作ったのならあの料理人は大変だったのではないだろうか。
もしかして…
「違いますからね」
うっ… まだ何も言ってないのに。
アイダはあの料理人がパティシエと呼ばれるお菓子専門の料理人なのだと教えてくれた。
そうなんだ、お菓子専門の料理人なんだ。
それでもこんなに沢山…
するとお茶をついでいたメイドが内緒ですよと教えてくれた。
今まで子供も女の人も居なくてパティシエの出番が少なかったから喜んで作っていたんだって。
そうか、喜んでくれていたのか。
それならよかった。
読んで下さりありがとうございます。




