15:図鑑を持ってお庭へ
夕食の後は違う部屋に行って皆でお茶を飲みながら話をした。
私はこの時に祖父に服と靴の事を伝えた。
「お祖父さま、沢山の服と靴をありがとうございました。
でも私には多すぎて勿体ないと思うんです。
だから服も靴ももう少し少なくお願いできませんか?」
「多すぎたかな?」
「はい、私の体は1つだから
沢山あり過ぎると全部着る前に服が小さくなるかもしれないし…」
お祖父さまがアイダをチラリと見る。
アイダは小さく頷いてくれる。
「そうか、解かったよ。
ではアイダと相談して決める事にしよう」
「はい、ありがとうございますお祖父さま」
「私も帝国に来てから驚きましたからね。
普通の貴族とはこんなにも衣装が必要なのかと」
やっぱり兄も驚いたんだ。
その後は兄の学校での話を聞いたり、祖父と祖母の話を聞いたりした。
凄く楽しかったのだけど、私は眠たくなってしまって部屋に戻る事にした。
あ、お風呂…
「お嬢様、今日は汗を拭くだけにして明日の朝湯あみにいたしましょうか」
「うん、そうする…」
湯あみというのはお風呂の事だとあの小さな別荘に居た時にばあやに教えて貰った。
普通は体や髪も使用人が洗ってくれるのだとも教えて貰っていた。
あの家では髪は洗ってもらっていたけど体は自分で洗っていた。
メイドに「細すぎて触ったら折れてしまいそうで怖い」と泣かれてしまったから。
私にすればあのメイドも細くて触ったら折れそうだと思ったのだけど。
そんな事を考えている間に体は拭き終わっていて寝る時用の服に着替え終わっていた。
ベッドに入ってばあやが布団を掛けてくれる。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「おやすみ、ばぁや」
朝起きると見慣れない部屋に居た。
此処は何処だろう。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、ばあや」
ばあやの声で思い出す。
そうだった、祖父の離宮で私の部屋だった…
ばあやが持って来てくれたぬるめのお湯で顔を洗う。
これもあの小さな別荘でばあやが教えてくれた事だ。
それからゆっくりとベットを降りて着替える。
用意されていたのは昨日の薄い青色のワンピース。
着替えて見れば私に丁度いい大きさになっていた。
凄い! やっぱりあのメイドも魔法使いなのでは?
ううん、違う。
確か絵本の中に服や靴を作るのが得意な妖精さんの話が合った。
あのメイドはその妖精さんなのかもしれない。
だとしたら、お礼のお菓子を用意しなくては!
「まぁお嬢様、よくお似合いですよ」
「えへへ、そうかな。ありがとうばあや。
そうだ、あのねばあや。
妖精さんにお礼をするのにお菓子が欲しいのだけど、どうすればいいかしら」
「妖精さん…でございますか?」
ばあやが不思議そうにしているので説明をした。
するとばあやは「朝食の時にお祖父さまにご相談なさいませ」と教えてくれたのでそうする事にした。
朝食を食べる為に部屋を移動すれば、私が1番だった。
侍従が案内してくれ、祖父と兄が来るのを待つ。
「おはようファレグ。今日は可愛いワンピースを着ているね。
うん、似合って居るよ」
「おはようございます、お兄さま。
お兄さまとお祖父さまの眼の色を選んでみました!」
「そうか、私達の眼の色…
ふふふ、それは嬉しいな」
何故か兄はご機嫌な様子だった。
その後やって来た祖父とも同じ会話をした。
2人共ずっとニコニコとご機嫌だった。
何故だろうと思ったけど、2人がご機嫌ならいいかなと思った。
食事の後祖父は仕事へ、兄は学院へと出かけて行った。
私はどうしよう。
あ、祖父に妖精さんへのお礼のお菓子の事を聞くのを忘れてしまった。
「大丈夫ですよお嬢様、私が聞いておきましたから。
料理長達に伝えればお菓子は用意して貰えるそうですよ」
「そうなのね。じゃあさっそく伝えに行かないと」
「お嬢様が直接行かれるのですか?」
「え?駄目なの?…」
普通の令嬢は直接行かないのだとアイダが教えてくれる。
そうなんだ、残念。
「ではこうしましょう。
お嬢様はメッセージカードに伝えたい事をお書きください。
それを私が厨房、料理やお菓子を作る場所に届けてまいりますから」
なるほど、それなら直接行かなくても伝えられる。
「アイダ、ありがとう」
「どういたしまして」
さっそく部屋に戻って机の中にあるメッセージカードを取り出す。
『妖精さんにお礼をしたいので一口で食べられる様な小さなお菓子が欲しいです』
これでいいのかアイダに見て貰うと大丈夫だと言われたので安心する。
アイダが届けてくれる間に私は本を読む事にした。
本と言ってもばあやがくれたあの図鑑だ。
私はこの図鑑がとても気に入っている。
お花の事や鳥の事、美味しい実のなる木の事が書いてあるのだ。
「本を読んでおいででしたか」
「アイダ、お帰りなさい」
「只今戻りました。料理人達が午後に用意してくれるそうですよ」
「嬉しい、ありがとう」
アイダはニコリと笑って答えてくれる。
「何の本を読んでらしたのですか」
「ばあやに貰った図鑑なの、私が初めて読んだ図鑑でとても大好きな本なのよ」
「初めての…
左様ですか。でしたらその図鑑を持ってお庭を散歩してみますか?
実際に咲いているお花と図鑑を見比べてみてはいかがでしょう」
「それは素敵ね!」
「では帽子を被って準備いたしましょうか」
「はい!」
令嬢は日に焼けないように外へ行く時は帽子を被るか日傘を差すんですって。
日傘と言うのはあれかしら、あの人が差してたゴテゴテしていた傘かしら…
私はあんなの嫌だわ、帽子の方がいいわ。
アイダと一緒に庭へ出る。
庭と言っても幾つもあるそうなので、今日は私の部屋の前にある庭にした。
だってそこには庭師としてモルトじぃが居るから。
「おやお嬢様、お散歩ですかな」
「モルトじぃ!
あのね、モルトじぃ達に貰った図鑑とお庭のお花を比べてみようと思って」
「なるほど、それはようございますな」
「でしょう、アイダがそう教えてくれたのよ」
「なるほどなるほど。その図鑑に載っていない花もありましょう。
また違う日にでも別の図鑑と比べてみるのもよいでしょうなぁ」
「そうね、そうよね!ありがとうモルトじぃ」
庭には色とりどりの花が植えられている。
その1つ1つをアイダと一緒に図鑑と比べて行く。
「あった!この黄色い花はマリーゴールドと言うのですって」
「アイダ見て見て!こっちはコスモスと言うのですって。可愛い花ね」
「これはなにかしら、まぁ!ポンポンダリアと言うのですって。面白い名前ね」
やはり本の中の絵で見るのと実際に花を見るのとでは違うし、花からはいい匂いもする。
私は思わずはしゃいでしまった。
「お嬢様、そろそろ少し休憩いたしましょう」
「あ、そうね。つい夢中になっちゃった」
「お嬢様が楽しそうでようございました」
「うふふ」
私達は庭にあるガーデンチェアに座って休憩する事にした。
すると何処からかメイドがお茶を持って来てくれて驚いた。
何故私達が休憩するのが判ったのだろう。
やっぱり魔法使い…
「違いますよ、メイドにこの時間にお茶を持って来るよう伝えてありましたからね」
なるほど。
と言うかアイダは何故私が思っていた事が判るのだろう。
まさかアイダもまほ…
「違いますから。お嬢様の顔に書いてありますよ」
「え?…」
顔に書いてあるというのは物の例えで、本当に顔に文字が書いてあるのではなくて表情で解ると言う事なのだそうだ。
そうか、そんなに私はわかりやすい顔だったのか。
気をつけないと。
読んで下さりありがとうございます。




