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友人A  作者: HRK
二〇一三年
11/12

11.





二〇一四年五月二十八日水曜日。本日の空模様は曇り。



 一限から六限までみっちり授業を詰め込んだことを密かに後悔しつつ、たくさんの知識を詰め込んだ満足感に一人、口角が上がりそうになる。

 帰りの電車を待つ間、家で待つ⬛︎⬛︎にメールを送る。夕飯が遅れることへの詫びとご機嫌取り。何が食べたいかを聞いてみるが、しばらく経っても既読が付かない。きっと寝ているのだろうと軽い気持ちでいた。

 スーパーみねおかに滑り込みで入店し、必要最低限の食材を購入。酒があれば簡単に機嫌を取れるだろうと玄関の扉を開けた。

 やけにしんとした心地で違和感を覚えた。

 ⬛︎⬛︎のバイトはとっくに終わっているはず。夜はライブ配信をするからシフトを入れていないと、今朝話したばかりだった。どこかに出かけるにしても、心配性の俺に何の連絡もなしに行くとは考えづらい。何故なら、いつもいつも口うるさく言ううちに報連相が身に付いたから。

 どうかしたのかと逸る気持ちを落ち着かせながら電話をかけたが繋がらない。

 念のため優や龍人に聞いてみたが、どちらも知らないと言う。仕方なくバイト先に連絡してみるけれど、きっかり十四時に上がったとの回答を得て終わった。


 ⬛︎⬛︎が行きそうな場所が思い当たらない。いつも引きこもって寝てるか酒飲んでるかの二択なのに、一体どこへ…。

 じっと待ち構えてようやく鍵の開閉音が聞こえた頃には帰宅してから二時間も経っていた。


 「どこ行ってたんだよ!連絡取れなくてびっくりしただろ!」

 「あー…ごめん。ちょっと」

 「ちょっと何!?」

 バツが悪そうにこめかみをかく姿に疑問を抱く。

 「急だったからスマホ、洗面所に忘れて」

 覗くと確かに、スマホが放置されていた。

 「急用?なに?誰かと会ってきたの?」

 「うん」

 我ながら、束縛が激しい彼女のようだと感じる。

 「誰!?」

 「あー…、、、RAIT。と大地」

 「RAIT!?なんで」

 「いや…なんでって、んー、まぁ、ちょっと」

 いつまでもはっきりしない⬛︎⬛︎に苛立つ。

 「なんっにも分かんねーんだけど!?」

 「んー、呼ばれて、怒られて、ごめん、ご飯食べてきた」

 「何に対しての謝罪か知らないけど何を怒られたの」

 「配信?」

 何でクエスチョンなんだよ。お前が始めた物語だろ。

 「もう配信するなって」

 「それは、まぁ、俺も同感。でもなんでRAITなんだよ。お前、だってあれだろ」

 肝心なことは忘れているのではっきりと言えない自分にも腹が立つ。

 「…まぁ、いろいろあって」

 「いろいろって」

 なんなんだよ。⬛︎⬛︎の頑固さに骨が折れる思いだった。きっとまた、俺が忘れてる何かを話してきたのだろう。それを思い出させないために隠し通すのだろうか。深いため息が出る。


 「記憶障害を治す方法?」

 翌日、大学の脳科学に詳しい教授に話を聞きに行った。

 「俺ってここ数ヶ月の一部、記憶ないんですけどね。どうしても思い出したいんです。でも考えれば考えるほど頭が痛くなって何も考えられなくなるんですよ」

 「頭を打ったとかの外傷無しにそうなっているんだとしたら、元々人間に備わっている防衛本能だから、無理に引っ張り出さない方がいいんだけどな」

 「思い出す方法はあるの?ないの?」

 気持ちばかり逸ってつい敬語で話すのを忘れてしまう。

 「確実ではないけど、関連するものを見たり聞いたり、感じることで思い出されることはあると思うが…本人次第なところがあるからね」

 「本人がこんなにも思い出したいと思ってるのに!」

 「防衛本能と本人の意思は違うところにあるから…」

 何度もRAITと⬛︎⬛︎のニュースを見ても、聞いても思い出せない。反応が忘れさせようとする記憶ってなんなんだよ。くっそ、腹立つ。


 家に帰ってから、⬛︎⬛︎に直接問いただした。

 「俺はさ、⬛︎⬛︎がなんでライブをバックれたのか、その理由は知ってるんだよな?知ってて忘れてるんだよな」

 「知ってるよ。むしろRAITや大地より詳しく知ってる。けど、忘れたいと思うくらいショッキングだったんだと思う。俺も……嫌味に聞こえたらごめんなんだけど、できることなら忘れたい。でも、絶対に忘れない」

 「まじで、何を忘れたんだよ」

 「結構たくさんじゃない?一年分くらい、ところどころ記憶なさそう」

 一年…?

 「一緒にバイトしたのとか」

 バイト…?

 「……親が捕まった、とか」

 親……?

 「誰の」

 「俺の」

 まったく、まるっきり、忘れている。知らない、覚えていない。

 「えっ、今⬛︎⬛︎の親は何してんの」

 「今は釈放されて普通に暮らしてる」

 …知らない。

 「広太のお父さんが養子縁組の手続きをしてくれた、とか」

 …知らない。

 「去年の夏は学校の自習室で二人して熱中症になったとか」

 「覚えてない」

 「やっぱり、一年分くらい抜けてると思う」

 そんなわけがあるのか?何をきっかけに、どうしてこんなにも多くのことを忘れたのか?

 「ま、その方が変に気遣われないから気楽だけどね」

 だめだ、目がまわる。思っていたよりも多くのことを忘れて、何一つ思い出せない自分に眩暈がする。

 「気分悪くなってきたんじゃない?無理に思い出さなくて良いから、普段通りにしててよ」

 中身がわからなくても外見そとみが形を現しているのだから、俺ばかりが忘れて良いわけがない。どうしてこんなにもたくさんのことを忘れたのか、記憶のトリガーを引いたのは、それから数ヶ月後のことだった。

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