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一 最強の女番長が乙女ゲームの世界に転生だって!?

新連載です!!

不良少女×悪役令嬢の取り巻きの、たぶんきっとドタバタコメディ作品です!!

楽しんでいただけましたら幸いです!!

よろしくお願いいたします!!!!!

 悪女(不良少女)は死んだ。

 そして、悪女(悪役令嬢)の取り巻きに転生した。



 ☆ ☆ ☆



 荒原(あわら)亞也子(あやこ)は、その日、バイクで夜の街を疾駆していた。


 もうすでに街の人々は眠りにつく時間帯で、大通り沿いであっても、居並ぶ店には明かりの点いているところは少ない。

 そんな中にあって、アヤコの駆け抜ける道路は、ひどく騒がしかった。


「チッ。しつけーポリどもだぜ」


 サイドミラー越しに背後を見やったアヤコの呟きは、風切り音とバイクの排気音、そして彼女を背後から追い立てるパトカーのサイレンにかき消された。


『そこのバイク! 速やかに止まりなさい! スピード違反だぞ! 止まれ!』


 パトカーのスピーカーが、アヤコにバイクを停めるように指示を出す。

 だが彼女に、止まるつもりなんて毛頭無かった。


 こんなに気持ちのいい春の夜に、思うさまスピード出してかっ飛ばして、何が悪いってんだ。


 アヤコは、自身の通っている公立高校の女子制服に、防寒用のスタジャンを羽織っただけという、ラフな格好でバイクを操っている。

 黒いヘルメットの後ろからは、背中まで届く長さのくすんだ銀髪が、風に煽られたなびいていた。


 彼女の着ている制服は、この辺りでは不良高校として有名な学校である。

 そして、アヤコはそこの女番長だった。


 親に反抗し、学校に反抗し、社会に反抗している不良少女である。

 そんな彼女が、パトカーから「スピード出しすぎ!」と言われた程度のことで、止まるわけがない。

 むしろ自身の反骨精神に火をつけられたとばかりに、アヤコは一層バイクのスピードを上げた。


「ん……そーいや。アイツはどうしたんだ?」


 ふと気付いてアヤコは、背後を見やる。

 彼女を追いかけてくるのは、回転灯を赤々と光らせるパトカーだけだ。


 はて。

 ツーリングに行くぞ、と強引に連れてきていた舎弟が、一緒に走っていたはずなのだが。

 どうやら警察に追い回されているうちに、はぐれてしまったらしい。


「もしかして、アイツは捕まっちまったか? チッ。相変わらず、とれぇヤツだぜ」


 だが今日ばかりは仕方ない、と思わされるくらいには、パトカー達も執念深い。

 毎度毎度暴走行為を働くアヤコ達に、いい加減痺れを切らしたのだろう。

 彼らはどうあっても、今日、アヤコ達を検挙してしまう腹づもりのようだ。


「ヘッ。いいぜえ、上等じゃねえかオラァッ! このオレについてこれるってんなら、ついてきてみやがれってんだ! 勝負だポリ公! 仏恥義(ブッチギ)って行くぜぇ!」


 アヤコはヘルメットの中でギラギラとした瞳を光らせながら、町外れの山道へと突っ込んでいく。


 そして彼女は。


「ハアアアッ!?」


 山道の曲がり道に差し掛かったところで、目の前に1匹の猫が飛び出してきたのを見た。


 首輪らしきものはしていない。野良猫だろうか。まだ小さい体躯のそれは、子猫のようにも見えた。

 まだ幼いその猫は、この道が自動車の走る道であることを理解できていないのだろう。

 とにもかくにも、アヤコがそのままバイクを走らせれば、ちょうどぶつかる地点に、その猫はいた。


「だあああっ! くっそ!」


 アヤコは咄嗟にハンドルを切った。

 スピードを出していたため、猫との距離は一気に詰まっていく。

 しかし彼女がすぐにハンドルを切ったためか、ギリギリのところでバイクの車体は、猫を躱すようにその横を駆け抜けていった。


「や、やった! 危っぶなかった……!」


 と、そこで気を抜いてしまったところで、アヤコの運は尽きた。


「ああ!? ヤッバ……!」


 無茶なハンドル操作でバランスをくずしていた彼女のバイクは、続けて目の前に現れた急カーブを曲がりきることができなかったのである。


「お、おわああああああああ! 止まれえええええええええええええええ!」


 ガードレールへと正面から突っ込むようにぶつかっていったアヤコがこの世に遺した最期の言葉は、皮肉にもつい先ほどまでパトカーからかけられていた言葉であった。

 彼女は来たる衝撃を覚悟して、歯を食いしばり、ぎゅっと目を瞑る。


 しかし彼女の願いは、この世界に聞き入れられることはなく。

 果たして不良少女の荒原亞也子は、高校生にしてこの世を去ることとなったのであった。


 ……。


 ……そして、


「おわああああああああああああああああああ…………ああ?」


 悲鳴を上げるアヤコは、覚悟していた衝撃が、なかなか襲ってこないことに、ようやくのことで気がついた。

 それどころか、握り締めていたはずのバイクのハンドルの感触も無い。

 さっきまで彼女を追い立てていたはずの、騒がしいパトカーのサイレンすら、聞こえてこない。


 一体、どういうことだろう?


 さすがに違和感を覚えた彼女は、恐る恐るといった様子で、瞑っていた瞳を、ゆっくりと開いていった。


 するとそこは。

 彼女がたった今まで疾駆していたはずの、夜の山道の曲がり角……では、なかった。


「は?」


 そこは、うららかな陽射しの降り注ぐ、穏やかな庭園のようなところであった。

 開花のシーズンを迎えたらしい花や木々があちこちで咲き誇り、緑の生い茂る様子が目に優しい。


「え?」


 庭園の真ん中に白いガーデンテーブルとチェアが置かれており、そこにアヤコは腰掛けていたようだった。

 そしてその手に握っているのは愛車のハンドルではなく、どうやら紅茶の注がれたティーカップ。


「お?」


 そして、怪訝そうな表情で辺りを見回す彼女を、若干引いたような面持ちで見つめている同席者達が、約2名。


 なおもきょとんとしているアヤコに対して、同じテーブルに着いている2人の内の、より豪奢なドレスに身を包んだ少女が口を開いた。


「……いきなり悲鳴をあげたかと思ったら、今度は辺りをキョロキョロしだしたりして。一体どうしたというのよ」

「え。誰だよお前。どっから出てきた?」

「ハア!?」


 未だ混乱から抜け出せずにいるアヤコがつい漏らしてしまった言葉に対する、豪奢な少女の反応は劇的なものであった。

 彼女は椅子をガーデンチェアを蹴倒す勢いで立ち上がると、怒りからか顔を真っ赤にしてアヤコのことを睨み付けてくる。


「あ、貴女! 言うに事欠いて、このわたくし、伯爵家令嬢のローザリヤ・ロービンソンを忘れたとでも言うおつもり!?」

「ろ、ローザリヤぁ……?」

「様をつけなさい! 様をォ!」


 そこに立ってアヤコを糾弾するのは、全身を華美に飾り立て、豪華絢爛がドレスを着ているかのような姿をした少女だった。


 陽の光を浴びてキラキラと輝くプラチナブロンドの髪は、ふわふわと波打ちながら背中まで長く伸びている。

 意志の強そうな太めの眉は眉間に深い皺を刻みながら逆立っており、長い睫毛のバシバシと伸びるラピスラズリ色の釣り目とも相まって、強烈な印象を見る者に与えた。

 鼻は高く、唇には真っ赤なルージュが塗られている。


 全身を包みこむのは、大きく胸元の開かれたデザインの、やたら扇情的なドレスだ。

 セルリアンブルーを基調としており、白いレースで編まれた花飾りがそこかしこにちりばめられている。

 いかにも高価ですと言わんばかりに煌びやかなネックレスを下げている姿は、自らの高貴さを強く誇示しているように見えた。


 ペットなのだろうか、肩にはセキセイインコがちょこんと乗っている。

 険悪な雰囲気を敏感に察したのか、「ッアー!」と甲高い声で鳴いた。


 ……なんだ?

 アヤコは、微かな違和感を、そのローザリヤと名乗った少女から感じる。

 初めて会ったはずなのに、初めてとは思えないような……、ここじゃないどこかであったことがあるような、そんな微かな既視感が……。


 しかしその違和感について考える暇は、どうやら今はないようであった。

 ローザリヤは興奮から顔を真っ赤に染めて、瞳と同じラピスラズリ色に爪を塗った指先を、まっすぐこちらに突きつけてくる。


「立場を(わきま)えなさいな! 貴女は所詮、このわたくしローザリヤの取り巻きに過ぎないのですからね!」

「と、取り巻き……? 女番長たるこのオレが、取り巻き……!?」


 愕然とショックを受けるアヤコに対して、ローザリヤとは異なる、もうひとりの同席者の少女が口を開いた。

 こちらはローザリヤほどは華美な衣装ではないものの、それでも良いところの子女であることは一目で分かる仕立ての良いドレス姿である。


 透明感のある青色をしたボブカットの一部を編み込んだ彼女は、気遣わしげな表情でこちらに手鏡を向けていた。


「大丈夫ぅ? ベリンダ、ちょっと顔色がおかしいよぉー?」

「は……!? ベリンダ……って、誰?」

「誰って……ローザリヤ様のお次は、自分を忘れたのぉー? ベリンダ・ベル。貴女の名前でしょー?」

「じ、自分……!? オレの名前が……ベリンダ……!?」


 そうして、向けられた手鏡を見やったアヤコは、今度こそ言葉を失った。

 そこに映し出されている少女は、アヤコとは似ても似つかない、まったく別人の少女だったのである。


 薄緑色の髪をして、髪と同色のドレスに身を包んだ、とりたてて特徴もない、地味な女の子。

 女番長として学校の頂点に君臨していた、あのアヤコの威容など欠片も感じられない……地味なだけの、女の子。

 その名は、彼女たちの言葉を信じるならば、……ベリンダ。ベリンダ・ベル。


「ど、どーなってやがんだ、こいつはあああああああああああああ!?!?!?」

「ちょっと、ベリンダ!? 今度はどうしたっていうのよ!?」

「ベリンダったら、落ち着いてぇ~!」

「ッアー! ドーナッテンダ! ドーナッテンダ! クァーッ!」


 すっかり正気を失って大騒ぎするアヤコ……いや、ベリンダ。


 未だ彼女は、知るよしも無い。

 バイクでの交通事故で現世を早世した荒原亞也子は……異世界にある魔法学園を舞台にした、恋と陰謀渦巻く乙女ゲーム『愛は魔法の奇跡』の世界に転生してしまったことも。

 そしてその世界での彼女は、学校のトップに君臨する女番長でもなんでもなく……単なる、悪役令嬢の取り巻きBに過ぎないということも。


 彼女はこの乙女ゲームを舞台にした異世界で、これから数々の波乱に巻き込まれることになることを……まだ、なにひとつ、知らないのである。

お読みいただき、ありがとうございます!!

執筆に励みになりますので、ブックマークの登録、評価など、ぜひぜひよろしくお願いいたします!!

序盤の間はしばらく1日複数回更新を予定しておりますので、ぜひ引き続き応援していただけますと幸いです!

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