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友人A  作者: HRK
二〇一三年
8/12

8.




 ---二〇一三年三月三日日曜日のこと。


 『2days開催のドーム公演二日目をドタキャン。RAIT、損害賠償全額負担で関係断絶。契約金持ち逃げか』

 テレビのニュースでほんの一瞬見えた文言が気になり、パソコンで検索した。

 見出しでレビュー数を稼ぐ悪質な記事だと思った。トップ画像こそRAITだったものの、記事を開くと⬛︎⬛︎の写真がいくつも使われていた。もちろん、無断で。

 その時期、ちょうどスマホが壊れて修理に出していたから、自宅のパソコンで記事を読んだのだと今になって思い出す。


 【ドーム公演当日の今日、⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎は姿を表さなかったという。関係者各位に連絡を試みるも、誰一人として応答はなかった。二十四日に行われたday1にて二日分の契約金を支払った後から連絡が取れなくなったとRAITの関係者は話す。やむを得ず中止発表をしたRAITの元には何千件もの誹謗中傷が現在も届いていると話すのは前述の関係者だ。契約金は一千万を超えるとの噂もあるが、真相は明かされていない。一般人の起用によるリスクを考えれば、金銭の取引にもう少し注意するべきだったと周囲は呆れていることだろう。チケット料金の返金や各方面への謝罪対応に追われることとなったRAITと⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎の関係はもはや修復不可能。交友関係にある大地さえ擁護できない失態となった】


 フォークで上品に羊羹を食べる大志が教えてくれた内容は、俺の記憶を呼び覚ますのに十分だった。

 しかし、何故⬛︎⬛︎がドタキャンしたのかを俺は知らない。一緒に住んでいたはずなのに、その場に⬛︎⬛︎はいなかった。だから、ドームにはいたけれどトラブルがあって、理由を伏せた状態で中止の判断をしたのかと、そのとき思ったことまで思い出すことができた。RAITが矢面に立って守ってくれたのだと勝手に思っていた。

 だが、どうだろう。⬛︎⬛︎は確かに、二千万を返すと言った。ドブに捨てたとも言った。

 あいつに限って、持ち逃げして、捨てたのか?捨てるって、物理的に?どうやって?まさか現金では受け取らないだろう。仮に小切手で渡されて、誤って処分してしまった、とか。でもそれなら、正式な手続きをすれば捨てたことにはならないはず。

 何か他の決定的なことを忘れている気がする。


 「腑に落ちてないって感じっすね。でも俺が知ってるのはここまでっす。役に立てなくてすみません。これ、持って帰って食べてください。めっちゃ美味いんで」

 考え込んでいた間に羊羹と饅頭をタッパーに詰めてくれたらしい。丁寧に二個ずつ、⬛︎⬛︎の分だろう。

 大志は役に立っていないと言ったけれど、俺が記憶を無くした原因について、もっと他に理由があるのかもしれないと知れただけでも大きな進歩だ。

 大志に礼を言って家の階段を降りると店先に⬛︎⬛︎が立っていた。

 「なんで?」

 「大志から連絡もらった。頭痛は?」

 「今んとこ、大丈夫」

 「よかった」

 お互いこれ以上は語らずに家路についた。

 やはり大志は、侮れない。俺の体調を気遣う言葉をかけてくれただけでなく、何かあった時のために⬛︎⬛︎を呼んでくれていた。

 できすぎた高校生だ。


 二〇一四年四月十日水曜日。

 「らっしゃっせー」

 気の抜けた掛け声と、阿修羅のようにたくさんの手を生やした (ようにみえる)大志のギャップに安心感を持つようになっていた。

 どんな時もブレない芯を持っているらしい。元ヤンでオネェのチンピラ龍人がまじまじと顔を覗き込んでも顔色ひとつ変えない。

 「新しいお友達っすか」

 「こいつは龍人。チンピラだから気を付けろよ」

 「そすか。なんでもいいすけど、早くしないと終わるっすよ」

 今月から始まった毎月十日限定のタイムセール。あらゆる商品がランダムでお買い得価格になるらしい。

 店主 (大志の父)がゲーム感覚で半額や値引きのシールを貼り付けるらしく、店主の気分次第なので時間もコーナーもまばらである。

 こういう個人店らしいサービスで商売を安定させているのだから、生粋の商売人なんだと思う。

 早速調味料コーナーで見つけたオリーブオイルに貼られたシールの様子がおかしい。

 「ガチか?」

 「あいつの親父さん、とち狂ってんな」

 【好きな商品と合わせて無料にしちゃう】と書かれたシールが貼られている。いや、これは誰かの悪戯かもしれない。無闇に信じることなかれ。

 一応、カゴの中に確保しつつ、他も回る。

 他にもとち狂ったシールを見つけては疑心暗鬼になっていた。


 【五パーセントオフじゃ拍子抜けでしょ。特技披露で三十パーセントオフ】

 【ただの半額。消費期限近いもんで】

 【お米はごめんね、定価】

 【ティッシュ先着五名、タダ】

 

 なんだ、店主がとち狂っていただけのようだ。

 目当ての商品をカゴに入れてレジへ進むと、さっきまで貼っていなかったであろうシールが意外な場所に貼られていた。

 【こいつを笑わせたら総額五十パーセントオフ】

 大志のエプロン前面に黄色の巨大シール。親子共々頭がおかしいのかもしれない。

 文字の横に小さく【※敗北者にはペナルティがあります】とある。なんだ、ペナルティって。

 「こんなんやってたら破産するぞ」

 「そのためのこれっす」

 エプロンを指差してつっけんどんに言い放つ。

 「ペナルティってどんなん」

 「挑戦して負けた人はシール無効っす。全部定価になるっす」

 「うわー。アンチ湧くぞ」

 「挑戦しなきゃいいんすよ。ちゃんと前もってルール説明はするんで、やるやらないはそちらの判断に任せるっす」

 「まぁ、やらんこともない」


 見事に敗北して普通に買い物をしただけになってしまったが、本来支払うべき金額を支払っただけである。それなのに、損をした気分になるのだから、ギャンブラーの素質がある者は何度でも通ってしまうのだろう。

 「あいつ…広太よりも賢そうだったな」

 「龍人までそんなこと言うのか。でもあいつの部屋、漫画ばっかだったから勉強はしてないと思うぞ。ずっと店にいるし」

 「勉強しなくていいタイプかも」

 龍人との何気ない会話で少しばかり気になったので、後日、志望大学なんかを聞いてみたりしようかとちょっとだけ思ったような、思わなかったような。

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