第8話:青髪ヒロイン、文化祭準備で輝くが、俺の雑用人生が加速する
月曜の朝、教室はいつもより騒がしかった。来週に迫った文化祭の準備で、みんながソワソワしてる。俺は普通の高校二年生、こういうイベントは面倒なだけだ。窓際でボーッとしてると、隣の辛康太がラノベを閉じてニヤニヤしてきた。
「なあ、崚雅。ラノベならさ、文化祭ってラブコメの花形イベントだろ」
康太が眼鏡をクイッと上げる。こいつのラノベ脳、イベント前は特にうるさい。
1時間目のHR、山田先生がニヤニヤしながら黒板に「文化祭実行計画」と書いた。「メイドカフェ!」とか「お化け屋敷!!」とかクラスメイトが騒いでる。
・・・・・・
カお映おゲ
フば画祭|劇
ェけ上りム
屋映
敷
正正一┬ 正
正一
多数決でカフェに決定。楽しみではある。
「よーし、2-Bの出し物はカフェに決定! みんな、役割分担を決めろよ!」
教室がざわつく中、納戸瑠璃が窓際の席でメモ帳を手に何か書いてる。青髪が朝日でキラキラ。いつものミステリアスな雰囲気だけど、今日はなんか楽しそうに見える。
料理チーム、装飾チーム、接客チーム、広報チーム、雑用チームに分けることになったが、俺は静かに手を上げず目立たないようにしてた。こういうの、適当に流したい。康太は「広報なら俺の賢者ポジが輝く」とか言いながら手を上げてる。バカだな。
料理出来るし成績の良い納戸が料理チームにみんなから押されている。すご。
「ん、いいよ。昔、別の学校で料理部だったから、ちょっと手伝えるかも」
康太のいつもの目線は受け流す。
「納戸は料理チーム! 臼木、辛はどれにする?」
委員長が聞いてくる。
俺は「雑用でいい」と小さく言う。康太は「広報だ!」と元気よく。結局、俺は雑用チーム、康太は広報、納戸さんは料理チームに。これでいい。
昼休み、康太と弁当食ってると、納戸さんが料理チームの打ち合わせから戻ってきた。なんか、紙にスケッチしてる。チラッと見えたのは、カフェのメニュー表。ケーキやサンドイッチのイラスト、めっちゃ上手い。
「納戸さん、それ自分で描いた? めっちゃプロっぽいな」
俺が言うと、彼女は照れたように笑った。
「昔、友達とこういうの作ったことあってさ。まあ、たいしたことないよ。臼木君、雑用って何するの?」
「いや、荷物運んだり、ゴミ片付けたり。地味なやつ」
「ふーん、地味、ね。臼木君、意外とそういうの似合いそう」
納戸さんがクスクス笑う。ん?合ってるよ、合ってるけど、酷くね?
「冗談だよ」と笑われホッとする俺はちょろい。
「納戸さん、俺の広報チームはポスター作るぜ。ラノベなら、君の青髪をメインビジュアルにすべきだろ!」
康太が割り込んでくる。納戸さんはニヤッと笑う。
「辛君、ほんとアニメキャラみたいだね。ポスター、期待してるよ、賢者さん」
「任せろ! 俺のシナリオ予測、完璧だ!」
康太が拳握る。ほんと、救いようないな。
放課後、雑用チームの仕事で、体育館にテーブル運びに行った。重いし、汗だく。同じチームには田中彩花、クラスの秀才もいる。メガネずらしながら、ため息ついてる。
「臼木君、雑用って地味すぎるよね。納戸さん、料理チームでケーキ試作してるって。なんか、キラキラしてるよ」
「まあ、納戸さんはああいうの似合うよな。俺は地味でいい」
俺が言うと、田中が「普通って楽でいいよね」と笑う。なんか、共感された。
教室に戻ると、料理チームが試作用のクッキー焼いてた。甘い匂いが廊下まで漂ってる。納戸さんがエプロン姿で、オーブンからクッキー取り出してる。青髪をシュシュでまとめて、なんか絵になる。
「臼木君、試食どう?」
納戸さんがクッキー差し出してくる。バターの香り、めっちゃ美味そう。
「いいの? じゃ、いただく」
一口かじると、サクッと軽い食感。甘さ控えめで、プロレベルだろ、これ。
「納戸さん、これヤバいな。売ったらバカ売れだろ」
「ふーん、ありがと。前に、似たようなの作ったけど…まあ、失敗したんだよね」
「前に」。康太なら「伏線」と騒ぎそう。俺は黙ってクッキー食った。
「失敗って、こんな美味いの? ありえねえよ」
「ん、味じゃないんだ。なんか、いろいろあって」
納戸の笑顔、ちょっと曇った。まあ詮索するのはやめとこう。
納戸のセンスを知ってるクラスメートは装飾まで彼女に頼んでる。働き過ぎじゃね?
快く引き受ける納戸。
彼女がスケッチブックに描き始めたのは、カフェの看板デザイン。花や星のモチーフ、メモ帳の模様にそっくりだ。円形に、鳥や花のマーク。なんだ、あれ。古書店の本やチャームと同じ雰囲気。
「納戸さん、そのデザイン、なんか…独特だな」
俺が言うと、彼女は一瞬、目を細めた。
「昔、友達とこういうの描いてたから。癖みたいなもんだよ。臼木君、装飾手伝う?」
「いや、雑用で手一杯。納戸さん、めっちゃ忙しそうだな」
「ふーん、忙しいのは嫌いじゃないよ。臼木君、雑用頑張ってね」
納戸さんがニヤッと笑う。なんか、楽しそうだけど、目が少し遠い。
次の日、装飾チームの作業を見に行った。納戸さんが描いた看板、教室の壁に貼られてる。花と星の模様、なんか不思議な魅力がある。通りかかったクラスメイトが「これ、めっちゃいいね」とか言って、じっと見てる。康太が広報のポスター貼りながら、耳元で囁いてきた。
「崚雅、見たか。納戸さんのデザイン、なんかヤバいぞ。魔法の効果とかありそう」
康太の目がキラキラ。ほっとけよ。
放課後、雑用でゴミ捨てしてると、納戸さんが校庭のベンチでメモ帳に何か書いてた。青髪が夕陽で赤く染まる。彼女がチラッとこっちを見て、メモ帳を閉じた。
「臼木君、雑用お疲れ。文化祭、楽しみ?」
「まあ、普通に。納戸さんは? 料理に装飾とめっちゃ目立ってるな」
「ん、目立つのは苦手なんだけど…昔、こういうイベントで失敗したことがあってさ。ちょっと、リベンジしたいかな」
「昔」。告白の失敗、料理部の失敗、メモ帳の「4回目、ダメだった」。なんか、重なるな。
「リベンジって、どんな?」
俺が聞くと、納戸さんは笑って誤魔化した。
「ん、別に大したことじゃないよ。ほら、臼木君、ゴミ捨て頑張って」
彼女の得意技だな、これ。納戸さんがベンチから立ち上がり、校舎に戻る。メモ帳を鞄にしまう瞬間、チラッと見えたページに、新しい模様。円形に、月と羽のマーク。なんだ、あれ。
家に帰って、夕飯食いながら、納戸さんのことが頭から離れない。メモ帳の模様、クッキーの失敗、テストの異次元点数、青髪。前の学校の3回、4回目の「ダメだった」。普通じゃない何かがある。文化祭、彼女のリベンジって何だろ
。
雑用人生、こんなので振り回されたら、俺の普通、どこ行くんだよ。