第10話:青髪ヒロイン、文化祭準備で奔走、俺の雑用が止まらない
教室は文化祭準備の喧騒に包まれていた。黒板にはカフェのメニュー案が殴り書きされ、机の上には試作用の材料が散乱してる。俺は雑用係として段ボール箱を運びながら、汗を拭う。隣で辛康太が、ポスター用のマーカー握ってブツブツ言ってる。
「なあ、崚雅。物語の流れだと、準備ってキャラの絆が深まるパートだろ。納戸さんのケーキ、今日もバッチリだな」
康太がニヤッとする。
「お前、また変な視点で語ってんな。ケーキは美味いけど、俺は運ぶだけで手一杯だ」
俺が言うと、康太はマーカー振りながら笑う。
「運ぶだけ? 主人公の親友としては、もっと活躍させろよ!」
「親友って自称すんな。ほら、ポスター描け」
教室の奥では、納戸瑠璃が料理チームと試作用のケーキを焼いてる。青髪をシュシュでまとめて、エプロン姿が妙に様になってる。オーブンから漂うバターの香り、腹が鳴りそうになる。
「臼木君、ちょっとこれ持って!」
クラスメイトの林奈緒が、装飾用の布をドサッと渡してきた。ボブカットの元気なやつで、美術部らしい。田中彩花だけじゃなく、こういう女子が絡んでくるのも準備の忙しさだ。
「林、こんな量、俺一人で?」
「えー、雑用係でしょ? 頑張って!」
林が笑って去る。ったく、雑用って便利屋かよ。布を抱えて体育館に向かうと、田中が看板用のペンキ缶持ってウロウロしてた。
「臼木君、雑用大変そう…、それより納戸さんのケーキ、今日の試作ヤバいよ。なんか、前より進化してる」
田中がメガネずらして言う。確かに、前の試作はサクッと軽いクッキーだったけど、今日のはチーズケーキらしい。試食の噂だと、クリームの滑らかさが別次元って。
「進化? まあ、美味けりゃ何でもいいよ」
「何それ、冷めてる! 納戸さん、ほんと多才だよね。テストもトップだし」
田中が感心する。納戸さんの高得点、確かに普通じゃないけど、最近はそんな話題も慣れてきた。
教室に戻ると、康太がポスター貼り終えて、試食のケーキに群がってる。プレートにはチーズケーキが並んでて、ベリーソースがアクセント。納戸さんがフォーク配りながら、ニコッと笑う。
「臼木君、辛君、試食どう? 今日のはちょっと冒険したやつ」
「冒険って、どんな?」
俺が聞くと、彼女はフォークでケーキを指した。
「クリームに隠し味入れてみた。食べてみてよ」
一口食うと、濃厚なチーズの風味に、ほのかな柑橘が混じる。前のケーキより深みがある。康太が目を丸くして、フォーク止まらねえ。
一口食うと、濃厚なチーズの風味に、ほのかな柑橘が混じる。前のケーキより深みがある。康太が目を丸くして、フォーク止まらねえ。
「納戸さん、これマジで進化してる! 前のは軽快だったけど、こっちは重厚なキャラだな!」
「キャラって何だよ。けど、確かに美味い。納戸さん、プロ目指せよ」
俺が言うと、納戸さんはクスクス笑った。
「プロは無理だよ。まあ、みんなが喜んでくれるなら、頑張るかな」
林がケーキ食いながら横から絡んできた。
「納戸さん、ほんとすごい! このケーキ、前より味に奥行きあるよ。文化祭、絶対売れるよ!」
「ありがと、林さん。失敗しないように、気をつけるよ」
納戸さんの笑顔、なんか穏やかだ。前にチラッと聞いた「失敗」の話、気にはなるけど、深追いするのはやめとく。
試食会が終わって、装飾チームの作業に移る。納戸さんが描いた看板、花と星のモチーフが教室の壁に貼られてる。田中がペンキ塗りながら、林と喋ってる。
「納戸さんのデザイン、なんか惹きつけるよね。美術の田中先生も褒めてたよ」
「それな」
「臼木、ボーッとしてんな! 看板の枠、体育館から持ってきて!」
クラスメイト男子が叫ぶ。雑用係、ほんと休まる暇ねえな。体育館に走ると、他のクラスの出し物準備がカオスだ。演劇部の仮装、軽音部の音合わせ。文化祭、どんどん近づいてる。
体育館の倉庫で看板の枠見つけて、教室に戻る。汗だくで枠置くと、納戸さんが水のペットボトル差し出してきた。
「臼木君、雑用お疲れ。ほら、飲んで」
「サンキュ、納戸さん。めっちゃ助かる」
水をゴクゴク飲む。納戸さんは看板の微調整してて、青髪が汗で少し張り付いてる。なんか、いつもより人間味あるな。
「納戸さん、料理に装飾、めっちゃ忙しそうだな」
「ん、忙しいのは嫌いじゃないよ。こういうの、なんか楽しいし」
彼女の目、キラッと光る。楽しそうだけど、どこか遠い感じ。過去の何か、リベンジってやつかな。
康太がポスターの追加分持ってきて、ドヤ顔で広げる。
「よ、納戸さん、最新作! カフェの雰囲気、バッチリだろ!」
ポスターには、ケーキとコーヒーのイラスト。納戸さんのデザインを参考にしたらしい。彼女がニヤッと笑う。
「辛君、ほんと上手いね。アニメのポスターみたい」
「だろ! 物語の王道なら、俺のポスターで客が殺到するぜ!」
康太が胸張る。お前のラノベ脳、たまに出るけど派手だな。
「客って、クラスメイトだろ。殺到すんなよ」
放課後、教室の片付けしてると、納戸さんが校庭のベンチで一息ついてた。彼女が本を閉じて、こっちに気づく。
「臼木君、今日も雑用お疲れ。文化祭、楽しみ?」
「まあ、普通に。納戸さんは? ケーキも看板も、めっちゃ目立ってるな」
「ん、目立つのは苦手なんだけど…まあ、今回は上手くいってほしいかな」
納戸さんの笑顔、なんか柔らかい。彼女のバッグのチャーム、夕陽でキラッと光る。
「じゃ、明日も頑張ろう。辛君にもよろしくね」
納戸さんが手を振って帰る。青髪が風に揺れる。康太が片付け終えて、追いかけてきた。
「崚雅、納戸さんのケーキ、ほんと進化してたよな。文化祭、マジで楽しみだぜ」
「楽しみって、お前、食う気満々だろ。ポスター、ちゃんと仕上げろよ」
「任せろ! 俺のキャラ設定、クリエイティブ枠だからな!」
康太が笑う。こいつのノリ、疲れるけど、悪くねえ。
俺、雑用だけで、静かに乗り切れればいいんだけどさ。




