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三 取り巻きだからってナメんなよ!?

「それで、ええとローザリヤさ、……様。なにか、ご用でしょうか?」

「あら! 用が無くては、話しかけてはいけないとでも仰いますの!? さすがは聖ファービランス魔法学園の新入生首席! お高くとまってますわね!」

「い、いえそんなつもりは……っ!」


 アリソンが恐縮した様子で首を振ると、ローザリヤはフンッと鼻を鳴らして言った。


「言っておきますけれどもね。わたくしは貴女のことなんて、これっぽっちも認めていませんことよ。このわたくし、伯爵家令嬢のローザリヤ・ロービンソンを差し置いて、その上ぽっと出の庶民が、新入生首席!? あり得ませんわ!」


 ローザリヤの言葉から、ベリンダはふたりの関係性を大まかに理解できたような気がした。


 恐らく貴族であるローザリヤは、魔法学園の新入生首席の座を狙っていたのだろう。

 ところが貴族でもなんでもない庶民であるアリソンが首席の座を奪ってしまったため、目の敵にしている……と。


 く、くだらね~~~……!


 呆れたのが表情に出てしまったのか、横からエレンが「やめなよ~!」と慌てた様子で肩を叩いた。


 取り巻き達がそうしている間にも、ローザリヤはアリソンに詰め寄っている。


「大体ねえ、貴女のような庶民が首席だなんて、とても信じられませんわ! 魔法能力を磨くことができるのは、王族貴族の特権! ですのに、どこの誰とも知れない貴女が首席!? 大方、学園上層部の誰かにでも、取り入ったのではありませんこと!? まあ、不潔!」

「そ、そんなこと、ありません……」

「思えば貴女、いつもそうやって花壇に水やりしたりとか、廊下の窓を拭いたりとか、率先して学園のお手伝いをしてますわよね! そうやってセコセコ点数稼ぎをして、融通してもらっているというわけですわね! この、恥知らず!」


 一方的に責め立てられたことで、アリソンは辛そうに顔を俯けてしまう。

 そんな彼女のことを見下ろすローザリヤは、「あら?」と何かに気付いたように声を漏らした。


「なあに、これは?」

「あ、それは……!」


 ローザリヤが白い手袋に包まれた指先で指し示したのは、アリソンの首に下がっていたロケットペンダントだった。

 シルバーの平べったい楕円形をしたそれは、しかし所々が黒ずんでしまっていて、お世辞にも綺麗とは言い難い。


「貴女、何よこれ? 入学式や授業中は、こんなの付けてませんでしたわよね?」

「これは、その……祖父から貰ったもので。授業とは関係無いものなので、普段はしまっているんです」

「ふうん、そう」


 自分で尋ねておきながら、ローザリヤはあまり興味が無さそうだった。

 しかし次の瞬間、彼女は良いことを思いついたとばかりに、ニヤリと口角を釣り上げる。


「アリソンさん。わたくし達の通う聖ファービランス魔法学園は、伝統ある、由緒正しき学園ですのよ。それなのに、授業とはまったく無関係な、こんな薄汚れたモノを持ち込むだなんて、許されざる行いではありませんこと?」


 ローザリヤはそう言うと、首だけで背後を振り返り、ベリンダとエレンを見やった。


「貴女たちも、そう思いますわよね?」

「ええ、もちろんですー。ローザリヤ様ぁー!」

「え、別に。いんじゃね?」

「ベリンダ!」

「へいへい。思う思う」


 ローザリヤはギリギリと歯ぎしりをしたが、今はアリソンいびりが優先だと思い出したのだろう。

 怯えた様子で首を竦めるアリソンへと、視線を戻した。


 ローザリヤはおもむろに自らの白い手袋を外しながら、アリソンに向かって言う。


「アリソンさん。貴女、新入生首席だからって、少し調子に乗ってるんじゃありませんこと?」

「そーよそーよ! ……ほーら。ベリンダもー」

「おうおう。ソーヨソーヨ」

「……アリソンさん! 調子に乗ってるんじゃありませんこと!?」

「そ、そのようなことは……決して……」


 自らの取り巻きへの苛立ちもひっくるめたみたいに、ローザリヤはアリソンへと一層まくし立てる。


「今度はこのわたくしに口答え? 一体どういう了見ですかしら。まったく……こんな汚らしいモノ、高貴なわたくしに見せないでくださいまし!」

「それは……あっ!」


 ローザリヤはアリソンの不意を突いて、彼女の胸元に手を伸ばす。

 手袋を脱いで形の良いピンク色の爪がむき出しになった右手で、ローザリヤはアリソンの首から、さっとロケットペンダントを外してしまった。

 ロケットを中心にして輪っかを作る細いチェーンが、チャラリと揺れて音をたてる。


「か、返してくださいローザリヤさんっ! それはあたしの大切な……」

「様を! つけなさいと! 3回目よ!」

「2回目です……」

「ああもう! ベリンダのせいでややこしい!」


 すっかり憤慨したローザリヤは、ロケットペンダントを握り締めたまま、アリソンに背中を向ける。

 かと思うと、彼女はその手を思いっきり高く振り上げた。


「こんなもの! こうしてさしあげますわ!」

「あっ……!」


 アリソンの短い悲鳴が飛んだ。

 ローザリヤが、持っていたロケットペンダントを、思いっきり投げたのだ。


 綺麗な放物線を描いて飛んでいった先には、大きな池がある。

 睡蓮の丸い葉の浮かぶ池は、その向こうに広がる庭園の方へと広がって伸びていた。

 あそこに落ちてしまえば、探し出すのは一苦労だろう。


「ああっ……! あれはあたしの……お爺ちゃんの……!」


 アリソンの悲痛な叫びが響いた、その時である。


 ……一陣の風が吹いた。


「は?」


 と、ローザリヤがお間抜けな声を漏らす。

 そんな彼女のプラチナブロンドのロングヘアが、風でふわりと揺れた。


 ローザリヤの視線の先には、すっ飛んでいくロケットペンダントと、もうひとつ。

 そのペンダントを目がけて、一目散に突っ走る女の子の背中があった。


「ベリンダ?」


 そう。それは彼女の取り巻きであるはずの、ベリンダ。


 ベリンダは薄緑色のお下げ髪をたなびかせながら、ドレスが乱れるのも気にせずに走っていた。

 しかし彼女の必死の疾走も報われず、ペンダントはあっさりと池の縁を越えてしまう。


 いくらなんでも、これ以上は追いかけられまい。

 そう、誰もが思った。

 ペンダントを追いかけ、走るベリンダ以外は。


「……だりゃあああっ!」


 およそお嬢様らしからぬかけ声をあげて、ベリンダの足が地面を蹴った。

 彼女のふっくらとした体が、宙に浮かぶ。


「ヤンキーの底意地、ナメんなよ! 仏恥義(ブッチギ)ってやらあ、クソがあああああ!」


 ベリンダがまっすぐに伸ばした右手が、ペンダントから伸びる細いチェーンを確かに掴んだ。


「っしゃ! とったぞ、オラあああああッ!」


 ベリンダが勝利の雄叫びを上げた、次の瞬間。


 ドッパアアアアアアアアアアンッ…………!


 ベリンダは勢いよく、池に向かって落下した。


「なーにを、やってますのよ! ベリンダぁぁぁああああ!?!?!?」


 自らに付き従うべきはずの取り巻きの少女の暴走に、ローザリヤは頭を抱えて叫ぶことしかできないのだった。

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