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六 もう無くすなよな?

 笑みを引っ込めたスコットは、水上をバクシンし続けるベリンダにオロオロしているローザリヤへと、声をかけた。


「ローザリヤ」

「こらベリンダ! 睡蓮の葉を巻き込んでるわよ! いいからもう上がってきなさ……スコット殿下!?」

「疑って悪かったな。どうやら彼女は、本当に自らの意志で池に飛び込んだだけのようだ」

「えっ……」


 スコットはそう言うと、くるりと身を翻した。

 それから言い忘れたとばかりに首だけで軽く振り返ると、ローザリヤに対して言う。


「なかなかにおもしろい友人を持っているようだな、ローザリヤ。もしもきみがあれを飼い慣らしているのだとしたら、案外見直した、とでも言うべきかもしれないな」

「は……」


 思いがけない言葉を貰ったローザリヤは、その場に硬直してしまう。


 彼女のフリーズが解けたのは、スコットがさっさとその場を立ち去り、アリソンとエレンの助けを得たベリンダが再び池から上がってきた頃のことであった。


「大丈夫ですか? ベリンダさん……」

大丈夫(でーじょぶ)大丈夫(でーじょぶ)


 ハンカチを差し出そうとしてくるアリソンを手で制して、ベリンダはブルブルと首を振った。

 辺りに水しぶきが跳ね、ローザリヤは思わず「犬ですか!」と叱責を飛ばす。


 それからローザリヤは、実に言いにくそうにしながら、ベリンダに尋ねた。


「貴女……どういうおつもりですの?」

「は? どう、とは?」


 ベリンダは靴を脱ぎ、引っ繰り返していた。

 中に溜まっていた水が地面に落ち、ばしゃばしゃと音を立てる。


「貴女、わたくしの味方ではないと言ってましたわよね。なのに、どうして……あんなふうに、わたくしのことを庇うような真似を」

「だーから、言ったろ。聞いてなかったのかよ」


 ベリンダは面倒くさそうにしながら、ローザリヤに言った。


「オレは、オレの味方なの。オレが“そーした方がいーんじゃねーか”って思ったから、そう動いただけだよ」


 ベリンダは、呆けたような間抜け面を浮かべるローザリヤを見やった。


 ……まあ、確かにいけ好かねえヤツであるのは、そうなんだけど。

 でも、コイツ。

 オレが最初に池に飛び込んだ時、駆けつけてきて真っ先に怪我の心配をしてくれたからな。


 ローザリヤが傲慢な女であることは、確かなのだろう。

 取り巻きの少女達を従えて偉そうにしながら、気に入らないアリソンをイビろうとする、悪女であることも確かだ。


 ……でも、それでも。

 自らの取り巻きの少女であるベリンダを、意に反した動きをした直後であっても、まず真っ先に怪我の心配をできるくらいには……友人想いである面もまた、あるはずなのだ。


 だったら、一方的な思い込みで糾弾しようとしてくるようなヤツに対して、本当のことを言って無実を証明してやるくらいは、まあ……してもいいんじゃねーかって思っただけなのである。


「ま。人の大事なモン池に投げ捨てたことに関しては、どーかと思うがね」


 ベリンダのその呟きは、どうやらローザリヤの耳には届かなかったらしい。

 ローザリヤは気まずそうに唇をモゴモゴとさせたあと、先ほどのスコットのようにくるりと身を翻した。


「フンッ。行きますわよ、エレン」

「あ、はーいっ。ローザリヤ様ー」

「それとベリンダ」

「あ?」


 ローザリヤはこちらに背を向けたまま、素っ気ない態度で言った。


「また明日」


 それっきりローザリヤは振り返ることもなく、スタスタと池から歩き去ってしまった。

 その背中を、エレンが慌てて追いかける。


 ……怒っちゃあいるけど、明日になったら水に流してやるってところかね?


 素直じゃないローザリヤの反応に、ベリンダは苦々しい笑みを浮かべるばかりだった。


 そして、池のほとりに残されたのは、ベリンダとアリソンだけになる。


「っと。そーだ。忘れたらいけねーや」


 ベリンダはそう言って、呆けたまま状況を見守っていたアリソンに、それまでずっと握り締めていたロケットペンダントを差し出した。


「ほらよ。大事なモンなんだろ」

「あ、ありがとうございます」

「悪りーな。行きがかりで、2回も池に落っことすことになっちまった」

「いえ……。無事、戻ってきただけでも、よかったです」

「そ? ならいーけど。まー、ホントはあのいけ好かねーお嬢にも、謝罪の一言くらい言わせてやりたかったんだけどなー」

「い、いえっ。これ以上は、もったいないくらいです」


 手のひらに戻ってきたペンダントを握り締めたアリソンは、熱くなった頬を見られたくなくて、その場で俯いてしまった。


 ああ。

 本当に凄かった。

 アリソンのペンダントを、池に飛び込んでまで拾ってきたことも。

 その後に現れた王太子殿下相手に、あんなふうに啖呵を切ってしまう姿も。

 喧嘩をしていたはずのローザリヤ相手に、すぐにあんなふうにかばえてしまう姿も。

 そのどれもこれもが、アリソンの胸に、深く深く響いていた。


「本当に、ありがとうございました。ベリンダ()。なんとお礼をしたらいいか……」

「へへ。礼なんていらねーってぇー……、ひ、……ひっくしょん!」


 ベリンダはド派手にくしゃみをしたかと思うと、辺りの木々から一斉に鳥たちが飛び去っていく。

 ベリンダは「あー……」と寒そうに身震いしてから、アリソンに向かってこう言った。


「やっぱ礼、してもらっていい?」

「は、はいっ。なんでも言ってください」

「したらさー……。オレを、寮ってとこまで、連れてってくんね?」

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