12:新しい家での驚き
ここからは短編には無かったファレグの話となります。
ほんわかと過ごすファレグの成長をお楽しみいただければと思います。
今後私達はこの皇宮の敷地内にある離宮で教授、祖父と暮らす事になるそうだ。
覚えなくてはいけない事柄は多いだろうし苦労もあるだろう。
それでも私は新しい家族を手に入れ、優しい祖父や兄と共に暮らす事が出来る。
なんて幸せな事だろう。
あの時兄が迎えに来てくれてよかった。
生きていてよかった。
私の為に兄に手紙を出してくれた執事やメイド長。
それにあの小さな別荘でお世話をしてくれた老夫婦。
解毒をしてくれたお爺さまや精霊さんにも感謝しなくては。
心からそう思えた。
「お兄さま、私をあの場所から連れ出して下さりありがとうございます。
お兄さまのお陰で私は今凄く幸せです」
「ファレグ、私も幸せだよ。
可愛い妹と一緒に居られるのだから。
亡き両親の分まで君を幸せにできるよう頑張るよ。
だからまずは元気にならないとだね」
「はい、お兄さま。
私もお兄さまが幸せになれるように頑張りますね」
「おや、私は仲間外れかい?」
「「 お祖父さま! 」」
「勿論お祖父さまも一緒です」
「ええ、3人で幸せになりましょう」
知恵熱が下がった後、戸籍取得手続きの際に書類に流した魔力で私と祖父の血縁関係も改めて証明された。
勿論兄とも血の繋がりはちゃんとあった。
よかった、これでやっぱり兄とは血の繋がりがありませんでしたなどとなったら私は立ち直れなかったかもしれない。
「さあ、これですべての手続きも終わった事だし我が家へ帰ろうか」
「はい、お祖父さま。お兄さま」
祖父と兄の3人で手を繋ぎ本宮殿を後にする。
これが私の新しい人生の第一歩となる。
あの国で過ごしていた時は第二王子に毒を盛られ、理解出来ないような言動を取る大人に翻弄され生きる事を諦めていた。
でも今は違う。
2人の為にも、自分の為にも生きる事を諦めずに幸せになりたいと思う。
祖父と兄の3人で今度は馬車に揺られて移動し、新しい住まいである離宮に辿り着いた。
白い壁や柱に薄緑の屋根。柱には何かの植物が絡まっていて綺麗だった。
あの植物はなんだろう、後で聞いてみよう。
入り口には数人の使用人が並んで出迎えてくれていた。
その使用人の中に見知った顔の人がいた。
あれは…
執事にメイド長?
それにあの老夫婦も居る!
どうして? どうやってここに来れたの?
兄に聞く前に私の体は勝手に走り出していた。
目の前までたどり着くと、話しかけたいのに息が上がって声が出ない。
「まぁお嬢様、走れるようになったのですね」
「お顔の色も随分と良くなって…」
「ええ、ええ。本当にお元気になられて」
「本当に良うございました」
皆の目が潤んでいる。
それほどまでに心配をかけていたのだと思うと私も泣きそうになる。
ここでなら、ありがとうって言ってもいいよね?
抱き着いてもいいよね?
怒られないよね?
皆の仕事も無くなったりしないよね?
「あのね、あのね。
私、皆に言いたい事があるの。
お兄さまに手紙をかいてくれてありがとう。
お誕生日にクマのお人形をありがとう。
私がこうやって生きているのは皆のお陰なの。
私を心配してくれてありがとう。
私を助けてくれてありがとう。
今までずっと言えなくてごめんなさい」
そう言って私は1人1人順番に抱き着いた。
皆ぎゅっと抱きしめ返してくれたから私は嬉しかった。
でも周りからすすり泣く声が聞こえて慌ててしまった。
もしかして駄目だった?
それとも走って来た時に誰かの足を踏んでしまったのだろうか。
私はオロオロとしてしまった。
すると祖父が抱きかかえてくれた。
「ファレグ、急に走り出すとこけるかもしれないからね。
元気になったとは言え、まだだま手足は細いのだから気をつけないとね?」
あ、そうだった。
貴族の女の人は走ったら駄目なんだって習った気がする。
それにまだ私の手足は細いからこけたら骨が折れてしまうかもしれない。
気をつけないと…
「お祖父さま、ごめんなさい」
「次からは気を付けておくれ」
「はい」
「お祖父様、取り敢えず中に入りませんか。
皆困っております」
「おお、そうだったな」
兄に言われて、中に入った。
中に入れば更に多くの使用人が並んでいて、私はどうしたらいいのか解らなくて祖父にしがみ付いた。
「皆此処に勤めている、働いてくれている使用人達だよ。
信頼できる優しい者ばかりだ。
さぁ、皆にその愛らしい顔を見せてあげてくれないか?」
祖父にそう言われて皆の方を見て見れば、優しい笑顔が溢れていた。
あの家の使用人達とは違う、そう思ったら急に恥ずかしくなってしまった。
祖父にお願いして降ろしてもらう。
「ファレグ・フォア・ローゼンハイムです。
宜しくお願いします」
スカートの端を摘まんで浅めのカテーシーを取る。
「このように我が孫は誰に対しても礼を取る。
この離宮内では皆も気にせずに答えてやって欲しい」
使用人達は頭を下げて礼を返してくれた。
ここへ来る前に兄から少し教えて貰ったのだが、貴族は使用人に対して礼を取らないものらしい。
また、お願いでは無く命令となるのだそうだ。
でも私はそれがあの元両親と重なって見えて嫌だった。
使用人だって人なのだし、私達の為に働いてくれているのだからお礼を言ったりお願いしたりでもいいのではないかと思うのだ。
それを聞いた祖父は離宮内だけなら良いと言ってくれたので嬉しかった。
ただ離宮以外では気をつけようと思う。
そこからは使用人達の紹介を受けた。
皆名乗ってくれるのだけど、似た名前が多いし長い人も居て覚えきれそうにない。
少しずつ覚えればいいのだと皆言ってくれた。
あの執事は、ここでも執事で兄の専属になるのだそうだ。
名前はジャック・ダニエルブラックス。
ジャックと覚えておこうと思う。長いから…
あのメイド長は侍女となり私の専属になってくれるのだそうな。
名前はアイダ・ブルユハーパー。
やっぱり長いからアイダと覚えておこう。
老婦人は私のばあやになってくれるという。
名前はカナディ・アンクラブ。
普段はばあやと呼ぶことになるみたいだけど名前はカナディと覚えておこう。
ばあやの御主人は元々庭師だったようで、私の部屋の前を担当してくれるらしい。
名前はモルト・アンクラブ。
モルトじぃと呼んでいいそうだ。覚えやすいしありがたい。
この4人は祖父が呼び寄せて私達が馴染めるように、そして安心出来るようにしてくれたのだとか。
老夫婦はともかくとして、ジャックとアイダはよくあの屋敷を出る事が出来たなと思う。
兄に聞いたらそこは祖父だからねとしか答えてくれず、これは聞かない方がいいのかもしれないと思った。
そうだね、それよりも今ここに4人が居てくれる事の方が大事だし。
それに祖父は特別な魔法使いなんだもの。うふふ
「お祖父さま、皆を此処に連れて来てくれてありがとう!」
私は嬉しくて嬉しくて、祖父の頬に…
届かない…
「あのね、お祖父さま。ちょっとしゃがんで貰ってもよい?」
「ん? ああいいとも。どれ、これでいいかい?」
私は大きく頷いて祖父の頬にチュッと口を付けた。
絵本だと嬉しい時やありがとうの時こうやってたから間違ってないはず。
祖父はちょっと驚いた後嬉しそうに笑ってくれた。
えへへ…
読んで下さりありがとうございます。
コメディ路線にするつもりはないのですが、なにせファレグの知識が読んだ事のある絵本で得たものになってしまうので時々言動が斜め上だったりします(;´Д`)
クスッと温かい目で見守っていただければと思います。




