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13:大魔法使いのケーキ

あの後兄が拗ねてしまった。


「私だってまだしてもらった事が無いのに…」


これは兄にもした方がいいのだろうか。

そう悩んでいたのだけど祖父が私の部屋に案内すると言ってくれたので、あのまま兄は置き去りになってしまった。

どうしよう、いいのだろうか。


「寝る前の挨拶の時にしてあげるとよろしいですよ」


とばあやがコッソリ教えてくれた。

おはよう、おやすみ、いってらっしゃい、おかえりなどの挨拶の時もちゅってしていいんだって。

そうか、挨拶でもいいんだ。

あの両親… いや両親でもないや。

あの人達はそういう事をしていなかったから知らなかったよ。

じゃあばあやにもしていいのかと聞いたらちょっと困った顔になっていたけど、お部屋に誰も居ないときならばと言って貰えた。

そうか、貴族だと使用人にそういう事はしないのね。

うーん、貴族って面倒臭い気がする…


「さあ、ここがファレグの部屋だよ。

 開けてごらん、気に入ってくれるとよいのだが」


祖父に言われて扉を開けてみる。

中に入ってみると…

うわぁ、可愛い。

淡い薄黄色(のちにクリーム色と知った)の壁に薄緑色(のちにミントグリーンと知った)の絨毯。

カーテンは壁より少し濃い色だった。

机・椅子はこげ茶色で、ソファは薄茶色。

あれ?ベッドがない。

このソファがベッドになるのだろうか。

ソファが大きいから私なら横になって眠れそうだ。

じっと見つめていたからだろうか、ばあやが教えてくれる。


「お嬢様、寝室はお隣にございますよ。

 そこにベッドもちゃんとありますからご安心くださいませね?」


なるほど、寝室は別にあるんだ…

あの家では別れてなかった気がする。

ほとんどをベッドの上で過ごして居たから気にもしていなかったのだけど。


あれ?

あの壁に掛かってる絵は誰だろう。

私はよく見ようと思って壁に近づいてみる。

綺麗な女の人とお兄さまに居た男の人が優しそうな笑顔を浮かべている。


「ああ、それは私の息子夫婦。ファレグ達の両親だよ」

「お父さまとお母さまなのですか。

 綺麗で優しそうで、絵本の中に出て来る王子様とお姫様みたい」

「そうか、王子様とお姫様みたいか。

 きっとそう言われて2人は喜んでいるだろうね」

「喜んでくれているでしょうか…」

「勿論だとも」


そう言ってお祖父さまは頭を撫でてくれた。


「お祖父さまとお父さまも似ていたの?」

「ああ、私が若い頃は兄弟みたいだと言われた事もあったくらいだよ」


そう言って祖父は違う部屋に連れて行ってくれた。


「ほらごらん。

 これが私の若い時だ」


見せて貰ったのはちょっと年を取った… お父さま?

私は何度も目を行ったり来たりさせて絵の中の祖父と目の前のお祖父さまを比べた。


「どうだい?」

「絵の中のお祖父さまも恰好良いけど、今のお祖父さまの方が恰好良くて好き!」

「そうかいそうかい。 お父さまとはどうだい、似ているだろう?」

「うん、優しい目とか格好良い眉とかそっくり!」


そう言うと祖父はニコニコと笑っていた。

そこへ兄もやって来た。


「ここに居たのですか、探しましたよ」


そう言って中に入って来た兄は何かを見つけたようで立ち止まった。


「これは…」


お兄さまが立ち止まった場所へ行ってみると、そこには両親と小さな男の子。

それにお母さまの腕に抱かれた小さな赤ん坊が描かれた絵があった。


「ファレグが生まれた記念に描いた物だよ」


もっとも家族4人が揃った絵はそれだけになってしまったが、と祖父は小さく呟いた。

そうか。この絵が描かれた後に私達は攫われてしまって、両親も亡くなってしまって…

そう言えば、あの家では家族揃っての絵なんて無かったなと思った。

今となっては無くて良かったのだけど。


「1枚でもあるのは嬉しい事です。

 だって家族が生きていても1枚の絵すら無い家だってあるんですから」

「確かにそうだな」

「まああの人達との絵など欲しいとも思いませんけどね」


ふんっと兄が笑う。

私もうんうんと頷いて笑う。

祖父やアイダ、ばあやも笑う。


「さあさあ、旦那様も若様もお嬢様も少し休憩されてはいかがですか。

 料理長が腕を振るったお菓子を振舞いたいそうですよ」


侍女長の… えっと…タリス・カーさんが声を掛けてくれたので私達は部屋を移動して休憩を取る事にした。



「わぁ…」


私は目の前にあるお菓子に声が出てしまった。

こんな声をだすのは本当なら駄目なのだろうけど。

だって絵本の中で見たケーキと言われる物が目の前にあるんだもの。

色々な果物が乗せられていて、白いクリームが飾られていて。


「さぁ召し上がれ」


祖父にそう言われたけど、本当に食べてもいいのだろうか。


「えっと、お祖父さまの分とお兄さまの分と私の分とで3つに切って貰える?」

「ん? それはファレグの分だよ?

 私達の分はほら、ちゃんとあるからね?」

「えぇ… 私1人の分なのですか。多すぎませんか。

 食べきれるかしら…」

「普通の物よりも小さ目にしてあるはずなのだがね」

「えぇ…」

「残ったら私が食べてあげるから、ファレグが食べれるだけ食べて見てごらん」


本当にいいのかしら…

もしかして!これが貴族の贅沢というものなのかしら。

確か習ったマナーでは絵本の様に手で食べては駄目なのよね。

このフォークとナイフでだったわよね…

うぅ、緊張する。

震える手でなんとか小さく切って口に運んでみる。

ふわっ。

時々兄がこっそりくれたクッキーとは全く違って、溶けていく。

これ、歯が要らないのでは?


「お兄さまお兄さま!すごいです!

 魔法の様にふわっと溶けてしまいました。

 すごい… これを作った人って大魔法使いなのでは?」


ぐふっと変な声が聞こえた後兄の肩が震えている。

祖父は手で顔を覆ったまま肩が震えている。

他の使用人達も後ろを向いたり顔を背けたりしながら肩が震えている。

あれ?…

私何か変な事を言ってしまったのだろうか。


「ファレグ、このケーキを作ってくれたのは料理長だよ。

 料理長は大魔法使いではないけど

 ファレグの為に特別な魔法を掛けてくれたのかもしれないね」


そうか、大魔法使いじゃなくて料理長なのか。

特別な魔法を… 私の為に?…

後でお礼を言わないと。

そして折角作ってくれたのだから残さないように食べないと!


絵本の中の女の子はケーキを食べて「美味しいね、幸せだね」って言ってたけど

今ならその気持ちが良くわかる。

あの家では解らなかったけど凄く美味しくて凄く幸せ。


「ふふっ、うふふっ。

 お兄さま、お祖父さま。美味しいって幸せな事なのね。

 私今すごく幸せだわ」

「ああそうだね。私もこうやってファレグと一緒に食べる事が出来て幸せだ」

「んむんむ、そうだな。こうやって3人で食べる事が出来るのは幸せな事だな」


ニコニコしながら食べていたらいつの間にかケーキは無くなっていた。

食べきれないと思ったのに食べれてしまった。

だから私は料理長はやっぱり大魔法使いなのではないかと思ったのだった。

読んで下さりありがとうございます。

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