16:深夜の談合
祖父「どうにもファレグの言動が年齢にそぐわず幼い気がするのだが」
兄 「そうですね、やはりあの家での影響が大きいのかと」
祖父「アイダ、其方からみてどう思う」
アイダは自分が見知っているファレグについての情報を伝えた。
ファレグの持って居る知識の大半が絵本からである事。
時折使う大人びた言葉は教会から貰った冊子の影響である事。
基本的な礼儀作法は一応は家庭教師がついたものの、令嬢としては不足している部分が多い事。
贅沢とは縁遠い生活を送っていた事。
また外部の人間との接触が一切なかったので同年代の子供達とも接触したことが無い事。
食事量も多くは無く、7歳になる頃から寝込む事が増えた事。
あの家の人間が自分達の都合のいいようにファレグを扱う為に知識を与えなかったのではないかと自分が考えている事。
ファレグが言葉を掛けた使用人が次々と辞めさせられた為、一時期ファレグは誰かと会話するのを遠慮していた事。
それを癒してくれたのがアンクラブ夫妻だという事。
祖父「なるほどな」
兄 「ファレグは使用人にも礼を尽くそうとするよね、それも絵本の影響?」
アイダ「そうでございますね。
教会の冊子や絵本には挨拶や感謝がよく書かれております。
だからでございましょうか…」
兄 「昔から妹はちょっとした事でもありがとうと言っていたからな」
祖父「ならばその絵本に感謝せねばな。
絵本のお陰でやさぐれもせず優しい子に育ったのだろう」
それにしてもと3人は思う。
ケーキ1つであんなにも感激し料理長を大魔法使いとまで言うのだ。
自分達が思うよりも不憫な生活を送っていたのかもしれない。
体付きも8歳児とほぼ変わらない大きさなのだ。
言動も普通とはかけ離れているようにも思う。
この先どう教育していけばよいのやら。
令嬢として教育すべきなのか、それともファレグの個性に合わせるべきか。
いずれにせよファレグに無理をさせるつもりはない。
アイダ「でしたら旦那様。
まずはお嬢様が興味を持った事からお教えして行くのはいかがでしょうか。
お嬢様はご自分が普通とは少し違う事を解っておられます。
私やアンクラブ夫人に気が付いた事は教えて欲しいとも仰ってました。
ですからまずはお嬢様の興味がある物からがよろしいかと。
お嬢様は聡い方ですから
ご自分から次々と興味を持たれるのではないでしょうか。」
祖父「そうか、そうだな。
ついあれもこれもと思ってしまったが。
あの子に合わせてゆっくりでよいのかもしれぬな」
兄 「それにお爺様、ファレグには無理に令嬢らしくして貰わずとも
ずっとこのまま側で暮らして貰ってもよいと思うのですが。
下手に令嬢として社交界になんか出て婚約の申し込みなんかが殺到したら」
祖父「いかんいかん、それはいかんぞ。私はファレグを手放す気はないからな!
勿論其方もだ!」
気が早いように思えるが貴族であれば早い者は5歳で婚約者がおり遅くとも成人である18歳では大半の者に婚約者が決まっている。
身分的にも血筋的にも優良物件なこの兄にも申し込みは殺到しており、当然ながらファレグにも来始めているのだ。
まったくどこで聞きつけたのやらと祖父は嘆く。
だがファレグへの申し込みは祖父・アイダ・侍女長・執事長の4人が結託して跳ね返している。
兄の方は跡取りと言う事もあり、厳選したうえで優良な物だけ届けるようにしていた。
祖父「ああ、そうだ。ファレグの服や靴なのだが、あれでも多いと?」
アイダ「はい、お嬢様は以前の屋敷では7着しか服を持っておらず
曜日によって着る物が決まって居たそうです」
「「 なっ… まさか、そんな… 」」
アイダ「靴に至っては1足を履き潰すまでは次の靴は貰えなかったとか…」
「「 …… 」」
祖父「かの家は公爵であったはずでは?」
兄 「ええ、そうです。
でも今思えば私の衣装も他家に比べれば少なかったですね。
貴族学校へ行けたお陰でまだマシでしたが…」
祖父「そのような状態から考えれば確かに多く思うか。
では次からはもう少し減らそう」
兄 「ファレグの成長具合からしてしばらくは不要なのでは…」
祖父「ぐっ…」
アイダ「せめてしばらくは季節物1点でお願いいたします…」
祖父「あいわかった…」
アイダ「装飾品にも耐性がございませんので宝石類ではなく
レースのリボンなどからでお願いいたしますね?」
祖父「んぐっ… わ、わかった…」
こうして3人の談合は終わったのだが、厨房の片隅でも談合は行われていた。
料理長「お嬢様はどうやら普通のご令嬢とは違うようだな…」
副料理長「ええ、食に不自由があったとは聞いておりましたが…
まさかあの一番シンプルなケーキでさえあんなにお喜びになって」
ばあや「お嬢様はあの小さな別荘にいらっしゃるまで
お兄様が時折お持ちになったクッキー以外食べた事が無かったそうです」
料理長「な… 仮にも公爵家だったのだろう?
それなのにクッキー以外食べた事がないだと…」
副料理長「それに食事の量も少なくていらっしゃる…」
ばあや「どうやらそれも制限されていたようで…」
料理長「成長盛りの子に食事の制限など!ありえん…
いったいそこの料理人は何をしておったのだ!
いくら雇われの身でも主の間違いは正さねばなるまい」
副料理長「隣国は変わった国だと聞いております。
我が国とは考え方も違うのかもしれませんね…」
料理長「それにしてもだ…
ケーキや料理を美味しく食べる事が出来たと。
わざわざ礼を述べられて大魔法使いだと喜ばれて…
くっ… 今までどんな生活を送ってらしたのか…
決めたぞ、私はお嬢様の為に食の魔法使いになる!
お嬢様が笑顔になってくださるような料理やお菓子をお作りする!」
副料理長「え?待ってくださいよ。自分だけずるくないですか!
私だってお嬢様の為にお作りしたいですよ!」
料理長「えぇい、お前はまだ若いのだから年寄りに譲れ!」
副料理長「えぇぇ… そりゃないですよ料理長~」
ばあや「お二人共仲がよろしいようで。
でも他の方々の食事の事もお忘れないようにお願いしますね?
それにお嬢様でしたら何方がお作りになっても喜ばれると思いますしね」
「「 … 」」
料理長「私はお嬢様専属になる。総料理長はお前に譲ろう」
副料理長「何言い出すんですか!勘弁してくださいよ!」
ばあや「まぁお嬢様のお飲み物係は私とアイダ様で譲りませんけどね」
「「 ずるい! 」」」
ばあや「ほっほっほっほ」
そんなこんなで賑やかなこの3人は今後ファレグの好みを探りつつ、どうやって食事量を増やしていくかを相談していくのだった。
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