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バトル・メイド・サーヴァント~銀の召喚とカルマのスティグマ  作者: 黒船雷光
第一章:ロード対戦:カルマのスティグマ

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嫉妬の鎖

 シルヴァーナ領の城は、夜の静寂に包まれていた。


 大理石の広間で、暖炉の火が揺れる。

 リシア・シルヴァーナは、窓辺に立ち、エリュシオンの星空を見上げていた。

 銀髪が火の光に輝き、漆黒のメイド服は彼女の戦乙女の気品を際立たせる。

 だが、彼女の碧い瞳(アジュア・アイズ)には、かすかな不安が宿っていた。


 あの夜のセレナとの戦い、そしてガルドの憤怒(イーラ)を継承した戦いから数日。

 アルヴィン・シルヴァーナの身体には、傲慢(スーペルビア)(スティグマ)(額の王冠型)に加え、憤怒(イーラ)(スティグマ)(腹の炎型)が刻まれていた。

 リシアは、アルヴィンのカルマの苦痛を共有するたびに、自身の戦闘行動に(かせ)を感じていた。

 シルフィードを具現化する瞬間、アルヴィンの痣に(スティグマ)れるたび、彼の痛みが彼女の胸を刺す。


「アルヴィン様……あなたの理想は、私の全てです。でも、この苦痛は……」リシアは呟き、胸に手を当てる。そこには、ガルドの憤怒(イーラ)の熱が、確かに残っていた。


 広間の扉が開き、アルヴィンが現れる。

 金髪に青い瞳、貴族らしい端正な顔立ちだが、額の痣は不気味に輝く。

「リシア、何をぼうっとしている? シルヴァーナの戦乙女(バトル・メイデン)が、そんな顔をするな」


 リシアは微笑み、頭を下げる。

「申し訳ありません、アルヴィン様。ただ、夜の美しさに心を奪われて」

 アルヴィンは鼻を鳴らす。

「ふん、美しさなど、覇権を握る力に比べれば無価値だ。リシア、準備をしろ。クラウディア・ヴェルモンドが使者を送ってきた。どうやら、俺を試す気らしい」


 リシアの心がざわめく。


 クラウディア――嫉妬(インヴィディア)のロード。


 彼女のメイド、セレナの鎖は、リシアの風を封じた。

 あの冷たい笑みが、脳裏に蘇る。

「了解しました、アルヴィン様。どのような試練でも、私があなたの盾となります」


 ---


 クラウディアの使者は、シルヴァーナ領の城門(ゲート)で待っていた。

 黒いドレスの少女――セレナだ。彼女の瞳には、嘲笑と挑戦が混じる。

「リシア・シルヴァーナ、覚えているかしら? 私の主、クラウディア様が、アルヴィン様に会談を提案なさったわ。場所は、ヴェルモンド領の境界、枯れ木の森。どう、受ける?」


 アルヴィンが前に出る。

「ふん、クラウディアごときが、シルヴァーナに挑むだと? 受けて立つ!」

 リシアはアルヴィンの肩に手を置き、制止する。

「アルヴィン様、慎重に。クラウディアの嫉妬(インヴィディア)は、狡猾(こうかつ)です。私に任せてください」


 セレナがくすくすと笑う。

「忠義深いメイドね。でも、リシア、その忠誠(フィアルティ)があなたを滅ぼすわ。森で待ってるわよ」

 彼女は闇に消え、リシアの胸に冷たい予感が広がった。


 ---


 枯れ木の森は、ヴェルモンド領の荒涼とした境界に広がる。


 月光が枯れた枝を照らし、霧が地面を這う。

 リシアとアルヴィンは馬車を降り、森の奥へ進む。

 リシアの心は、シルヴァーナ領の貴族の腐敗を思い出しながら、クラウディアの領地の貧富の格差を想像していた。

 嫉妬(インヴィディア)のカルマは、格差と裏切りを映す。クラウディアの痛みは、どんな形なのだろうか。


 森の中心で、セレナが待っていた。

 黒いドレスの裾が霧に揺れ、彼女の手には鎖「クルーエルチェイン」がうねっている。

 背後には、クラウディアが優雅に座る。

 彼女の首の蛇のような痣が、月光に輝く。

「アルヴィン様、ようこそ。シルヴァーナの傲慢(スーペルビア)、拝見したくてね」


 アルヴィンが冷笑する。

「クラウディア、俺の名を試す気か? お前の嫉妬(インヴィディア)など、シルヴァーナの前では無力だ!」


 リシアは前に出る。

「セレナ、戦う前に聞かせて。あなたの主のカルマ――嫉妬の原因は何? その痛みを、教えてちょうだい」

 敵の(カルマティック)カルマを知る(・レヴェレーション)ことは、(コメンスメント・オブ)戦いの(・ザ・クリムゾン)始まりだ。(・デュエル)


 セレナの瞳が暗く光る。

「ふふ、リシア、礼儀正しいわね。いいわ、教えてあげる。

 クラウディア様は、身内に裏切られ、愛を失った。

 幸福な者たちの笑顔を見るたび、クラウディア様の心は裂けるのよ!」


 リシアの胸が締め付けられる。

 裏切り――それは、アルヴィンの家族を失った痛みと重なる。

 彼女はそっとアルヴィンの額に触れ、カルマの力を呼び起こす。

「シルフィード、顕現せよ!(マニフェスト・ナウ)


 光がリシアの手から溢れ、レイピア「シルフィード」が現れる。

 刃には、ガルドの憤怒の炎の紋様が刻まれ、風と炎が渦巻く。

 だが、アルヴィンの苦痛がリシアに流れ込み、彼女の額に汗が滲む。


 ---


 戦いが始まった。セレナの鎖が蛇のようにしなり、リシアを襲う。

 リシアは風を纏い、レイピアで鎖を弾くが、セレナの動きは狡猾だ。

 鎖は無数に分裂し、リシアを包囲する。「リシア、あなたの忠誠、試してあげるわ!」


 リシアは炎の紋様を呼び起こし、風に炎を纏わせる。

「燃えなさい!炎の嵐(イグニス・テンペスト)」炎の刃が鎖を焼き、セレナを後退させる。

 だが、セレナの鎖がリシアの心に訴えかける。

「お前の主は傲慢(ごうまん)な青年だ。やがてお前を捨てるわ、リシア!」


 リシアの動きが一瞬止まる。

 アルヴィンの傲慢(スーペルビア)――彼がリシアを必要としなくなる恐怖が、心をよぎる。

 だが、彼女は首を振る。

「いいえ、私はアルヴィン様を信じる。彼の理想を、共に叶えると誓った!」


 セレナが叫ぶ。

「クラウディア様の嫉妬(インヴィディア)は、こんな絆じゃ消えない! 幸福な者全てを、引きずり下ろすのよ!」

 鎖が再び襲い、リシアの腕を絡め取る。

 鋭い痛みがリシアを襲う――アルヴィンの傲慢と憤怒の苦痛が、彼女の身体を蝕む。


 アルヴィンの(スティグマ)が光り輝く。肉が焼けるような異臭が周囲に立ち込める。

 だが、アルヴィンは痣に少し手を当てただけで前を向く。

「リシア、負けるな! お前は俺の戦乙女(バトル・メイデン)だ!」

 その声に、リシアの瞳が輝く。圧し掛かる重圧も憎しみも渦巻く力に代わる!

「はい、アルヴィン様……私は、あなたの剣です!」


 リシアは風と炎を巻き上げ、鎖を切り裂く。「嵐の(ジャッジメント)裁き!(・テンペスト)

 風の刃がセレナを襲い、クルーエルチェインを砕く。

 セレナは膝をつき、息を荒げる。「くっ……リシア、なんて力……!」


 だが、セレナは最後の鎖を放つ。

「クラウディア様の痛み、味わいなさい!」

 鎖がリシアの死角から脇腹に突き刺さり、クラウディアの記憶が流れ込む―


 ---


 クラウディアの過去:嫉妬(インヴィディア)の起源(12年前)


 グリーンヴァイン領は、豊かな緑と花に囲まれた美しい領地だった。


 クラウディア・グリーンヴァインは、15歳の少女として、領主の娘として育てられていた。

 緑色の髪とエメラルドのような瞳を持つクラウディアは、幼い頃から美しく、領地の民から愛されていた。だが、彼女の心は、嫉妬(しっと)の種を抱えていた。


 クラウディアの父、ヴィクター・グリーンヴァインは、領主として公正に統治していたが、厳格な性格だった。

 母のエレノアは優しく、クラウディアを愛していたが、病弱で床に伏せることが多かった。

 クラウディアには、双子の妹、エミリアがいた。

 エミリアはクラウディアと瓜二つだったが、性格は正反対で、明るく無邪気だった。

 民衆はエミリアの純粋さに惹かれ、彼女を「グリーン(フラワー・オブ)ヴァインの花(・グリーンヴァイン)」と呼んだ。


 クラウディアはエミリアを愛していたが、父や民衆がエミリアばかりを褒めることに苛立ちを覚えていた。

 ヴィクターはエミリアに言う。

「エミリア、お前はグリーンヴァインの希望だ。民の心を掴む才能がある」


 クラウディアは父に訴える。

「父上、私だって頑張っています! 私を見てください!」

 だが、ヴィクターは冷たく言う。

「クラウディア、お前はエミリアのようにはなれない。もっと努力しろ」


 クラウディアの心に、嫉妬の芽が生まれる。

(何故、エミリアばかりが愛されるの? 私だって、グリーンヴァインの娘なのに……)

 彼女はエミリアを憎むことはなかったが、父や民衆の愛を奪われる恐怖が、彼女を蝕んでいた。


 ある日、グリーンヴァイン領で祭りが開かれた。

 エミリアは民衆と踊り、笑顔を振りまく。

 クラウディアは遠くからその光景を見て、胸が締め付けられる。

(エミリア、私の居場所を奪わないで……)

 その時、エミリアがクラウディアに近づき、手を差し出す。

「お姉様、一緒に踊りましょう! 民が、私たちを待ってるわ!」


 クラウディアは微笑むが、心の中では嫉妬が渦巻く。

(エミリア、あなたは無垢だから、民に愛される。私には、そんな笑顔は作れない……)

 祭りの夜、クラウディアは一人で庭に立ち、涙を流す。


 その後、グリーンヴァイン領に危機が訪れる。

 隣国の貴族、セルヴィス・シルバーヴェインが、グリーンヴァイン領の土地を奪うため、策略を巡らせた。

 セルヴィスは、ヴィクターの統治に不満を持つ貴族たちを扇動し、エミリアを誘拐する計画を立てる。「グリーンヴァインの花を奪えば、ヴィクターは動揺し、領地は我々のものだ」


 セルヴィスの兵士がエミリアを連れ去り、クラウディアは父と共に救出に向かう。

 だが、セルヴィスの策略は狡猾だった。

 エミリアは救出されるが、セルヴィスの放った矢が彼女を貫く。

 エミリアはクラウディアの腕の中で息を引き取る。

「お姉様、ごめんね……民を、守って……」


 クラウディアは絶叫する。

「エミリア! 私の妹を、返して! 何故、私から全てを奪うの!」

 彼女の心に、嫉妬(インヴィディア)(緑眼の怨嗟)のカルマが宿る。

 首に蛇型の痣(スネーク・スティグマ)が刻まれ、嫉妬が彼女を支配する。

(エミリア、私が愛されたかった。父も、民も、あなたばかりを見て、私を見なかった。私の居場所を、誰もくれなかった! 私は、欲するものを全て手に入れる! 誰にも、渡さない!)


 クラウディアはセルヴィスを倒すが、彼女の心は嫉妬(インヴィディア)に支配されたままだった。

 父ヴィクターとの関係は冷え切り、グリーンヴァイン領は貧富の格差が広がり、民衆はクラウディアを恐れるようになった。


 ---


  クラウディアのメイド:セレナの絆


 クラウディアが嫉妬(インヴィディア)のカルマを背負って数年後、彼女に仕えるメイド、セレナが現れる。

 セレナは、グリーンヴァイン領の貧しい農家の娘で、18歳。

 金髪と優しい瞳を持つセレナは、エミリアに似た明るさを持っていた。

 彼女はクラウディアに忠誠を誓い、嫉妬(インヴィディア)に苦しむ彼女を支えようとする。


 セレナはクラウディアに言う。

「クラウディア様、エミリア様は、あなたを愛していました。民も、あなたを必要としています。嫉妬(インヴィディア)を捨てて、共に歩みましょう」

 クラウディアは冷たく笑う。

「セレナ、私の嫉妬(インヴィディア)がわかる? 私は全てを失った! 父も、民も、私から愛を奪った! お前なんかに、私の気持ちはわからない!」


 セレナは目を伏せる。

(クラウディア様、あなたの嫉妬(インヴィディア)の裏に、深い孤独がある。エミリア様の死を、乗り越えられなかった……でも、私はあなたを支える!)

  彼女はクラウディアの側に立ち続け、彼女の心を癒そうと努力する。

 そして数年後クラウディアのバトル・メイド・サーヴァントとして覚醒する。

 だが、クラウディアの嫉妬(インヴィディア)は深まるばかりで、セレナの声は届かなかった。

「お前の献身が妬ましい。私に仕え続けるなら、この身に宿る因果をも超えて見せてみろ」

「お傍で邁進いたします」言い切るセレナにクラウディアはそれ以上何も言わなかった。


 --


「セレナ……クラウディア様の痛み、わかるわ。

 でも、嫉妬(インヴィディア)はあなたを縛るだけ。彼女を救うなら、別の道を!」

 リシアは叫び、レイピアを振り上げる。炎の嵐(イグニス・テンペスト)!風と炎が融合し、セレナを打ち倒す。


 セレナが倒れると、クルーエルチェインが光となって砕ける。

 リシアのレイピアに、蛇のような鎖の紋様が刻まれる。

 同時に、アルヴィンの首に蛇の(スティグマ)が輝き、彼が苦痛で膝をつく。

「ぐっ……この痛みは……!私の中で亡き者を欲し、怒りが渦巻き…それをすべて吐き出し焼き尽くせと黒い炎となってうねり暴れる…」


 リシアは駆け寄り、アルヴィンの首に触れる。

「アルヴィン様、クラウディア様の嫉妬、私が背負います!」

 (スティグマ)から冷たい熱が流れ、リシアの胸に新たな苦痛が刻まれる。

 彼女は歯を食いしばり、アルヴィンを支える。


 ---


 クラウディアはセレナを抱き上げ、静かに言う。

「リシア・シルヴァーナ、あなたの信念、確かに見ましたわ。

 アルヴィン様、あなたの傲慢(スーペルビア)は、こんなメイドを生んだのね」


 アルヴィンは立ち上がり、冷たく笑う。

「ふん、クラウディア、お前の嫉妬(インヴィディア)はシルヴァーナの前に敗れた。それだけだ」


 だが、クラウディアの瞳には、かすかな変化が宿っていた。

クラウディアの瞳が揺れる。

「リシア、あなた……私の嫉妬(インヴィディア)を、受け入れたの?」

 リシアは微笑む。

「クラウディア様、あなたの傷、私にはわかる。エミリア様を失った痛み、愛を奪われた恐怖……でも、セレナが、あなたを支えてきた。彼女の絆を、信じてください」


セレナが起き上がりクラウディアの前に出る。

「クラウディア様、リシアの言う通りです!…私は、あなたの嫉妬(インヴィディア)(いや)したい。エミリア様の遺志を、民への愛を、共に叶えましょう」

「リシア、セレナ……私の嫉妬(インヴィディア)が、あなたたちに届いたのね……」


「クラウディア様、嫉妬を癒すのは、絆です。グリーンヴァイン領を、民と共に築き直しましょう。アルヴィン様の理想も、共に叶えるわ」

クラウディアは小さく笑う。

「リシア、あなたの風は、私の嫉妬を静めたわ。セレナ、私のそばにいて」


 リシアは驚き、クラウディアを見つめる。

「クラウディア様、それは……?」

 クラウディアは微笑む。

「リシア、あなたの戦いは、ただの勝利じゃないわ。私の心に、ほんの少し、風を吹かせたのよ」


 クラウディアはセレナを連れ、森を去る。

 リシアはレイピアを光に溶かし、アルヴィンを見やる。

 彼の首の(スティグマ)は、嫉妬(インヴィディア)の新たな重さを物語っていた。


 ---


 馬車でシルヴァーナ領に戻る途中、リシアは言う。

「アルヴィン様、クラウディア様の領地では、貧富の格差が民を苦しめています。私たちの領地も、貴族の腐敗を正さなければ、同じ苦しみを生むかも……」


 アルヴィンは苛立つ。

「リシア、民の不満など、覇権に無意味だ! お前は戦えばいい!」

 リシアは静かに(うなず)く。

「はい、アルヴィン様」

 だが、彼女の心は揺れていた。

 クラウディアの変化は、カルマと向き合うことの意味を示していた。

 アルヴィンの傲慢(スーペルビア)憤怒(イーラ)、そして新たに加わった嫉妬(インヴィディア)――リシアは、全てを背負う覚悟を新たにする。


 レイピアに刻まれた鎖の紋様を、リシアはそっと感じる。

 シルフィードは、アルヴィンとの絆の証だ。

 次の戦いで、どんなカルマと向き合うのか。

 リシアの碧い瞳(アジュア・アイズ)は、決意と不安に揺れながら、未来を見つめていた。

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