絆の絶望――鏡の裂き子と奈落の呑神との戦い
ヴァンデル砦の最奥。
巨大な水晶の柱がそびえる闇の聖堂に足を踏み入れたリシア・シルヴァーナは、胸の七つのカルマ――傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲――の痣が焼けるように脈打つのを感じた。
アルヴィン・シルヴァーナの存在がすぐそこにあるが、二つの強烈な気配
――ねじれた嫉妬と底なしの飢餓――が一行を包む。
シルフィードの刃には、炎、鎖、砂時計、金貨、牙、薔薇、王冠の七つの紋様が輝き、戦乙女たちの絆がその力を増していた。
リシアは戦乙女たち
――セレナ、ティナ、レイラ、ミリア、エリナ、マリカ――
とロードたち
――クラウディア、ガルド、ルーカス、ソフィア、バルクレイド、エリオット――
を見やり、決意を固める。
「皆の絆でここまで来た。レオニスとアルセリアを倒した今、アルヴィン様を救うため、最後の試練を乗り越えるわ!」
クラウディア・グリーンヴァインが鎖を握り、静かに言う。
「リシア、この気配…嫉妬よ。私のカルマと同じ、だが…あまりにも歪んでいる。」
セレナが戦斧「チェインリーパー・トゥームブレイカー」を構え、「クラウディア様、私たちがこの嫉妬を断ち切ります!」と応じる。
バルクレイド・クロウが鎌を振り、笑う。
「ハッ! もう一つ、暴食の気配だ。俺のカルマと共鳴してるぜ!」
レイラが鎌「グルトニクス・ルシファリアン」を握り、「バルクレイド様、私の刃であなたの力を届けます!」
リシアの胸の痣が共鳴し、シルフィードの鎖と牙の紋様が輝く。
「嫉妬と暴食…円環の理では、傲慢が嫉妬に強く、強欲が暴食に強い。ガルド様の憤怒、ルーカス様の怠惰、私の傲慢…これまでの戦いでわかった相性を活かすわ!」彼女は過去の戦いを振り返り、戦略を立てる。
「クラウディア様、セレナさん、嫉妬を。私とソフィア様、ティナさんで暴食を抑える! 皆、連携よ!」
聖堂の空気が歪み、水晶の柱が鏡のように輝く。
床から巨大な牙が突き出し、空間を喰らうような波動が広がる。霧の中から二つの姿が現れる。
鏡のような装束に身を包み、鎖付きの短剣「ミラーブレイカー」を握る女――その瞳は嫉妬の闇に輝き、額に鎖型の痣が浮かぶ。
「私は嫉妬の騎士、鏡の裂き子エレミア・ジェラルディーネ。あなたのすべてを、私のものにしたいの…。」彼女の声は怨念に満ち、鏡が一行の姿を歪めて映す。
その隣には、巨大な鉄の顎のような鎧をまとい、大槌「アビスクランチャー」を握る巨漢――その瞳は暴食食の飢えに燃え、額に牙型の痣が浮かぶ。
「我は暴食の騎士、奈落の呑神ゴルザ・デヴァリオン。飢えは止まらぬ。魂ごと、喰らわせろ!」彼の咆哮が聖堂を震わせる。
エレミアの短剣が鎖を伸ばし、クラウディアとセレナを狙う。
鏡に映ったクラウディアの姿が歪み、彼女の心を揺さぶる。
「エミリア…お前が…?」クラウディアが動揺するが、セレナが戦斧を振り、「クラウディア様、幻です! 私の鎖で断ち切る!」鎖と炎の「チェインブレイズ」がエレミアの鎖を弾く。
同時に、ゴルザの大槌が地面を叩き、空間を喰らう波動がソフィアとティナを襲う。
ソフィアが金の光を放ち、「ゴールドウェル・バースト」で波動を押し返す。
「ゴルザ、私の強欲であなたの飢えを抑えるわ!」ティナが双短剣で動き、「グリードスラッシュ」でゴルザの鎧を狙う。
リシアがシルフィードを振り、「シルフィード・クラウン」でエレミアの鏡を切り裂く。
「クラウディア様、嫉妬は私の傲慢で抑える! ソフィア様、暴食を!」一行は円環の理を活かし、優位に戦う。
ガルドが拳を握り、「俺の憤怒で援護するぜ!」と炎の拳撃を放つ。
だが、突然、聖堂に白い光が閃く。
手足に銀の手甲、膝当てを身に着けて武装を強化した戦聖騎士リュシエル・ナクティアが現れる。
彼女の大太刀「ヴァルグリス・ディバイン」には七つのカルマの紋様が輝き、リシアと同じ力を持つ。
「愚かな者たちよ。カルマの円環など、私の前では無意味だ。『罪を喰らう魔の炎』」
リュシエルの剣が振られ、七つのカルマが混ざった攻撃が戦乙女たちを襲う。
セレナの戦斧は憤怒に弱い怠惰の波に弾かれ、ティナの双短剣は強欲に弱い色欲の光に押しつぶされる。
リシアがシルフィードで防ぐが、リュシエルの攻撃は各戦乙女の苦手なカルマを的確に突く。
「この力…! リュシエル、あなたもすべてのカルマを…!」
戦乙女たちはロードを守るため防御に徹する。
セレナがクラウディアを、ティナがソフィアを、レイラがバルクレイドを庇い、攻撃を耐える。
だが、リュシエルの猛攻に押され、聖堂の壁が崩れ始める。
エレミアの鏡が戦乙女たちの心を揺さぶり、ゴルザの波動が絆を喰らおうとする。
その時、暗い笑い声が響く。
ギルバート・ヴァンデル=アークノスが聖堂の奥から現れる。
「お前たちの欠点はそこだ。ロードを守るため、己を犠牲にする。その忠誠が、貴様らを縛る鎖だ!」彼の声は冷たく、七つのカルマの力が渦巻く。
リシアが叫ぶ。「ギルバート! あなたは何を企むの? 百年も前の亡魂が、なぜ今現れる!?」
ガルドが拳を握り、「てめえ、アルヴィンをどうする気だ! 答えろ!」
クラウディアが鎖を振り、「エミリアの仇…何のためにこんなことを!」と叫ぶ。
ロードたちが一斉に問うが、ギルバートは嘲笑する。
「ヴァルグリス・聖域の完成だ。
私は待っていたのだ…カルマの集約と集結と収束を!
ロード達にカルマの呪いがかかる様に様々な手立てを遣って暗躍してきた。
時には民衆を扇動し、時には対抗貴族をそそのかし、時には自ら手を下しお前たちロードの覚醒を促してきた…ハハハ…見事にすべてのカルマが揃った。
この罪深きカルマの力は一人の人間で制御することなど無理だ…だが、お前たちは私の想像を超えて戦乙女のシステムを使って絆という目には見えない力で支えてここまで来た。
これは驚嘆すべきことだ…だが、脆い!偉大なる王者の資格を持つ者が全てを手にして支配し、完全なる統一された世の中を実現することが、永遠の安寧の世を作るのだ。」
「何という傲慢!何という強欲…人間は一人一人が個性をもって生きて社会を構成し、お互いが繋がり合って生きてゆくことこそに意味があるはず。一人の意志が支配する構造などあってはなりません!」
リシアはアルヴィンの慈愛と覚悟、そして信頼の絆を胸に抱き反論する。
「人々は自己の幸福を求めて他人を犠牲にし、他人を押しのけて求め、他人を糧にして生き、他人を辱めて安心し、他人から奪って納得し、他人を支配して生きる欲望に駆られて生きている。お前たちは仲良しごっこで悦に入っている様だが、互いを利用してここまでやって来たのだ…」
「お前は少し黙ってろクソジジイ…墓から這い出てきて何を戯言ほざいていやがる」
バルクレイドが前に出る。
「長生きしすぎて脳みそが腐っているんじゃねぇのか?…おまえだってここまでに俺たちが倒してきた堕騎士たちを頼って邪魔をするような姑息なことをしやがって…そこに立っている戦聖騎士とやらもお前が支配しているのかもしれんが、お前の力そのものじゃない!」
「まったく、乱暴な話には強調しかねるが、私もそう思うよ。怠惰に支配されても、正義を失ったわけじゃない…ギルバート卿、それは思い上がりで、力に溺れた只の我儘だ」とルーカス。
「我が掌で踊る駒が…もっともらしい反論を述べている様だが、滑稽だな。増幅してカルマの力を届けてくれた功労に免じて赦してやろう…持たざる者たちよ」
「あら、図星を突かれて話題を逸らすつもり?」クラウディアが「緑眼の怨嗟」の元に挑発する。
「嫉妬の炎に身を焦がし、双子の魂を追い求める哀れな娘よ…お前を支える力の源を与えたのは私なのだよ」
「他人の感情を負の世界に引きずり込んで貪る悪徳の亡霊よ…お前の存在は赦されない」
ソフィアが強欲の怒りを纏わせて語る。
「いいぞ、お前たち…その湧き上がるカルマの力とアルヴィンの七つのカルマで、エリュシオンを我が手に!」
リシアたちが絶体絶命に追い込まれる中、彼女の胸の痣が焼けるように痛む。
「アルヴィン様…まだ生きてる…!」シルフィードが輝き、絆の力が一行を繋ぐ。
リシアが叫ぶ。「ギルバート、リュシエル! どんな力も、私たちの絆を壊せない! 円環の理で、必ず勝つ!」
クラウディアが鎖を振り、「セレナ、今よ!」セレナの戦斧がエレミアの鏡を砕く。
ソフィアが金の光を放ち、「ティナ、ゴルザを!」ティナの双短剣がゴルザの痣を貫く。
リシアがシルフィードを振り、「クラウン・テンペスト」でリュシエルの剣を押し返す。
だが、リュシエルのカルマが再び襲い、一行は膝をつく。
エレミアが呟く。「私の嫉妬…終わった…?」ゴルザが吼える。
「飢え…満たされた…?」二人の身体が鏡と牙の粒子となり消える。
リュシエルとギルバートの圧倒的な力が残る。
「素晴らしいな…お前たちは本当によくやってくれる…アルヴィンは己が魂に全てのカルマを宿して一人の人間としての限界を超えた器を成しているが、崩壊していない私に屈しない…そのあり得ない力の根幹を支えるのがお前たちとの絆という訳か…」
ギルバートが手を掲げると、水晶の柱に支えられた後ろの壁に亀裂がはいり、巨大なオーブが中から現れる。
その中に七色の混沌が渦巻くが、その中心に浮かぶのはアルヴィン・シルヴァーナその人であった。
「この男のしぶとさも、ここでお前たちロードの結束まとめて粉砕し我が力に変えて支配し、永続なるカルマの力の根源に変えて私がこの世の中の真の王として、安定と安寧と安楽の世界に変えて幸せに支配してくれるわ…」
「アルヴィン様!!」リシアはシルフィードを握り、立ち上がる。
「皆、絆を信じて! アルヴィン様を救うため、最後まで戦うわ!」
一行の目には決意が宿り、ギルバートの闇に立ち向かう。




