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友人A  作者: HRK
二〇一三年
6/12

6.



 二〇一四年三月二日日曜日。本日の空模様は雨。


 人生の中で一番輝いていたのは紛れもなく二〇一四年だった。

 バンド名の由来である『自由』を象徴した年。大学をサボって飲んだくれたり、二〇歳を迎えて居酒屋デビューしてみたり、大人だなんだと息巻いて大きな買い物をした。

 Pegasusの全員と初めての旅行にも行き、何者にでもなれる気がした。

 毎日家には誰かしらいて、何にも縛られず各々が好き勝手に生きていた。

 好きな時にライブをして、好きな時に寝て、好きな時に好きなものを食べる。自堕落な生活が楽しかった。

 優は大学を辞めて受験勉強を始めると言い出したり、色々な意味でめちゃくちゃだった。良い意味でも、悪い意味でも。

 楽しさのおかげか、⬛︎⬛︎の体調不良も少なくなっていて…油断していた。

 夏休み期間に免許を取ろうと言い出したのは村尾だった。四人で合宿を申し込んで、最短で取得。無一文の⬛︎⬛︎を気遣って、優の父親が奮発して全員分の費用を出してくれたのだ。


 それを働いて返すと言い出したらもう止まらない。頑固な⬛︎⬛︎はコンビニバイトを始めた。一日十三時間ほぼ休憩無しの超ブラックな環境で。

 「なんでそんなとこで契約するんだよ。もっと他にいいところあるだろ」

 「こんなクソニートを採用してくれるだけありがたいんだから頑張らないと」

 自己肯定感の低さと狂った感覚で二ヶ月働いた。月末締めの月末払いを信じて働いた。

 「無能すぎてクビらしい」

 「給料は?」

 「研修期間は無給だって契約書に書いてたんだって」

 「そんなわけないだろ。契約書見せろよ」

 「あー、返しちゃったな」

 「返した?なんだよそれ」

 「とりあえず眠いから今日は寝ていい?明日からまたバイト探す」

 あっけらかんとしている⬛︎⬛︎に腹が立った。

 「働いてもいいけど、今度からは俺の親の紹介にしろよ。ブラックすぎて話にならない」

 「また迷惑かけるの嫌だから自力で探すよ」

 「自力で探した結果がこんなんなのに、はいどうぞなんて言えるわけないだろ」

 「話の続きは明日」

 「労働基準法って知ってるか?研修期間でも賃金の未払いは犯罪。一日八時間、週四十時間以上は基本的に違法。労働を搾取されて、はいそうですかって頭おかしいんじゃねーの」

 「騙された俺が悪いんだよ。ちゃんと契約書読んでないし」

 「そんな内容の契約書があるわけない。返せってのもおかしい。騙されたのが悪いんじゃなくて、騙した奴が悪い!」

 「頭に響くから大きい声出さないで」

 「なんでお前はそう、いつもいつも、諦めるんだ!!」

 大声で怒鳴ってしまって後悔したのも束の間、脳内に『キーン』という音が響いた。

 「支払う気のない相手に執着する暇があるなら次のとこで働くよ」

 「だから、次は俺の親に…」

 ガンガンと響く頭痛に目の裏がチカチカする。

 「あんな大金をドブに捨てたツケが回ってきてると思えば納得でしょ」

 あんな大金…?

 「普通じゃ稼げない額をさ、信用して支払ってくれた人を裏切ったんだから」

 なんのことを話しているか分からなかった。とにかく頭が痛くてそれどころではない。

 脳裏にチラつく『契約金持ち逃げ』のニュース映像。いや、違う、⬛︎⬛︎はそんなことしない。人に金をくれなんて絶対に言わない。違うはずなのに、またしても俺は何も思い出せない。

 「頭痛いの。今日はもう寝たら。無理に思い出そうとすると人格壊れるって先生も言ってたし」

 尋常ではない痛みに、さすがの⬛︎⬛︎も気を遣ってくれた。市販の痛み止めと水を置いて自室に消える後ろ姿を最後に意識が途切れた。


 二〇一四年三月六日木曜日。本日の空模様はゲリラ豪雨。

 今日まであの人に連絡しなかったのは、⬛︎⬛︎のためだった。再び関わりを持つと⬛︎⬛︎の精神状態に影響があると思ったからだ。それに、契約金を持ち逃げしたのが本当なら、あのニュース記事が本当なら、RAITと⬛︎⬛︎の関係性は最悪のはず。こちらから連絡してもすでに拒否されているかもしれない。

 けれど、知りたい気持ちが強まり、頭痛を抑えておよそ一年ぶりに電話をかけた。

 『はい』

 しばらくコール音が聞こえて、諦めようとした時、やっと繋がった。

 『広太くん、久しぶりだね』

 大人な対応をしてくれているのか、RAITから嫌悪感は感じられない。

 『どうかした?』

 久しぶりに聞く有名人の声に様々な記憶が巡る。確か、あの頃も楽しかったはずだ。

 「急な連絡で不躾にすみません。聞きたいことがあって」

 『内容によっては答えられないけど、どうぞ』

 「一年前のあのニュース、真相を調べても何も出て来ないんです。俺が知らないわけないと思うんですけど、教えてもらえませんか」

 数秒の沈黙がとても長く感じられた。

 『ごめんね、答えられない』

 「どうしてですか?」

 『⬛︎⬛︎との約束だから。これ以上はごめん』

 通話を一方的に終了させられ、虚無感だけが残った。今度こそ、着信拒否されたかもしれない。

 今も痛むこめかみを抑えて水でも飲もうかと部屋を出ると、⬛︎⬛︎の部屋から何やら音が聞こえた。まだ朝の九時前。いつもなら寝ている時間だ。

 ドアを三回ノックしてから声を掛けた。

 「起きてる?入っていい?」

 返事より先にドアが開いた。

 「珍しいね、この時間まで寝てるなんて。まだ頭痛いの?」

 やけにすっきりした顔つきで話す。

 「なんか音が聞こえてたけど何してたの?いつもならまだ寝てるよね」

 痛みが警告しているみたいに増していく。

 「なんでもないよ。ちょっと片付けてただけ」

 ずりずりと何かを削るような音がしていた。なんでもないわけないのに、頭が痛くて話すのさえままならない。

 俺は態度も気持ちも言葉も身体も、メンタルだって、なんでも強いはずなのに、最近の自分が変でおかしい。俺が忘れた記憶はなんだ?なんで忘れた?RAITとこいつは、俺の何を知ってる?

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