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10:目まぐるしい変化

一頻り笑った後、ソファに腰を掛けお茶を頂きながらお兄さまの話を聞く。

その内容は驚きの連続で…


兄は通っていた学院で皇太子殿下と級友だったらしく、卒業後は殿下の側近として仕える事が決まっていると言う。

また移住手続きも殿下から話を聞いた皇帝陛下が手っ取り早く養子縁組をしてしまえと言い出したらしく、恐れ多くも先帝の弟君である公爵家の養子となる事が決まったそうで…


この状況に付いて行けず私の頭はパンパンになっていた。

なのに兄はそれだけではないと言う。

まだ何かあるの?…


各種手続きの際に書類へ魔力を流すのだそうなのだけど、その魔力が公爵様、義父となる方と酷似していたそうで…

詳しく調べた結果兄は公爵家の血筋、ようするに現公爵様の孫だと解ったらしい。


私は理解出来ずにいる。

隣国で生まれ育った兄と私。

その兄が帝国の公爵様の孫?

だとすると私と兄は… 血の繋がりが無かったの?

嘘…

私は兄と離れ離れになってしまうの?

やっと会えたのにまた離れ離れになるのは嫌だ。

私は俯いて涙ぐんでしまった。


「お嬢さん、どうしたのかね?

 何か心配事があるのかね?」


そんな私の様子に気が付いた教授が声を掛けてくれた。


「だっ…て。お兄さまが公爵様の孫になってしまったら

 また離れ離れに… そんなの… 嫌だ。 うぅっ…」

「おやおや、そんな事を心配していたのかい。

 大丈夫だよ、離れる事は無いとこの爺が約束しよう。

 それにしても…」

「泣かないでおくれファレグ。

 兄さまが悪かった。言葉が足りなかったね。

 兄さまとファレグは間違いなく血の繋がった兄弟だから。ね?」


ここでまた兄の話で衝撃を受ける事になる。


兄もうろ覚えではあるけど、兄と私は誰かに教会前に置き去りにされたらしい。

その後は教会で保護されていたのだけど、たまたま通りかかった領主、あの両親の目に留まり引き取られたのだとか。

どうりであの両親と似ていなかった訳だと納得する自分が居た。

それと同時にあの両親と血の繋がりがなくて良かったと安心する自分も居た。


なるほど、教会から引き取ったのであれば愛情など持てなくても仕方がないのかも…

いや、養子縁組でも愛情いっぱいの家族はいるわよね?

やはりあの両親がおかしいだけなのでは?…

本当に? 王妃や第二王子もおかしかったわよね?…

あれ? もしかして私がおかしいの?

あの人達が普通なの?…

でも執事やメイド長、老夫婦は優しい人達だったし…

あれ? わかんなくなってきた…


「ファレグ、混乱する気持ちは解るけど落ち着いて。

 さっきから表情が面白い事になっているよ?」

「え?…」


どうやら私は眉間に皺を寄せて頷いたり、パッと明るい表情になったかと思えばまた眉間に皺を寄せたりと顔の表情が忙しい事になっていたようだ。


「ファレグも一応は血と魔力の検査をする事になるけど

 間違いなく公爵家の孫だし私とは兄弟だよ。

 あの元両親やあの国が余計な口出し出来ない状況を作る事が先決だから

 ファレグの検査を急ぐ事になってしまうのだけど。

 ファレグはこの紙に魔力を流す事が出来るかな?」


どうだろう。

あの国では魔法を使う人は居なかったし、私自身魔法が使えるなんて思ってもみなかったし。


「流せると思うぞ。

 魔力量は十分持って居るようだし、体力も随分と回復してきておる。

 コツを掴めば大丈夫だろう」


教授にそう言われ、教えてもらいながら自分の中にある魔力の流れ?をイメージしていく。

トクントクンと流れる血液みたいな感じでいいのだろうか。

指先に集中してごらんと言われて指先に意識を向ける。

指先に集中、うーんと小さく唸り声が出てしまった。

だんだんと指先が暖かくなってきた、こんな感じかしら。

そう思ったとたんにバチンと音がして何かが弾かれた。


「ぷはぁ…」

「ふぅむ、これは先に解毒と解呪を終わらせねばならぬか。

 どうやら巫蠱(ふこ)が邪魔をしておるようだ。巫蠱は毒でもあり呪いでもあるからね」

「そのようですね。

 それにしてもファレグ。

 魔力に集中するのはいいけど息をする事も忘れないでね?」

「え?…」

「顔が真っ赤になっているよ」


兄に言われて慌てて深呼吸をする。

あれ? 今深呼吸しても関係ないのでは?…

チラリと兄を見れば、肩が震えていた。

私は恥ずかしくなって教授の後ろに隠れてしまった。


「大丈夫じゃ。

 初めは皆あんなものだよ。

 すました顔をしておるが誰かさんも初めての時は息が止まっておったぞ」

「そうなの? よかった。えへへ…」

「ん”ん”っ、教授。

 その話は置いておいてください。

 先に妹の解毒解呪をお願いしますよ…」

「おお、そうじゃったな」


そうだった。

巫蠱、なんともやっかいではた迷惑な物だと思った。

私の体力も随分と回復しているのから大丈夫だろうと、今解毒してしまおうと言う流れになった。

今日だけで物事が目まぐるしく変化していく。


結果だけで言うならば解毒は一瞬で終わった。

教授が何やら不思議な言葉を紡ぐと精霊が現れて

その精霊が私に触れ微笑み光に包まれたら終わり。

一瞬過ぎて本当にこれで終わりなのかと思ってしまった。

でも喉の違和感も手足の軽い麻痺もかすれた声も、すべてが無くなっていた。

それどころか心の中までもがスゥーと軽くなったような気持ちにさえなる。

大声で叫びたかったけどさすがにそれはぐっと我慢した。

嬉しくて手足をバタバタと動かしてみる。


「お兄さま!見て、ちゃんと力が入るの!

 ほら、声も戻ったわ」

「ああ、そうだな。

 教授、ありがとうございます。

 よかったなファレグ」

「はい! 精霊さん、教授。ありがとうございます!」


うふふ、久々に聞いた元通りの私の声。

こんな声だったのだと本当に嬉しくなってしまう。

気が付けば精霊さんは消えていた。

またいつか会えるかしら。

初めてだったからもっとよく見ておけばよかったかしら。


「あ、お兄さま!教授!大変です!

 私精霊さんと初めて会えたのにご挨拶を忘れてしまいました…」

「 … 」

「お嬢さんや、精霊にはまた会う機会もあるだろうから大丈夫だよ」

「そ、そうかな。また会えるといいなぁ」

「ファレグ、折角解毒もしていただいたのだから魔力を流してみてごらん」

「はい」


体の中の流れが指先に集まるイメージをして…

今度は弾かれる事無く、ぽわんと小さく光った。


「お兄さま!今のが魔力ですか?」

「ああ、そうだよ。上手に出来たね」

「わぁ。教授!教授!私出来たみたいです!ありがとう」


嬉しくて教授に抱き着いてしまった。

教授は優しく微笑んで頭を撫でてくれた。

なんだかとても嬉しい。

読んで下さりありがとうございます。

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